葦切が帰宅すると、さくらはソファで横になってウトウトしていた。
「・・さくらさん、風邪引きますよ、」
そっと彼女を起こした。
「・・ん? あ・・寝てた・・。 お帰りなさい、」
顔色が悪かった。
「気分、悪いんですか?」
「昼間少し気持ちが悪くなって。 なんとかレッスンはしたんですけど・・」
見るからに具合が悪そうだった。
「今。 奏くんに会ってきましたよ、」
葦切はさくらの肩にそっと手をやった。
「え・・・」
「大丈夫。 元気でしたよ、」
そして彼女を安心させるように微笑んだ。
「は・・? カラオケ??」
「とにかく。 すごい本の量で。 大学の授業に使うような本もありました。 音楽史から・・ベートーヴェンの旋律の分析も。 神宮寺先生が基礎から教えて下さっているようでした。 で。 カラオケは感情を思い切り出す練習だそうです、」
葦切はさくらにあたたかいポタージュスープを運んできた。
「・・・・」
さくらは無言になってしまった。
「それで、」
ポケットからスマホを出して、操作をした。
葦切が撮ってきた動画に奏の姿が映る。
「・・奏、」
さくらは思わずそれを手に取った。
『先生。 心配しないでください。 大丈夫です。 神宮寺さんはとても厳しいですけど、ものすごく深くまで音楽をぼくに教えて下さっています。待っていて下さい。』
笑顔の奏が映し出されていた。
「いくらぼくが言っても。 奏くんの姿を見ないとさくらさんが安心をしないと思って、」
葦切は苦笑いをした。
「・・奏、」
さくらは妊娠してからどうも涙腺がゆるゆるになってしまったようで、これだけで涙ぐんでしまった。
今生の別れでもなんでもないのに。
いきなりさらわれてしまったようで、この動揺具合には自分でも驚いた。
奏の姿を見てはらはらと涙をこぼすさくらを見て、葦切は優しく彼女の背中に手をやった。
「・・なんかもう・・自分の子でもないのにバカみたいって、思うんですけど。」
恥ずかしそうに言うさくらに
「あと4日です。 すぐに帰ってきます、」
葦切はそう励ました。
いわゆる
『なさぬ仲』のはずの奏の存在は、さくらにとって本当に複雑であったことは想像できる。
彼女の深い心の傷をいやしたのは間違いなく奏で、彼の存在があったから
彼女をどん底から救うことができたのではないかと思う。
ウィーンへの短期留学の時は、彼女なりに割り切っていたのだろうけれど
突然奪われたような形になり、妊娠してとてもナーバスになっているさくらにかなりのストレスを与えたようだった。
葦切はそっと彼女の頭を抱き寄せた。
奏の動画を見て、ようやくさくらは落ち着きます・・
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