そのまま成は事務所に向かった。
「え、どしたの? 今日はみんなでお食事じゃなかったの?」
仕事で来ていたさくらは驚いた。
「ちょっと明日忙しいから。」
と、デスクに座った。
あれから
酒も飲む気になれず、ほとんどシラフだった。
彼のブスっとした雰囲気を察してさくらは黙ってしまった。
いつも機嫌がいい彼のこういう顔は珍しい。
設楽の事務所にいた頃は、設楽がどんな無茶なことになっても
まあ、大丈夫。
これ以上最悪にはならないだろうから。
と、笑顔で安心させてくれた。
そして思い出したようにポケットから名刺を取り出し
「今日。 神崎税理士事務所の担当の人も一緒だったから。 これ、名刺。」
さくらに手渡した。
「え? あ、そうなの? ・・女性なのね、」
「まひると同い年だって。 親父の先輩の娘とか言ってた。 3月から神崎で働いてるんだって、」
そう言いながらパソコンを開いた。
「ふーん・・」
その後、シンとした事務所の中、成が叩くキーボードの音だけが響いた。
「・・親父が。 あからさまにその先生とおれをくっつけようと思っちゃっててさ、」
いきなりそんなことを言い出した彼に
「え、」
ぎょっとした。
「小野塚の伯父さんは、ばあちゃんの遺影とか持って来るし、親父は半ば見合いみたいなことさせようとするし。 ほんっと。 だから行くのが嫌だったんだ、」
Enterキーを親の仇のようにパン!と叩いた。
「・・大変なんだね・・」
もうそれしか言えない。
「腹立つけど。 みんな自分勝手だって思うけど。 まあ・・ジジババたちも縋るものがないんだなって・・思うと。 しゃあねえなあって気もするし。」
おれの取り合い
なんて言ってた時は笑っちゃったけど。
両家の期待が全部彼の肩にのしかかっているのかと思うと、気の毒な気もする。
「ナルは。 頼りになるもんね。 お父さんたちの気持ちは・・ちょっとわかるよ、」
さくらは静かにそう言った。
「今更だけど。 ホントにうちに来てもらって良かったの?」
そう問いかけると、ふっと笑って
「後悔など。 あろうはずもない。 ピアノ弾きのバイトして、ウチの事務所でたまに手伝って・・の生活でいいわけないってずっと思ってた。 両親はこのまま税理士の資格とってくれないかって思ってたみたいだけど。 やっぱ。 音楽の仕事が好きなんだよね。 設楽さんの事務所辞めたあと・・同じような仕事に就けなかったわけでもないけど、なんだかちょっとガックリきちゃって。 そういう気持ちになれなかった。 でも・・さくらと再会して・・うん、さくらのところならいいかなってようやくそう思えた、」
いつもの彼になった。
「ナル、」
「やっぱ。 仕事ってやりがいだよなってつくづく思うよ。 それにお金がついてくれば言うことないけどー・・。 でも、好きな仕事でたくさんお金を稼ぐことは大変だからね。 苦しいことの方が多いからね。 おれは頑張り屋でもなんでもないから。 このくらいがちょうどいい、」
仕事に戻った。
成の思いにさくらは複雑な気持ちを抱きます・・
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