盲導犬候補生アーシー(仮名)を
ワクチン接種のため
獣医さんに連れて行くの巻、続編。
本日の担当医さんは例の
無表情だが腕はいい、そして多分
基本的に犬がお好きなあの先生。
無事にワクチン接種を済ませ
「他に気になる点は何か?」
「えーと、この子、そろそろ
発情期な気がするんですがどうでしょう」
獣医さんはアーシーの後ろ肢の間の
問題の部位をじっと見つめて
「・・・時期が近付いている感じですね。
軽い腫れが見られます」
「ああ、やっぱり腫れは出ているんですね」
「出ています。ところで
この子は最初の発情期を終えたら
避妊手術の予定ですよね」
「はい。盲導犬協会から
そう言われています」
「では本日、帰る前に
当院の外科室と患畜用入院施設に
アーシーを連れて行きましょう。
将来手術を受ける場所を
前もって経験させておくことで
手術当日のストレス軽減に
つながりますから。ほんの
2、3分のことですが、犬のために、是非」
先生、お気遣いありがとうございます。
「それは本当にありがたいお申し出です。
是非お願いします。えーと、じゃあ先生の後を
私がリードを持って付いて行くんでいいですか」
こちらの先生は基本的に無表情。
しかし何故かこの私の言葉で
先生の口角は
微妙に下がったのでございます。
え、先生、私、何か悪いことを言いました?
「・・・では外科室の様子を
見てきますので少々お待ちください」
は、はあ。
診察室の『関係者用出入り口』から
外に出て行った先生を待つことしばし、
帰っていらしたドクターは
「確認したところ、外科室では
現在手術が続行中でした。
ああいう状態のところに外部の方を
入れるのはちょっと問題がありますので、
私が外科室の扉の所までと
入院施設の中に
アーシーを連れて行きましょう。
私が連れて行きましょう。
さあ、私にリードを。さあ、さあ」
・・・先生は本当に長期的見地に立って
アーシーに経験を
積ませようとしてくださっているのか、
それとも単にアーシーの引き綱を持って
そこらへんを歩いてみたいと
考えていらっしゃるのか・・・
いやいやいや!
相手はプロフェッショナル、
私ったらもう、そういう卑小な視点で
物事を理解しようとしてはいけません!
ではお願いします、とリードを先生に渡すと
・・・ドクター、あなた、微笑もうと思えば
微笑むことができるんですね・・・
「ではアーシー、一緒に来なさい」
「あのドクター、
私はその間どこにいれば・・・」
「え?あなた?えーと、適当に・・・
別にどこでも・・・じゃあ待合室でお待ちください」
はい。
3分後、待合室の奥の
『入院患畜用出入り口』から
アーシーとともに姿を現した先生は
妙に満足げな表情をなさっていたのでした。
「アーシーはうちの入院施設が好きなようです」
「は、はあ、そうですか」
「外科室もですね、
一度中を見せてあげたいので・・・
散歩のついでに足を運んでください。
うまく時間が合えば中に入れてあげられます。
受付に言ってくれれば大丈夫です」
いや先生、なんだか
本当にありがとうございます。
あらためてお礼を申し上げると
先生はまた私の顔はまったく見ておらず
ひたすらアーシーのことを凝視していて
「ではアーシー、さようなら。
診察室で君はとてもいい子だったよ。またね」
・・・いかん、私はこの先生の
無表情な顔つきと奇妙な人柄が
なんだか癖になってきた・・・!
ところでアーシーは最近頻尿気味。
頻尿も発情期の前駆症状の一つなのですが
「念のため尿検査をしましょう」
とのことで私はなんと
犬の採尿を試みることになったのです。
待て、次回!
君は口角を下げているより
笑っている時のほうが可愛いよ
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