友人夫妻が子供を連れて

遊びに来てくれました。

 

男の子2人兄弟なのですが

このお兄ちゃんのほうが

犬嫌い、というか犬が怖い子で。

 

聞くと3歳くらいの時に浜辺で

リードのついていない大犬に

のし掛かられてしまった

不幸な経験を持つそうで、

でも本人としては

「犬は嫌いじゃない。好き。

将来は飼いたい。でも今は

あんまりそばに寄りたくない」

みたいな気持ちである様子。

 

さてそうなると滞在期間中

我が家の盲導犬候補生

アーシー(仮名)をどうするか。

 

「息子さんが犬に慣れるまでは

基本台所から

外に出さないようにしよう」

 

私の言葉に友人夫妻は

「大丈夫よ、

そこまでしてくれなくとも」

 

が、肝心の本人8歳は

「ありがとうございます、

犬はしばらく台所に

入れておいてください」

 

よーし、アーシー、台所待機だ!

 

ところがここに伏兵というか

現場の状況をわかっていなかった

能天気男が約一名存在しておりまして、

わが夫(英国人)、

お客に飲み物を出す時に

「あ、ついうっかり」で

台所のドアを全開してしまい、

もちろんわが黄色大犬が

この隙を見逃すはずはなく、

次の瞬間、お客様ご一家が寛ぐ

今に全速力で突貫した弾丸雌犬、

当然のごとく響き渡る少年の悲鳴

・・・夫よ、お前と言う男は!

 

身内をかばう訳じゃないんですが

夫は悪意を持ってわざと犬を

台所から出したのではないんです。

 

ただ本当に

気が緩んでいたというか

少年の犬への恐怖を

甘く見ていたというか、

しかし私が

この世で最も唾棄するのは

そういうぬるい考え方

駄目犬飼いなんだよ!

 

とりあえず私は即座に犬の後を追い

首輪をひっつかんで台所に連行。

 

ついでに夫のことも台所に連れ戻し

「お前な、どういう軽挙だよ!

私は今本気で

君に対して怒っているぞ!」

 

「で、でもあれは、

僕の意図した結果じゃなくて」

 

「当たり前だよ!意図して

あんなことをしたなら

心底お前を軽蔑するわ!

私が汚い言葉を使う人間だったら

さっきからFワードを

連発しているところだぞ!

恥を知れ恥を!あれは

絶対にやっちゃいけないことだ!

少年との間の約束、信頼を

お前は一瞬にして損なったんだぞ!

犬を台所から出さない、という

我々の言葉を少年は

信じていたんだぞ、そこに何だ!

見損なった、私は君を見損なった!」

 

「で、でも、犬は別に少年に

噛みついたりはしませんでしたし」

 

「そういう問題じゃないんだよ!

犬が怖い人間にとっては

犬がそばに来ること自体が

恐怖なんだ、そんなことも知らんのか!

いいから来い、少年に謝れ!」

 

台所から居間に戻ると

少年は必死に

涙を止めようとしているところで

もうそんな光景を見てしまうと

私は本当にどう謝罪すれば

いいのかわからないくらいで

「ごめん、本当にごめんね、

全部我々が悪い、犬は台所に

入れておくと約束して

君はそれを信じてくれたのに、

信頼を裏切ってしまって

本当にごめん、もうあんなことは

二度と起きないようにするから、

本当の本当にごめんね」

 

私はね、誰かにあんなに

心から謝罪したのは

本当に数年ぶりでしたよ!

 

下手したら数十年ぶりでしたよ!

 

ごめんごめんと繰り返す私に

男の子はまだ少ししゃくり上げながらも

「ううん、大丈夫、あのね、僕は

犬が嫌いじゃないんだよ、でも

これは僕、ちょっとびっくりして」

 

・・・齢9歳の男の子にとって

遊びに行った先でついうっかり

恐怖のあまり泣き出してしまうことが

どれほどの恥ずかしさを伴うことか、

そして『泣き止めない』自分に

どれほどの不甲斐なさを

感じてしまうものか、私はね、

もはや中年の域に達した

枯れてカサカサの人間だけどね、

その気持ち、忘れていないよ!

 

そして私はもう大人だから

そういう場合の対応策を知っている、

それは自分の感情を高ぶらせた

物事・対象から『気をそらす』こと!

 

「少年!君は鉄棒を見たことある?」

 

「て、鉄棒?」

 

「そう!真ん中が空洞になっている

鉄パイプじゃなくて、中にもみっちり

鉄が詰まっている本物の鉄棒!」

 

「よくわかんないけど

たぶん見たことない、たぶん」

 

「じゃあ見せてあげる!待ってて!

おい、夫、その間にお前は

誠心誠意この子に謝っておけ!」

 

そう言い捨てて私は物置に走り込み

目当ての鉄棒(建築資材)を手に取り

再び居間に走り戻って

「ほら、これが鉄棒!

持ってごらん、すごく重いから!」

 

「・・・本当だ、すごい重い!」

 

「重いでしょ、それに鉄だから

ものすごく硬いでしょ、ね!」

 

「うん!」

 

「これで打(ぶ)たれたら

とても痛いと思わない?」

 

「きっとすごく痛いと思う。

大怪我しちゃうんじゃない?」

 

「大怪我どころじゃ済まないよ、

打ち所が悪かったら。じゃあ

試してみようか、ほら、そこにいる

私の夫、ゴメス(仮名)を

これで殴っていいよ!」

 

「・・・えっ?」

 

「もうね、思いきり振りかぶって

ガツンと1発、いや2発くらいは・・・

だってゴメスは悪いことをしたからね、

約束を破って君を驚かせたんだから

痛い目を少し見るがいいんだよ、

あ、棒が重すぎるなら

私が後ろから補助しようか」

 

「・・・い、いいよNorizoさん、

こんな棒で打ったらゴメスさん

きっと骨が折れちゃうよ。

そんなことしたくないよ」

 

「君はなんていい子なんだろう!

感動した!Norizoさんは感動した!

本当にいい子だなあ、じゃあ

鉄棒のことは忘れて庭で遊ぶ?」

 

「うん!僕、庭で遊ぶよ!」

 

なおこの後も私は

夫と二人きりになる機会を得ると

これでもかとばかりに

ネチネチと夫を責め続け

「勘弁してください。僕はもう

心から反省しているので

本当にどうか許してください」

 

「反省だけならサルでも出来るわ。

もう少し絞っておかないと君はまた

同じ過ちを繰り返しそうな気配だ」

 

「そんなことはありません、

僕は自分の愚かさを痛感しました。

もう二度とあんなことはしません」

 

「まあそういうなら・・・」

 

「ところであの鉄棒の件ですけど、

あれ、君まさか本気で少年に

僕を殴らせようとしたんですか」

 

「まさか」

 

「・・・あそこで少年が

僕のことを殴ろうとしたら

どうするつもりだったんですか」

 

「適当なことを言って

君を逃がしてやったよ」

 

「・・・」

 

「あるいは少年を補助する

フリをして急所を避けるとか・・・」

 

「・・・知っていますか?

君って時々恐ろしいですよ」

 

「成程、それはよかった、

その恐ろしさを忘れるな、

少年は同じくらい、いやもっと

犬のことが怖かったんだからな」

 

なおこの一件の後

少年が私に懐いたのは

当然ではあるのですが

何故かそれ以上に

少年はうちの夫のことを

気に入ってしまい

「・・・うちの子、ゴメスの

金魚のフンっていうか

影みたいになっていない?」

とご両親が首を傾げるほどに

夫のことを慕ってしまい

・・・吊り橋効果・・・ですかね?

 

しかし世の犬飼いの皆様、

犬嫌いおよび犬恐怖症の方々には

誠実に対処しましょうぞ!

 

世の中本気でも冗談でも

うっかりでも絶対にやっちゃ

いけないことってのはあるんですぜ!

 

アーシーは現在も

台所を潜伏拠点としております。

 

 

 

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大犬はちょっと、なあなたも

犬が怖いという

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