そんなわけで

実質的にロックダウン(封鎖)が

実施されている英国は

スコットランドでスーパーに

生活必需品を買いに

行った時(昨日)の話の続き。

 

店内の品揃えの良さと

秩序だった人の動きに

感動した私は

レジで袋詰めをしながら

「いや、あの入口での

入場人数規制は

いいアイディアですね」

 

(レジの人に自分の

息がかからないよう

明後日の方向を見つめつつ)

 

(場合が場合なら

単なる危ない人ですよ本当)

 

するとレジ係のお姉さんが

「あれね、朝の開店の時に

店内が混み過ぎたから

慌てて始めたんですよ」

 

(お姉さんも私のいる位置の

反対側の方向を眺めながら)

 

(気分は舞台劇)

 

「えっ、開店直後から

ああしていたんじゃないんですか」

 

「違うんです。開店直後は

レジのところに

行列ができてしまって。

カートを持った人が

各レジに5人くらい

並んじゃったかな」

 

「ああ、それはよくないですね。

でもそうなんですか、

私は自分のことを

『朝早くに買い物に来た人』と

認識していたんですが

(その時点で午前9時半くらい)

私は実は出足が遅かったんですね」

 

「お客さんは『遅くに来た人』ですよ。

開店時間は8時で、その時はもう・・・

まあ実際コロナ騒ぎが始まってから

『今日は暇ねえ』みたいな日は

1日も、いえ、1分だってないですけど」

 

そんなわけで

急遽実施されていたという

こちらのお店の入場人数制限ですが

・・・段取りをしっかり踏んで

いなかったというのもあるのでしょう、

正直発想はよかったんですけど

実行力がそれに

伴っていない面もありました。

 

どういうことかと申しますと、

私がお店の入り口に到着した時

そこには10人くらいの人が

それぞれ距離を取りつつも

こう『わだかまって』いたのです。

 

で、その目線の先に

スーパーの制服を着た

青年が立っていて

入り口のドアを背にして

顔をこちらに向け何か説明している。

 

あ、これは入場制限を

しているんだな、と察した私は

カート置き場からカートを取ると

その『わだかまり』の後方に移動し

自分の順番が来るのを待ちました。

 

そこまでは問題なかったんですが、

この制服を着た青年が突然

我々に何の説明もなくするっと

店内に入ってしまって、

それでも当然我々は

そのまま素直にその場に

とどまっていたのでございますが、

青年がその場から姿を消した後に

スーパーにやって来た人たちは

お店の前に立っている我々を

怪訝そうな顔で見ると

そのままスタスタと入店していく。

 

こ、これは・・・

 

『わだかまり』からはそうなると

どうしても不満の声が出てしまい

「なあ、もうこうしているうちに

店内から客が5人は出たぜ。

先頭の5人、店に入っちゃえよ」

「いやでも、さっきのお兄さんは

『僕がいいと言うまで入店

しないでください』って言っていたし」

「そのお兄さんは店内で仲間と

無駄話をしているじゃねえか、

入っちゃえよ、待つだけ損だよ」

 

ああ・・・

 

私はこういうの、

あんまり好きじゃない・・・

 

思わず地面を見ていたらそこに

制服のお兄さんが戻って来て、

すると先ほどから

不満を口にしていた人たちが

「なあ!なんかさっきから

勝手に店に入っていく人がいるけど!」

 

お兄さんはよく言えば柔和、

悪く言えばへなちょこな笑顔

こうした言葉を受け流し、というか

聞こえないフリをして

「お待たせしました。

お待ちになっている方、

先頭の10名様お入りください」

 

では、と集団が前に進むと

間の悪いことに私の目の前で

入り口のゲートが閉じられて

「お客様から後ろの方は

次のご入場となります」

 

あ、そうですか、と立ち止まった

私の背後からちょっと

イライラした野太い感じの声が

「おい!今、店内に

入っていった連中より

その女の人(私のこと)は

長く入場を待っていたよ!

その人のことは入れてやれよ!

客に行列を作らせといて

行列に並ばない奴から

先に入店させるってな

道理に合っていねえだろ!」

 

へなちょこ笑顔を

顔面に張り付かせつつ

少し動揺した目つきで

私のことを見つめるお兄さん。

 

う・・・!

 

私のこの立場、

結構難しくありません・・・?

 

このお兄さんの段取りは確かに悪い、

私が彼の上司だったら改善を

早急に支持すること間違いなし、

でも彼は私の部下じゃないし、

そして背後でイラついている男性、

男性の気持ちもよくわかる、

でもこういう状態でそう簡単に

イライラした声を出しちゃうのも

良き市民としてはほら、ねえ。

 

ここは場を取りなすしかない!と

私はあえて笑顔でへなちょこ青年に

「大丈夫、私は次の回を待ちます、

でもあちらの殿方が

言っていることも正しいです、

あなたがこの場を離れている間に

順番を待たずに入店していく人が

かなりいましたよ、

気が付いていたでしょう?」

 

青年は笑顔をひきつらせながら

「・・・いえ、僕は

気が付きませんでしたねえ」

 

おい、そこのへなちょこ、

それは最悪手だぞ!

 

案の定私の背後の殿方は

「おいおいおい、そういう連中が

さっき無駄話をしていたお前の横を

どんどん通り過ぎて行っただろ、

それを何だ、気が付かなかっただあ?」

 

振り返ってみるとこちらの殿方、

シャツの袖から出ている二の腕は

あくまで太く入れ墨まみれ

・・・腕だけでなく体全体も

割といい感じに筋肉質で

またさらに上背もあって・・・

 

へなちょこ君に視線を戻すと

彼も同じことに気が付いたのか

ちょっと顔が青くなっておりまして、

これはもう下手をすると

彼だけでは収拾できない事態が

起きてしまう可能性が高い。

 

そして私は今そういう面倒に

巻き込まれたくはない。

 

ええい、もう仕方ない!と

私はとっておきの快活な笑顔と声で

「あのね、お兄さん、行列は

作るのにコツがあるんですよ!

それで私はそういうの

大得意なんです!つまりですね、

アナタがここで入場人数を

制限しますよね、で、

扉を閉めたらその時点で

外にいる人にこう言うんです

(お兄さんと一緒に

お店の扉を背にする形で

他の人たちにむかって大きな声で)

皆様ご協力ありがとうございます!

列を作っていただいております!

こちらが列の先頭です!ここから

あちらの角に向かって

1列にお並びください!」

 

私の突然の奇行と勢いに押され

素直に列を構築し始める人々

(イライラ殿方も

ちょっと驚いた顔をしつつ

黙って列になってくれた)を

確認したうえで私は

へなちょこお兄さんを振り返り

「ね、こうすれば簡単でしょう。

大きな声を出すのが嫌なら

目立つ色のテープか何かで

入り口からあっちの角に向かって

印をつけておくといいですよ、

そうしたら後から来た人も

『並ばなくちゃいけないんだ』って

気が付きます。テープはありますか?」

 

よし認めましょう、私の行動は

その外見だけを見たら

確かに空気の読めない

世話好きで押しつけがましい

『おばさん』特有のそれに近い、

でも私の行動原理が

より善き精神に基づいていたこと、

ララァならわかってくれたよね?

 

・・・でもこの青年は

わかってくれなかった!

 

へなちょこ君、奇人を見る目

私のことを一瞥すると

またそそくさと店内に戻り・・・

 

おい、だからせめて店内に戻るなよ!

 

入れ墨殿方が怒っちゃうぞ!

 

しかし入れ墨氏はこの時点で

いい具合に毒気が抜けていたらしく

私と視線が合うとにやりと笑って

「まあ落ち着けよ、次にドアが開いたら

アンタは間違いなく

一番最初に入店できるよ」

 

「いや・・・私はその、こういう場面で

公平性をいかにして維持するか、

という・・・お店の人もどうしてもっと

積極的に行列をコントロール

しないんでしょうね、私はそういうの

本当に上手だから、やっていいなら

私が代わりにやりたいくらいです。

私の仕事じゃないのでやりませんけど」

 

「・・・まあ店が開いているだけで

今は感謝しないといけないしな」

 

思わず『お前がそれを言うか』

みたいな表情を私がしたことに

気が付いたのでしょう、

入れ墨氏はちょっと居心地悪そうに

体をもぞもぞすると続けて

「・・・知っているか?あっちの

ショッピングモール、全館休業だぜ」

 

すると入れ墨氏の前にいた

老齢の紳士がその言葉を受けて

「本当かね!あそこには

某高級スーパーの支店も

入っていたろう?

あれも閉まっているのかね?」

 

それからしばらくの間、

我々は和やかに会話を交わし

入店許可が下りるのを待ったのでした。

 

対人距離はしっかり

開けていたのでご安心ください。

 

・・・そんな距離を開けた者同士で

これだけの会話ができている、

つまり私はかなりの大声

この一連の騒ぎを

演じてしまったわけで、

ああ、知っている人があの行列の

後ろのほうにいないといいなあ・・・

 

しかもこうした行動で

気持ちが少々高ぶっていた私は

お店の扉が開かれた時

つい反射的に片手を振り上げ

「よーし皆さん!ヒアウィーゴー!

この困難な状況で

お店を開けてくれた

従業員さんに感謝しながら

買い物しようぜ!

従業員さんありがとうー!」

 

・・・書いていて確信しました、

私はしばらくあのお店には行けない。

 

いくらなんでもヒアウィーゴーはない。

 

いずれにせよ外出禁止令が出ていて

外出頻度は下げないとアカンので

しばらくは買い物にも

出ない予定なんですけどね。

 

お店の外での騒動だから

店内勤務の人たちには

私のアレな行為

露見してはいないはず・・・

 

でもやはりしばらくは行けない・・・

 

コロナ騒ぎのストレスが

こうした形で出てしまったのでしょう。

 

今後気を付けたいと思います。

 

 

気を付けたいとは

心底思っている私なんですが

でもでも女王陛下がおっしゃった

『各人が担うべき重要な役割』を

私はこの時果たしたと思うんです、

つまりは場を和ませる道化として!

 

 

 

 

なお英国ではチャールズ皇太子が

コロナに感染なさったことが発表されました

 

皇太子贔屓のわが夫(英国人)いわく

「あの方は持って生まれた

DNAが頑強でいらっしゃるから

きっときっと大丈夫」

 

さてこのへなちょこ君の

へなちょこ対応に実はちょっと

不満を抱いていた私でしたが

帰宅して夫にこの話をしたところ

「ただ、そういうことって

苦手な人と得意な人が

いますからねえ」

 

「でも仕事なら苦手なことにも

ある程度挑戦しないと駄目だろ」

 

「それはそうですけど、英国は

今こんな状況でしょう。

そのお兄さんはもしかしたら

普段はPCの前に座り込んで

財務管理を専門にしている人かも

しれないじゃないですか。

人と話さなくて済むから

その仕事を選びました、みたいな。

そういう人も顧客対応に

出さなくてはいけないほど

スーパーも追い詰められて

いるのかもしれません。

それでも従業員が一丸となって

必死にお店を開けてくれている。

お兄さんは確かに稚拙です、でも

それがその人の

精一杯だったのかもしれませんよ」

 

・・・確かにな、私もいきなり

「経理が倒れた、

出来る範囲でいいから

エクセルで損益計算書作って」

とか言われたら

そういうのが得意な人には

鼻白まれそうな程度の

仕事しかできない、間違いなく

 

物事は多面的に

見るのが大事ですね

 

・・・きれいにまとめてますけど

奇行は所詮奇行ですよNorizoさん

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