苦しんでいる子どもの気持ちを受け入れることで、はじめて、子どもへのアドバイスが有効になります。子どもが心を開いてくれたなら、親は、子どもの背中を押したり、手助けをしたりできるようになります。(「 第351話)子どもが心を開いてくれたら 」のつづき)
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子どもの気持ちを受け入れる準備ができていたとしも、我が子が自傷行為をしていることを知ったとき、親はショックを受け、動転し、戸惑います。
子どもの気持ちを尊重しなければ……そう思っていても、自傷行為をする我が子の気持ちを尊重することは、容易ではありません。
子どもの苦しみに思いをはせるよりも、「なんとかやめさせたい」という思いが先に立ってしまいます。
親としての自信をなくし、自分を責めます。
子どものリストカットでお母さまから相談を受けたときは、次の3つのことを伝えるようにしています。
1)親の愛がうまく伝わらなかったということはあったかもしれませんが、愛が足りなかったわけではありません。「今のあたたが大好きだよ」を、くり返し伝えてください。
2)「死にたいと思うことはあるかも知れないけど、絶対に行動に移してはいけないよ」を、くり返し伝えてください。
3)リストカットは無理に止めないでください。
リストカットは、一時的に心の苦しみを和らげる作用があるようです。また、痛みを感じたり、血を見ることで、「自分はちゃんと生きているんだ」という実感を感じる子もいるようです。
そういう効果があるとはいえ、リストカットなど、自傷行為をしてしまう子は、「できればやめたい」と思っています。
そればかりか、自傷行為をしたことに、深い罪悪感と後悔を感じます。自傷行為をやめられない自分は、弱い人間、ダメな人間だと、さらなる自己嫌悪に陥ります。
傷痕を見て、「こんな自分は、誰からも見放されるに違いない」という間違った絶望にとらわれ、さらに苦しむという負のスパイラルに陥ります。
それを「ダメ」と止められると、「やっぱり私はダメな子だ」と、自分をもっと責めることになります。
中学生の娘さんがリストカットをしていることを知ったお母さま(Aさん)から、相談を受けました。
お母さま(Aさん)とのメールの一部を紹介します。
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<私から>
「愛する」ということは、「その人の幸せを願う」ということです。苦しむ娘さんを見てAさんの胸が痛むのも、こうして私にメールをくださったのも、娘さんの幸せを願えばこそです。
Aさんご自身が苦しい中、娘さんにうまく愛が伝わらなかったということはあったかも知れませんが、それは決して、愛が足りなかったわけではありません。
そして娘さんも、決して心が弱いわけではありません。誰であれ、傷つけられる環境にいれば、自己肯定感を失ってしまいます。
Aさんが一緒に泣いたら、娘さんは、「ママ泣かないで」と言ってくれたんですよね。それからは、娘さんは、辛いことを話せなくなったんですよね。お母さんを悲しませたくないという、やさしい心があればこそです。そんなやさしい心を持っておられる娘さん、必ず幸せになれます。
リストカットは無理に止めないでください。
本人も、リスカをしたくてしているわけではありません。やむにやまれずしてしまい、した後は、激しい後悔に襲われていることでしょう。それを「ダメ」と止められると、「ダメなことをする自分はやはりダメな子だ」と、自分を責めて、もっと苦しむことになります。
リスカを止めるのではなく、リスカのことに触れないのでもなく、「リスカをしてしまうほど苦しい気持ち」に寄り添ってあげてください。
具体的には、娘さんの気分が良さそうなときに、リスカの話をしてみてください。「リスカをしてるんだってね」と。
そして……
・ごめんね、気づいてあげられなくて
・今は、大丈夫?
・ちゃんと手当をしてる? こんど切ったら、お母さんが手当してあげる
もし、手首の傷を見せてくれたら、何も言わなくていいので、抱きしめてあげてください。その傷痕を、やさしくなでてあげてください。
リスカを止めないと、もっとリスカをしてしまうのではと、不安になります。でも、大丈夫です。リスカを止めないということは、「リスカをしても、あなたを嫌いになったりしないよ」という、親の気持ちを伝えることになります。子どもが最も求めている安心感を与えることになります。
リスカは止めないけれど、「もし切ったら、ちゃんと手当をするんだよ」と伝えてください。手当をするということは、自分を大事にするということです。「あなたのことを大事に思っているよ」ということです。
ただ、このような会話ができるには、ある程度心が通い合っている必要があります。
こんな会話ができる雰囲気ではないなと感じた時は、無理をしないでください。「信じて見守る」「気持ちを認める聴き方」を続けて、娘さんがある程度心を開いてくれるのを、待ってください。
<Aさんより>
みやたさんからいただいたメールの一つひとつが、私のお守りです。
娘がリスカをしてから、私は毎日自分を責め、「私がいない方が、この子は幸せなんじゃないか」と思って……
朝、目覚めるたびに、死にたいと思っていました。
メールを読ませていただいて、あの子の母親は私でいいんだって思えました。もう一度母親をやり直そう……そう思えて、涙が止まりません。
メールをいただいてから、「リストカットをやめなさい」と言うのをやめました。
そして、「リスカをやめられないあなたの事も、ママは嫌いになったりしないよ」と伝えた時に、いつも顔をこわばらせていたあの子が、涙ぐんでいました。
何かが、少しづつ変わってきました。
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Aさんからのメールに、私も涙がこみ上げてきました。
(第352話 完)
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