ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

アイ・シャル・ビー・リリースト (I Shall Be Released)

2020年05月17日 | 名曲

【Live Information】


 
いまは地元の議員さんとして活躍しているMさん。
もう何十年もお会いしていないのですが、当時は岡山市にあったカントリー&ウエスタン色の強いライブハウス「ハンク」でよくお目にかかっていました。
そのころのMさんは、自営のかたわらカントリー系バンドのボーカルとしても活動していました。
Mさんのレパートリーの中で2曲印象に残っている曲があります。
1曲は、ハンク・ウィリアムス作のノリノリのシャッフル・ナンバー、「ヘイ・グッド・ルッキン」。
そしてもう1曲が、「アイ・シャル・ビー・リリースト」です。
なんとも渋い、まさに珠玉のバラードです。


Mさんが歌う「アイ・シャル・ビー・リリースト」を初めて聴いたとき、ぼくはまだ20歳そこそこくらいだったと思います。
西暦でいうと、1980年代に入ったばかりのころ。
相変わらず貪欲にいろんなレコードを聴きあさってはいましたが、それらは少年・青年向けの、ビートがはっきりしていて、派手な衣装とか、派手な演奏のバンドのものばかりでした。
フォーク・バンドのレコードなんかは、興味本位にひととおり手を出しはしましたが、それ以上聴き込みはしなかったなあ。
 
 
「アイ・シャル・ビー・リリースト」は、ボブ・ディランによって書かれた曲です。
1966年7月にオートバイ事故を起こしたディランは、それをきっかけにニューヨーク州ウッドストックにこもり、ザ・ホークスとともにデモテープの制作に打ち込みます。この曲はそのときに生まれた作品のひとつなんですね。
ザ・ホークスは1968年にバンド名を「ザ・バンド」に変え、デビュー・アルバム「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」を発表します。
「アイ・シャル・ビー・リリースト」は、そのアルバムのラストを締めくくるナンバーです。
デビュー・アルバムに収められた曲にして、いまやザ・バンドの代表曲といってもいいほど世に知られている名曲です。





 「ザ・バンド」は、フォーク、ジャズ、土着のブルースなどアメリカのルーツ・ミュージックをバック・ボーンにした、味わい深い音楽性を持っています。
 しかし当時のぼくには、アップ・テンポの曲もないし、派手なアドリブや大向こう受けしそうな派手なパフォーマンスがあるわけでもない、ただ地味にしか感じられない、そんなグループのレコードを聴く気なんて起きませんでした。


ただ、この曲の不思議な存在感はしっかり心に残っていました。
そしていつしか「ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク」はぼくの愛聴盤の一枚になっていました。


いま思うと、1968年当時のザ・バンドの面々の年齢は、最年長のガース・ハドソンで31歳、最年少のロビー・ロバートソンが25歳。
つまりメンバーはほぼ20代後半だったわけです。
その若さで醸し出しているこの老成感に、むしろ感嘆さえしてしまいます。





ラブ・ソングが圧倒的な割合を占めているポップ・ミュージックの中にあって、ディランの書いた詞は異彩を放っています。
「無実を訴える男の叫び声を聞きながら釈放される日を待つ囚われ人」を歌った詞の意味するところは思わず考えさせられてしまいますし、メッセージ性を持った歌詞を世に問うバンドのオリジナリティも感じられるような気がするんです。


起伏のある美しいメロディは、優しく心を揺さぶります。
アメリカのルーツ・ミュージック特有の味わいと、「熟成」という言葉がふさわしいシンプルな演奏は、年ごとに心地よく聴こえてくるようになりました。
そして、なんといってもリード・ボーカルのリチャード・マニュエルの歌声です。
彼の透き通った声とファルセットは、哀しみを帯びているようにも聴こえます。
訥々とした歌は聞き手に語りかけているようでもあります。一語一語ちゃんと自分の体温で温めてから発しているような、とでも言ったらいいのかな。





ぼくはいままでずっと決まったバンドに入ってなかったけれど、今年になって何十年かぶりに友だちのロック・バンドに加わることになりました。
しかもライブのときには、一晩に2~3曲はボーカルもとることになってしまいました。
何を歌おうかあれこれ考えたんですが、1曲はこの「アイ・シャル・ビー・リリースト」にするつもりです。
それが、とてもとても楽しみです。


[ 歌 詞 ]


[ 大 意 ]
なにもかも変わっていくと人は言う
すべての道のりに近道はないと人は言う
俺は俺をここに閉じ込めたすべての奴等の顔を憶えている

  ☆俺には西に沈んだ太陽が東から輝き始めるのが見える
   いつの日か、いつの日か
   俺は解き放たれるだろう☆

人々の権利は保護される必要があると人は言う
誰しも打ちのめされると人は言う
それでも俺にはこの壁の彼方に自分が反射して見える

  ☆~☆

寂しそうな群衆の向こうに立ちつくすのは無実を誓うひとりの男
一日中彼が叫ぶのが俺に聞こえる
俺は無実だと叫ぶ声が

  ☆~☆





◆アイ・シャル・ビー・リリースト/I Shall Be Released
  ■歌・演奏
    ザ・バンド/The Band
  ■シングル・リリース
    1968年8月8日(『ザ・ウェイト』のB面として)
  ■作詞・作曲
    ボブ・ディラン/Bob Dylan
  ■プロデュース
    ジョン・サイモン/John Simon
  ■録音メンバー
    レヴォン・ヘルム/Levon Helm (drums, vocal)
    ロビー・ロバートソン/Robbie Robertson (guitar, vocal)
    リック・ダンコ/Rick Danko (bass, vocal)
    ガース・ハドソン/Garth Hudson (organ)
    リチャード・マニュエル/Richard Manuel (lead-vocal, piano)
  ■収録アルバム
    ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク/Music From Big Pink(1968年)




 

 


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