陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

就職氷河期世代、働く最前線に

2019-06-24 | 仕事・雇用・会社・労働衛生

6月21日、政府がいわゆる骨太の方針をふくむ経済成長戦略に必要な計画を閣議決定しました。「政府4計画」と呼ばれるものですが、現役世代にかかわるものとしては、以下があります。

・消費税は10パーセント引き上げ
・就職氷河期世代を3年間就労支援
・最低賃金の全国平均1000円
・継続雇用年齢70歳まで引き上げ
・週末の地方での兼業・副業による「関係人口」の創出・拡大
・介護休暇1時間単位取得

このうち、氷河期世代(40代前半から30代半ば)についてはかねてから支援策がありましたが、職業訓練や助成金拡充でさらにてこ入れする模様。この世代は非正規やフリーターなどの不安定就労が多く370万人ほど。なかには無業で引きこもりに至る人も。政府は支援が必要な人を100万人と見込み、3年間限定の支援で正規雇用30万人をめざします。この世代で正社員になりたい人はいまがチャンスです。

求人誌などをみると、公共職業訓練の受講案内がめだちます。
従来は介護や工事などの技能訓練が多かったのですが、近年は事務やITスキルアップ講座もあります。公共職業訓練のうち、民間の教育訓練機関に委託しておこなわれ、就職に必要な技能知識を習得して早期就職、再就職をめざすもの。一定の支給要件を満たせば、「職業訓練受講給付金」も支給されます。

ただし、40歳前後になると、とくに人気の高い事務職については職歴がないと雇用されるのはかなり厳しいです。こうした職業訓練で学ぶのは初歩的なビジネスマナーやPCスキル。あとは自助努力が求められます。

就職氷河期世代に限らないのですが、それ以下の若い世代でも、働くことに疑問をいだくひとが増えています。
自分が支払った以上の公的年金を税金で補填される受給者世代と、社会保障制度維持のために赤字の負債を背負い続ける働き盛り世代。暴動がおこらないのが不思議なくらいです。少子化はすでに団塊の世代が出生数を減らしたことからはじまっていたのに、なぜか、いまの出産適齢期世代ばかりが責められます。

氷河期世代は別称ロスジェネ世代とも呼ばれ、社会で活躍することを奪われた世代ともいわれてきました。
私もこの世代で転職経験をかさね、非正規雇用も、正社員就職も経験しています。大企業にはご縁がありませんが、公務員や公法人職員と働いて健康保険の優遇ぶりに驚いたことや、中小企業の正社員としては土日完全休日ではなく、サービス残業や早出もあり、有給休暇もままならないことがありました。私自身のいたらない能力もあるでしょうが、パワハラに近い処遇もなんどか目にしました。

ただ「生まれた時代を嘆いても、何もはじまらないわけでして」(https://blog.goo.ne.jp/yorozu-haki/e/cc6f86d2940385b4cfa03e5db3c78b1a)の記事で述べた通り、自分の不遇がすべて時代のせいなのか、そうではないともいえます。家庭環境にも、本人の能力にもよりけりです。学生時代は優秀だったけれど、博士号取得したけれど、社会で働くことが皆目できない人も多いですし。同世代でも堅実に地方公務員になったひとや、親の商売を継いで軌道に乗せている、資格取得して開業したひともいます。地元に魅力的な働く場所がないので、都会に流れてしまったひとも。

就職氷河期世代は、会社に人生を捧げる、家族まで犠牲にして身を粉にして働くという生き方にはじめて疑問をもった世代なのかもしれないですね。そもそも社会保険削減のために派遣雇用しはじめた大企業に不信感をいだいていますから、家電も企業ブランドに興味なんてありませんし、薄れていく地縁や血縁よりも契約履行能力のある人物本位の付き合いになってきています。

池井戸潤の人気小説半沢直樹シリーズの『ロスジェネの逆襲』には、まさに就職氷河期世代で、世の中の常識よりもゆがんだ組織の倫理に染まった団塊の世代や、能力がないのに肩書きがあるバブル世代(主人公の半沢はバブル組)に対して、反感を抱く若手社員が副主人公として登場します。
終盤、半沢はこの氷河期世代にこんな言葉を放ちます──「お前たちが虐げられた世代なら、どうすればそういう世代が二度と生まれてこないようになるのか、その答えを探すべきなんじゃないのか」

生まれた時代が悪かったから、卒業時期の巡り合わせがよくなかったので、世の中をさげずみ、くさしたりするのはやめにしよう。社会の在り方に疑問を抱いたのだからこそ、できることがあるだろうと、問いかけているわけです。親世代、あるいはその上がずるい逃げ切り世代だったのだとしても、自分たちはせめて下の若い世代に迷惑をかけないようにしようというわけです。わたしたち同世代の生活保護が増えたら、国は破綻するでしょう。期間限定で支援してあげたのに、這い上がれなかったら自己責任だとの誹りはまぬがれません。

氷河期世代の就労支援策は歓迎します。
しかし、長期間社会と接点のない暮らしをした人に就労のハードルが高い。アニメやゲーム、ネット依存に陥って遊ぶことに慣れてしまっているので、働くことを怖がってしまいがちです。子どもの頃の豊かなサブカルに触れた味が忘れられず、作家やクリエイター業などに憧れた無謀な世代の始まりでもあったのかもしれず。ビジネスマナーや事務スキルなどはもちろんですが、社会人としての基礎能力育成について考え直す必要がありそうです。

社会保障の担い手を増やすのはいいのですが、まずは若い世代に不満のある公的年金制度や医療介護費用の負担について、国民総出でもっとふみこんだ議論をすべきでしょう。
私が20歳になったばかりの頃の国民年金保険料は月額12000円ぐらいだったはずですが、いまや、16000円超えです。あと10年20年もしたら2万円を超えてもおかしくはない。最低時給をあげても社会保険負担が増えるのを厭って、企業が採用数を絞るので失業率が悪化してしまうかもしれません。そもそも氷河期世代はもともと年金を当てにしていない人が多そうですが。





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