裁判事例 賃貸住宅の新建材の刺激臭 横浜地裁判決 平成10年2月25日 |  NPO法人日本住宅性能検査協会 建築・不動産ADR総合研究所(AAI)

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裁判事例

賃貸住宅の新建材の刺激臭

横浜地裁判決 平成10年2月25日

(判例時報 1642号 117頁)

 

《要旨》

 新築賃貸住宅の賃借人が、新建材の刺激臭により化学物質過敏症に罹患し、退去せざるを得なくなったとして賃貸人に損害賠償を請求した事案において、その請求が棄却された事例

 

(1) 事案の概要

 借主Xは、平成5年6月、貸主Yから新築賃貸住宅を賃料21万円で借り受け、入居した。

 入居数日後、Xは、本件建物に異常な刺激臭があるとして、Y、A、及び建築業者らに訴え、市公害課にも同様の訴えをして調査を求めた。

 

その結果、市の指導もあって、空気清浄機5台が設置されたが、Xはその後間もなく退去し、9月には、契約を解除して住宅を明け渡した。

 

 Xは、Yに対し、新建材のホルムアルデヒドによる異常な刺激臭により、健康被害を受けたとして、債務不履行等による損害賠償387万円を請求した。

 

(2) 判決の要旨

 (ア)貸主たるYはXに対し、本件建物を健康上良好な居住環境において提供する義務を負担しており、Yとしては、臭気の発生につき過失がなかったことを立証すべきである。

Xの健康被害は化学物質過敏症によるものと認められるから、結局、本件賃貸借契約当時、Yに化学物質過敏症の発症を予見し、回避すべき具体的義務があったかが問題となる。

 

 (イ)化学物質過敏症は未だ学会においてすら完全に認知されているとは言い難い状況にあり、本件建物建築時点で一般の施工業者が化学物質過敏症の発症の可能性を現実に予見することは不可能ないし著しく困難であったこと、本件建物に使用された新建材等は一般的なものであったこと、化学物質過敏症の発症を完全に押さえるために化学物質を含む新建材等をほとんどないし全く使用せずに建物を建築することは一般の賃貸アパートでは経済的見地からも極めて困難であったこと、YはXから臭気について指摘を受けた際に空気清浄機を設置するなど一般的な対応はしていること、化学物質過敏症は全ての人が必ず発症するものではないこと、などの事実によれば、本件建物建築当時、Yが化学物質過敏症の発症を予見し、これに万全の対応をすることは現実には期待不可能であったと認められ、Yには過失がなかったというべきである。

 

 (ウ)Yに要求される回避措置としては上記一般的対応の程度で足りたというべきであり、Yに回避義務違反があったとはいえない。

 

 (エ)よって、Xの請求には理由がない。

 

 (オ)したがって、Yには過失がなく、Xの請求は理由がないから、これを棄却する。

 

(3) まとめ

 いわゆる「シックハウス症候群」について、訴訟により判決が出た本事例が初めてである。本件の場合、使用された新建材は特殊なものでなく、化学物質過敏症には個人差があるとして、損害賠償の請求は棄却されたが、今後、同種事案の紛争が発生することも見込まれる。

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