「『この夜のような幸せな日が一生続きますように』ですか。確かにその通りですね。
 この夜というのは寝室での熱い逢瀬も含まれるのでしょうか?」
 そろそろ、最愛の人の注意を寝室の方へと向けたい。今はまだ笹飾りの出来映えとそして素晴らしく美味しかった食事の余韻を引きずっているだろうから。笹飾りはともかくとして料理とお酒の美味しさに関しては祐樹も同様だったが。
「甘い逢瀬も含まれる……な。祐樹と愛の交歓をしている時が私にとって宝石よりも貴重な時間だから……。いや、祐樹とこうして二人きりで過ごすだけで至福の時だけれども」
 言葉の戯れも愛情表現の一つだと最愛の人と恋人同士になってから覚えたことの一つだった。
 それまでは意気投合した相手と肌を合わせた後は内心「早く一人になりたい」とか思っていたので。
「至福の時は一生涯続くと思いますが、甘く熱い愛の交歓は自ずとタイムリミットが有りますから。
 ココもね」
 紅色に染まった指を充血した場所へと導いた。
 指の感触で、祐樹のモノがどういった状況になっているのか当然分かったのだろう。
 スッと撫でた後に、僅かに紅くて潤んだ瞳とは裏腹に唇が「後で」と何だか自分に言い聞かせるような厳しい感じの言葉を紡いでいる。
 やはり、七夕の儀式を――合っているかどうかは全く定かではないが――重視したいのだろう。まあ、焦らされた方が後々の快楽が深まることも最愛の人との行為で知ったが。
 それ以前の祐樹の「恋人」にはそんなに時間をかけたこともない。
 いや、一度だけあったような気がする。あれは大学一回生の時だったが、自分の性的嗜好が普通とは違うことは自覚していたものの、やはり認められない部分もあって……合コンで知り合ったたまたま好みに辛うじて引っ掛かる女の子が告白してきた。
 その後色々「男女交際」のマニュアル本とか雑誌で仕入れたデートの手順を踏んで初めてのHも本の通りにしてみた。
 だから、後の戯れまで最初のうちはしていたのだが「田中君の気持ちが分からない」という――ある意味性癖を隠していたから当然だろうが――別れの言葉で「不健全な」男女のお付き合いは3週間で終わった。彼女のコトが決定打になって「やはり」という気持ちが強まった。
 そのマニュアルに従っていたのでじっくりと時間をかけた「そういう行為」をしたし、ゴムもキチンと付けていたのだが。
 それ以来は切羽詰まった欲望を満たせば良かったので、終わったらさっさと身体を離していたので相も変わらず「田中君の気持ちが分からない」とか言われ続けていたが、そんなことは祐樹にとって痛くも痒くもなかった。田中祐樹という固有名詞すら教えていない男性の方が多いのも事実だったし。
「―-そうだな……人は年齢には勝てないからな……ソコだっていずれは衰える。
 けれども食生活なども大きく左右されるだろう。あとストレスとか。
 ストレスの掛かる仕事なのは仕方ないので、なるべく食事で元気になって欲しいと思って料理を作っているのだが……」
 それは初耳のような気がする。そして全てのことにおいて真面目で几帳面な最愛の人なので絶対に料理にもそういう心遣いがさり気なく入っていたハズで。
「え?でもスッポンとかそういった物とか……怪しげな精力剤なんて入れていないですよね?山芋とかウナギとかもそういう作用が有ると男性誌で読んだ覚えが有りますが……。
 山芋は短冊に切っても摺り下ろしたモノも大好きですし、大歓迎です。そしてウナギも貴方が作って下さったらより一層美味しいので大好物ですが。
 漢方薬の効能は認めてはいますが、怪しげな精力剤の原料になるようなモノは食事に混入されていませんよね……」
 以前よりもマシ(?)になったとはいえウソのつけない人だったが、良かれと思って何かを混入している可能性は否定出来ない。
 まあ、EDの治療薬として医師の処方で出せるお薬にも関わらず海外からの密輸入までもが問題になった薬などは絶対に飲ませないだろうが。
 あれは物凄く心臓に負担を掛けることが分かっているし、心臓外科が専門の最愛の人がそのリスクを知らないわけもない。
 そんな少し焦った祐樹を見て最愛の人が満開の薄紅色の薔薇の花の風情で微笑んでいた。
「そんな怪しげなモノを祐樹に食べさせたりしない。
 山芋とかウナギは確かに精の付く食べ物だし、体力が弱った時などには最適だと思うが、牡蠣は海のミネラルともミルクとも呼ばれるくらいに良いらしいし、そして血圧を下げて『こういう状態』にしやすいモノはニンニクとトマト、そしてアボカドやセロリが良いらしい。
 サラダに入れて食べたりしているだろう?祐樹も好きな食材なのでなるべく取り入れるようにはしている……」
 誤解されがちだが、医師は栄養士でもない上にそれほど健康に良い食べ物を専門的に学ぶこともない。
 事実糖尿病とかの食事が命に関わるような病気の場合は病院専属の栄養士とかが具体的なカウンセリングとか食事の計画まで練ってくれるので糖尿病専門医もそちらに丸投げしているのが現状だ。
「あ!そうなのですか?牡蠣も大好きですし、セロリもニンニクもトマトも……あっ、そういえば、トマトに含まれるリコピンは前立腺に効くそうですよね。
 貴方の中の凝った場所……もっとトマトを召し上がればもっと華麗に花開きますか、ね?熟したトマトのように真っ赤になって……」
 怪しげなモノどころか好物ばかりを並べられたことに心の底から安堵した。
 今まではただ美味しいと思って食べていたサラダには最愛の人の愛の工夫が盛り込まれていたとは知らなかった。
「ゆ……祐樹。そういう話は寝室で……じっくり……」
 紅色に染まった耳朶がとても綺麗だった。
「了解です。
 ああ、私も短冊に願いを書かなければなりませんね。私が考えに考えたのを披露しますが、私はありきたりなモノしか考え付かなかったです。
 貴方がお気に召すと良いのですが……」
 そう言って手まめな最愛の人がリビングのテーブルの祐樹サイドに用意してくれた短冊に文字を書き入れようとしてふと思いついた。





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最後まで読んで下さいまして誠にありがとうございます。

「公認カップル編」の方が早く終わるかもとアナウンスをしていたと思いますがどうやらその通りになりそうです……。七夕編は寝室までまだ遠いという……。
「公認カップル編」は大体あんな感じの終わり方をしようと思っていたので、あと一話で終わると思います。

「披露宴」も止まっていますし、落ち着いたら「ショーから始まる」も……。相変わらず宿題の多い身の上ですが(←自業自得)付き合って下されば嬉しいです。

明日も仕事なので「心は~」は更新出来ません。すみません。


    こうやま みか拝






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