1995年・夏
試行錯誤を繰り返し、迷走するシニスターシックス。
そして、試行錯誤の甲斐あって、俺とヤマダが各一曲づつ新曲を完成させた。
俺は自分が作った曲に満足していたし、ヤマダの作った曲も凄く気に入っていた。
これで次への展開が見出せる!
メンバーに発破をかけた甲斐があった。
みんなやれば出来るんだ。
お互い切磋琢磨して成長するんだ。
コウちゃん(ヤマダ)の曲はカッコイイから、次のライブまでに仕上げよう!
ヤマダの作った曲は、今までにない曲調と展開で歌詞を載せるのが難しそうだったが、ここで俺が流れを止めるワケにはいかない。ここで自分に鞭を打たなければ、俺はただの威張りん坊になってしまう。
俺は足りない頭をフル回転。超特急で歌詞を書いた。
超特急で書いただけあって出来はイマイチな感は否めなかったが、『ご近所のパンクバンドに一泡吹かせる出来ではある』という判断の元、次のライブで初披露する事にした。
向かうは新宿アンティノック。
いざ参ろう。
新宿に向かう車中は穏やかな雰囲気であった。
ここ最近は、俺の怒号や嫌味が車中を埋め尽くし嫌な緊張感を生んでいたが、この日は俺が一番ゴキゲンだったためみんなの心も晴れ晴れとしていた。
俺は確信していた。今日のライブは絶対にいいもんになる!と。
○いや~、それにしても、コウちゃんの新曲いいよ~凄くいい!!
●そぉ、それなら良かった・・・。
○俺の歌詞、急いで作ったからまだ甘いけどさ、ちょっとづつ変えて良くすっからね!
●え?あ?うん、、、、
○それにしても、あんなフレーズよく考えついたねぇ~!
●あのぉ・・・それなんですけどぉ・・・
○え?なに?
●実はですね・・・
○うん。
●ちょっとコレ聴いてみて・・・
ヤマダはカーステレオにカセットテープを押し込んだ。
カーステレオからは、ヤマダの新曲が流れてきた。
カッコイイ!!
やっぱカッコイイぜ!!
と思ったのは時間にして、わずか数秒。
俺は自分が置かれている状況がわからなくなった。
はて・・・?
これはナニ・・・?
練習スタジオでカセット録音した音源にしては音質が良すぎるし・・・
MTRで自宅録音した音でもない・・・
つーか、俺の書いた歌詞でもない・・・
○ねぇ・・・これなに・・・?つーか誰・・・?
●え~と・・・、Dipです・・・
○はぁ、Dipね・・・で、これ、俺らの曲と一緒だよね・・・?
●はぁ・・・
○え?そうなの?そういう事なの?ねぇ!?
●う~ん・・・まぁ・・・
○そりゃねぇよ!!それってパクリじゃん!!しかも、まんまじゃん!!
●いや・・・こういう曲持ってったらキーチさんはどんなメロディ載せるかな~?って思って・・・実験的にね・・・そしたら予想外に気に入ってくれちゃったから・・・言い出しにくくて・・・。
○言えよ!!言わなきゃダメじゃん!!
●いや・・・あと、パンクの人はDip知らないだろうからイイかなぁ・・・?って・・・。
○ヤメ・・・
●え?
○ヤメだ辞め・・・今日のライブでこの曲はやらねぇ・・・。そんな恥ずかしい事出来ネェよ・・・
● ・・・・・・・・・
○これ、この曲がDipのパクリだって事、みんな知ってたのかよ?
● ・・・・・・・・・
○オメェら、ふざけんなよ!!つーか、俺の事もナメてるし、他のバンドの事もナメてるよ!!俺、そういうの好きじゃねぇよ!!パクリを全否定はしねぇけどよ、俺は現在進行形のバンドのパクリはしたくねぇんだよ!!みんな知らないだろうからって、そんな人を騙す様な事したくねぇんだよ!!
あ!っという間に車中に暗雲が立ちこめ、雷鳴が鳴り響く。
そしてIKAZUCHIが盆暗どもの脳天に直撃。
しかし、俺の怒りは次第に寂しさに変わっていった。
彼らも彼らなりに努力してんのかもな・・・?
俺の言ってる事って、やっぱあいつらにはまだわかんないのかな・・・?
俺はあいつらと出会って変われたけど、あいつらは変われないのかな・・・?
あいつらを頼りにしちゃぁイケねぇのかもな・・・。
怒るのも俺の仕事・・・
励ますのも俺の仕事・・・
曲作るのも俺・・・
歌詞も俺・・・
しょうがねぇか・・・
バンドは俺がやりたい事なんだからな・・・
よし、まぁ、この曲の事はしばらく保留にしとこう。
コウちゃんの『キッカケを作ろうとした』って気持ちは認めるよ。
でも、今日のライブは今までの曲でやろう。
とにかく、全力で!!
結果、その日のライブは皆、屈辱を闘志に変換する事に成功し、お客さんや箱からの評判が良かった。
そして、今回の俺の真剣な怒りに、メンバーも『そろそろマジでヤバイかも?』という再確認が出来た様に思えた。
俺達、バンドマン。どんなにマイナスな出来事からでも、プラスへ導く意志を持とう。
よし!!じゃあ、来月の渋谷のライブも気合入れていくぞ!!
1995年・9月某日・【渋谷TAKE OFF7】
リハーサルを終え、対バンの「ストロベリーズ」というバンドのリハーサルを眺めている俺とトクマル。
「ストロベリーズ」はコブラとCOWCOWのコピーバンドだった。
○渋谷でライブだから・・・対バンも結構期待してたけどぉ・・・コピーバンドかぁ・・・。
■まぁ、いいじゃん。俺らは俺らでさ。
○まぁね・・・さっきココのベースと少し話ししたんだけど、なんかナマイキな感じなんだよな!『俺らコブラのコピーバンドっす!!』ってよ『あんたらには負けねぇ!!』って感じで自信満々に言ってくるんだよ(笑
■ははは、ナメられてんじゃん!!(笑
○な?ぜってーナメてるよね?(笑
※余談ではあるが。
数年後、このストロベリーズのベーシスト・コンドウくんとトクマルが千葉で再会。
『COS』というバンドを結成し、千葉ロックシーンの中心的存在となるのであるが、この時点ではまだ赤の他人。
と、まぁ、そんな話をしていると、コウちゃんが俺の側にやってきた。
ちょっと話がしたいんだ。と。
トクマルに席を外してもらい、さて何事でしょう?
○どうした?なんかあった?
●突然で申し訳ないけど、俺、シニスターシックス辞めます。
○え!マジで?そっかぁ・・・で、なんで?
●俺、どうしてもキーチさんの言う『ジャパニーズ・ロック』とかわかんないんですよ。
○そっか、それならしょうがないね。で、辞めてからどうするの?
●俺は俺で、俺のロックを追及してみます。自分のバンドを組みます。
反対する気は更々なかった。
やっと自分の意志でコウちゃんが動き出した事が嬉しかった。
自分の意志を俺の前ではっきりと言えるコウちゃんが男らしく思えた。
最初は、ヤル気のない野郎はクビにするつもりで集めたメンバーだが、逆に『ダメダメなこいつらのヤル気を起こさせられなかったら、それは俺に力がないって事だ』とも思っていた。
しかし、今、やっとコウちゃんは変わった。
望んでいた形ではなかったが、今のコウちゃんは殺る気満々だ。
ふと、肩の荷が降りた気がした。
もう、そこんとこの意地は張らなくていいかな・・・?と。
ケンゴとトガシは相変わらず盆暗だけど、コウちゃんは変わった。
全て俺の功績だとは思わないが、俺がキッカケにはなったとは思う。
そして、そのコウちゃんのヤル気はきっとイイ方向に向かうはずだ。
コウちゃんは、『今日で辞める』とハッキリと意志を伝え席を立ち、入れ替わりで近くに居たトクマルが俺の側にやって来た。
■どうしたの?なんだって?
○あぁ、コウちゃん、今日でシニスター辞めるって。自分のバンド始めるって。
■マジで?そっか~、辞めちゃうのか~。
○つーかさ、俺らも辞めちゃおっか?
■辞めちゃうか?
○んで、俺ら2人で新しいバンド作ろっか?
■作くっちゃおっか?でも、ケンちゃんとトガシくんは?いいの?
○バーロ~関係ねぇよ!!もうヤル気のねぇ奴らに付き合う事ねぇよ!!
■そっか、じゃあ、一緒にやろう!!
○よし!!じゃあ、今日でシニスターシックス解散!!じゃ、ケンゴとトガシに伝えてくるわ!
俺はケンゴとトガシを呼び出し、事の顛末を伝えた。
2人は『やっとヤル気も出てきたのに残念だ』と言った。
その言葉には『あんたに振り回された』という意味が含まれていた。
俺はそれを聞き、『おまえらはどこまでも卑怯な奴だ』『そうやっていつまでも他人のせいにして生きていくのか?』と一喝。
おまえらも、悔しいなら俺を見返すバンド自分達で組め!!
つーワケで解散だ!!今日は派手にやれよ!!
C&Cの解散同様、メチャクチャにしてしまえ!!という感じでライブに望んだ。
しかし、意志とは裏腹に、今までの努力の成果が出た安定したライブだったと思う。
急な解散の知らせに、お客さんも驚いていた。
ライブ終了後、解散するのは惜しいという声も多々あった。
しかし、俺は『次はもっとカッコイイバンドをやっから!!』という自信に満ちていたので、ちっとも惜しいとは思わなかった。
こうして当時を思い返すと、これまたC&Cの解散ライブと同様に『あの時、ケンゴやトガシはどんな気持ちで演奏してたんだろう・・・?』と思う。
しかし、これまた同様に、『でも、ケンちゃんは今また一緒にやってるし。トガシも今ではプロのカメラマンとなってC&Cのジャケ写撮ってるし、結果オーライだべ?』と思うのである。
1995年・10月
俺とトクマルは、トクマルが在籍していた『シナモンズ』からドラマー・アトベを呼び、新バンド『the Mr』を結成。
コウちゃんは、地元の友人・シンタロウとグランジバンド(?)『ラブ・ローションズ』を結成。(のちにSLIDEと改名)
ケンゴとトガシの盆暗2人はパンクバンド『the SNIPE』を結成した。
それぞれが、『次こそは!!』『我が先!!』と猛突進。
それは、想いとは裏腹に、恋と麻薬に溺れる転落人生の始まりだった。
文中では省いたけど(説明すんのが面倒だった)
最初はマリリンモンキーズのトクイチ(右端)がギターだった。
んで、あとからトクマルくん。
この頃、チャラいパンクのガキはみんなフェイクファー着てた。
今見ると、『キミは一体ナニになりたいのだね?』って格好。