本日2回目の更新です。

 

兵庫県尼崎市生まれの私。

「デパート」には強烈な思い出があります。

 

幼稚園児のころに住んでいた尼崎市上坂部は、

下町の風情がほどよく残るところでした。

遊び場は近松公園。近松門左衛門ゆかりの地なのです。

母は日々の買い物を、歩いて三分ほどのところにあった

上坂部市場で済ませていました。

でも特別な日にはバスに乗り、阪神尼崎駅にある「尼センデパート」に行くのです。

今のように横文字が横行していなかった昭和40年代において

「デパート」は魅惑の言葉でした。

そこに行けば、市場にはないような物がいっぱいあるのです。

「尼センに行くよ」と言われたら、どれほどわくわくしたことか。

 

そんな私も小学校入学を控え、ランドセルを買ってもらうことに。

当然尼センデパートに買いに行くと思っていたのに

「今日は阪急百貨店に行くのよ、百貨店ってデパートのことよ」と言われ憮然。

「それやったら尼センデパートでええやん」。

 

ところが、です。

初めて入った阪急百貨店のきらびやかなことといったら!

天井が高い!売り場が広い!売り場のお姉さんがきれい!

屋上には遊園地があって、その下の階には大きなレストラン。

なんじゃこりゃ!!

これは私の知っている「デパート」じゃない!

これが本物のデパートなのか?!

じゃあ、尼センデパートはなんなのだ?!

 

尼センデパートとは、阪神尼崎駅の高架下に作られたショッピングモールのこと。

衣食の専門店がたくさん入っていたとはいえ、

デパートを名乗るとはおこがましいにもほどがある、

ただの商店街だと知ってしまったのでした。

大好きだった尼センデパートが地に落ちてしまったようで哀しかったなぁ。

 

そんなメイドイン尼崎な人間にはたまらない

成海隼人さんの「尼崎ストロベリー」を読み終えました。

 

 

高校二年生の渡部駿一は、自他共に認めるマザコン。

プライバシーなどありようもない狭い文化住宅に母と二人暮らしだ。

父親は駿一がまだ幼い頃に二人を捨てて出て行ってしまった。

以後、「オカン」は、夫が残した借金返済と駿一を育てるため、

がむしゃらに働いてくれている。

貧乏暮らしだが、オカンと駿一はいつも笑っていた。

二人の楽しみはテレビで見るタダの(無料の)漫才番組だ。

見終わった後二人でミーティング。

今の漫才は何が面白く、どこを改善すればもっと面白くなるのか、分析するのだ。

当然のように駿一のお笑いセンスは研ぎ澄まされていた。

 

そんなある日、オカンが余命宣告される。

スキルス胃がんであと半年ほどの命だという。

がんについて調べていた駿一は、

がん細胞を殺すナチュラルキラー細胞が「笑い」で活性化するという学説を知る。

これならできる!

駿一はオカンのため、毎日オモロイ話をする。

もっともっとオカンに笑ってもらいたい。

ナチュラルキラー細胞に活躍して欲しい。

そして、駿一は幼なじみのマコトとコンビを組み

「漫才甲子園」の頂点を目指すのだった。

すべてはオカンのために。

(成海隼人さん『尼崎ストロベリー』の出だしを私なりに紹介しました)

 

この小説は駿一の語りで綴られています。

コテコテのメイドイン尼崎である駿一は当然関西弁。

しかも普通の関西人以上にいちびりなので、

日常会話でもボケたり突っ込んだりせわしない。

 

普通の関西人の会話でも他府県の人には漫才に聞こえるらしいですね。

だとすると、駿一の語りをわざとらしく感じるかたもおられるかも。

この小説を心底楽しむには、関西弁への理解、あるいは愛が必要かも知れません。

私はとても面白かったですよ。こういう生徒いるいる、という感じです。

 

また、駿一の行動範囲が、目に浮かぶのも面白さを倍増させます。

阪神尼崎の駅前広場、尼崎中央商店街、ピッコロシアター、

もちろん尼センデパートも登場します。

そしてオカンが喜ぶお菓子は「ショウタニ」の和三盆。

あー、あれね!私も大好きよ!!

 

日常を面白おかしく語る駿一ですが、

オカンがもうすぐ死んでしまうと思うだけで気が変になりそう。

だけど、オカンの前では明るく、面白く。

だって笑ったらナチュラルキラー細胞が活性化するのだから。

医学に見捨てられたあと、頼みの綱は笑いしかないのだから。

そんな17歳の少年 駿一がかわいくて、切なくて。

「漫才甲子園」で優勝しますように、と真剣に応援してしまうのでした。

 

この本の帯には「号泣必至の感動ストーリー」と書かれています。

きっと人によって泣くツボは違うと思いますが、

私は、駿一が「マザコン」になった理由で泣きました。

夫が残した借金返済と息子を育てるため、しゃかりきに働くオカンは、

他の同級生のお母さんとは全然違います。

髪の毛も服装も、全然おしゃれじゃない。

それがオカンだと思っていたけれど、ある日、オカンの若い頃の写真を見つけ、

駿一は驚きます。

化粧をして、きれいなワンピースをきているオカンは他のお母さん達と同じか、

それ以上にきれいだったのです。

自分を育てるために、オカンは女を捨てたのだ、そう悟った時に、

駿一は決めるのです。自分がオカンを守る、と。

ああ、その場面を思い出しただけでも涙が出るヮ。

 

著者の成海隼人さんは よしもとクリエイティブカレッジ作家コース卒業の

落後作家さん。これが初の小説なのですって。

なるほど。小説としては粗いと感じる部分があるのはそのせいかも。

だけど、その粗さを補ってあまりある、青く切ないマザコン少年がいとおしいのです。

「マザコン」をこれほど肯定できることがあろうとは思いもよりませんでした。

また、オカンのことば「全てを、笑いに変えなさい」は名言だと思いました。

 

ところで「尼崎ストロベリー」という不思議なタイトルの意味は、

実際に読んで納得してください。

 

 

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