あなたのとりこ 385 [あなたのとりこ 13 創作]
頑治さんは抑々、前に考えた事もある、と云う土師尾常務の言を虚偽だと勘繰るのでありましたが、まあそれは兎も角、頑治さん如きが考える事くらい自分は疾うに考え付いていたと云う事を、つまり体裁上社長の前で云いたいのでありましょう。
「常務は例えばそう云う会社があるかどうかとか、或いはそう云う仕事をやってみても良いと云う人がいないかを、実際に探してみたのでしょうかね?」
頑治さんは反発の言と取られないように、穏やかな口調で訊くのでありました。
「まあ、少しは当たってはみたよ」
これも、実際は当たってなんかいないのだろうと頑治さんは穏やかな表情の裏で考えるのでありました。万事が上の空のくせに、好い加減な事を如何にもしかつめぶった顔で宣うのは、この人の特技でありますか。要するに一種の法螺吹き気性でありますか。
「少しは、ですか?」
頑治さんは愛嬌の色をやや消して、追及するような険しさを微妙に宿した目付きで重ねて訊ねるのでありました。その頑治さんの目から土師尾常務は微妙に視線を逸らすのでありました。それは竟うっかり、頑治さんの言にたじろいだからでありましょう。
「まあ、僕も様々仕事を抱えているから、それ専門に動き回る訳にはいかない」
「自分で動けないなら、袁満さんに僕が今云ったような、と云うか、常務が疾うに考え付かれていたと云うその方策を、アドバイスされた事がありますかね?」
「いや、そんなアドバイスなんか受けた事はないよ。まあ、営業方法に関するアドバイスと云う事に関しては、それに限った事じゃなく、今迄一切受けた例がない」
袁満さんが横から受け応えるのでありました。その言に不愉快を感じて土師尾常務は袁満さんをジロリと睨むのでありましたが、袁満さんが故意に目を合わさないようにしていたためか、特段それ以上何か云い募る事はしないのでありました。
「袁満さんには、今迄の地方出張営業経験から、袁満さんの仕事を代行してくれそうな会社とか個人とか、思い当りませんかねえ?」
頑治さんは、今度は袁満さんに聞くのでありました。
「今ここでは何とも云えないけど、でも、唐目君が云った方法は有力かも知れない」
袁満さんは少し乗り気を見せるのでありました。こちらも茫漠とした暗闇の中でほんのりながら現実的な具体策の炎が見えたと云った感奮があるようであります。
「探せば、何か突き当たるものがありそうですかね?」
「無い事も無いような気がする」
「そう云う事なら、僕にも心当たりの人材がありますよ」
社長がここで口を挟むのでありました。「いやね、下の紙商事をもうすぐ定年退職するけど、未だ働きたいので嘱託で構わないから何か継続して仕事をやらせてくれと云う男が居るんだよ。全く新しい会社に改めて就職すると云うのは、年齢的にもこのご時世的にもなかなか難しいので、出来たら紙商事関連の仕事をしたいようなんだが、この男は紙商事の専務と相性が悪くて、専務はこれを機に綺麗さっぱり縁切りする心算なんだよ」
紙商事の専務と云うのは社長の奥さんの弟さんなのでありました。
(続)
「常務は例えばそう云う会社があるかどうかとか、或いはそう云う仕事をやってみても良いと云う人がいないかを、実際に探してみたのでしょうかね?」
頑治さんは反発の言と取られないように、穏やかな口調で訊くのでありました。
「まあ、少しは当たってはみたよ」
これも、実際は当たってなんかいないのだろうと頑治さんは穏やかな表情の裏で考えるのでありました。万事が上の空のくせに、好い加減な事を如何にもしかつめぶった顔で宣うのは、この人の特技でありますか。要するに一種の法螺吹き気性でありますか。
「少しは、ですか?」
頑治さんは愛嬌の色をやや消して、追及するような険しさを微妙に宿した目付きで重ねて訊ねるのでありました。その頑治さんの目から土師尾常務は微妙に視線を逸らすのでありました。それは竟うっかり、頑治さんの言にたじろいだからでありましょう。
「まあ、僕も様々仕事を抱えているから、それ専門に動き回る訳にはいかない」
「自分で動けないなら、袁満さんに僕が今云ったような、と云うか、常務が疾うに考え付かれていたと云うその方策を、アドバイスされた事がありますかね?」
「いや、そんなアドバイスなんか受けた事はないよ。まあ、営業方法に関するアドバイスと云う事に関しては、それに限った事じゃなく、今迄一切受けた例がない」
袁満さんが横から受け応えるのでありました。その言に不愉快を感じて土師尾常務は袁満さんをジロリと睨むのでありましたが、袁満さんが故意に目を合わさないようにしていたためか、特段それ以上何か云い募る事はしないのでありました。
「袁満さんには、今迄の地方出張営業経験から、袁満さんの仕事を代行してくれそうな会社とか個人とか、思い当りませんかねえ?」
頑治さんは、今度は袁満さんに聞くのでありました。
「今ここでは何とも云えないけど、でも、唐目君が云った方法は有力かも知れない」
袁満さんは少し乗り気を見せるのでありました。こちらも茫漠とした暗闇の中でほんのりながら現実的な具体策の炎が見えたと云った感奮があるようであります。
「探せば、何か突き当たるものがありそうですかね?」
「無い事も無いような気がする」
「そう云う事なら、僕にも心当たりの人材がありますよ」
社長がここで口を挟むのでありました。「いやね、下の紙商事をもうすぐ定年退職するけど、未だ働きたいので嘱託で構わないから何か継続して仕事をやらせてくれと云う男が居るんだよ。全く新しい会社に改めて就職すると云うのは、年齢的にもこのご時世的にもなかなか難しいので、出来たら紙商事関連の仕事をしたいようなんだが、この男は紙商事の専務と相性が悪くて、専務はこれを機に綺麗さっぱり縁切りする心算なんだよ」
紙商事の専務と云うのは社長の奥さんの弟さんなのでありました。
(続)
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