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あなたのとりこ 507 [あなたのとりこ 17 創作]

 組合としても、この社長の一件をたちまち公然と追及し始めると云う事はないのでありました。それは片久那制作部長に、今後の秋年末闘争や次の春闘の時に奥の手として効果的に用いるために取って置いて、その間もっと綿密に社長の罪業を調べ上げて、外堀を埋めるみたいな準備をした方が良かろうと云うアドバイスを貰っていた故でありました。
 ところで土師尾常務は、社長のこの不実なる道楽をどのように考えているのでありましょうか。まあ勿論、片久那制作部長のように畳みかけるように冷厳に追及する手腕は到底持ち合わせていないでありましょうし、会社や従業員のために厳しく追及しようと云う健気な気持ちも当然ないでありましょう。しかしこの社長の不良行為は当然知っているであありましょうから、自分の取り分を社長からより多く分捕るための材料としてのみ、ちゃっかり利用しようとはするでありましょう。あくまでも従業員とは無関係なところで。
 まあしかし、結局土師尾常務よりは海千山千の社長に上手に丸め込まれて、大して有効に利用出来ないで終わるかも知れません。寧ろそっちの公算の方が大でありましょうか。依って従業員としても、ここで改めて確認する必要もないけれど、土師尾常務には社長の不実への対処に関しては、ま、何も期待するところは無いのでありました。
 寧ろ社長の非道をあれこれ探っていると、ひょっとしたら棚ぼた的に土師尾常務の方の不良行為が見つかる可能性も無いとは限りません。叩けば非常に多く出てくるであろう埃の点では社長以上に疑わしい人でありますから。まあだから当然こちらの探査も今後の闘争の有力材料集めとして、組合としてはやって置く意義も必要もあるでありましょう。
 さてところで、業績回復に関しては捗々しい面は一向に見られないのでありました。その左証は、営業部から制作部に回って来る大口の製作指示書が無いからでありました。
 特注営業の仕事は、土師尾常務と日比課長から見積もり依頼があって、納期や数量等の微調整の過程が挟まる場合もありますが、それも完了してから、ようやくその仕事が正式に決定したならば、土師尾常務なり日比課長なりから制作指示書が出されて、それから正式に製作工程が動き出すのであります。だからこの製作指示書を見れば、大体現時点で贈答社が受けている注文が判る訳でありますが、既製品に箔押しでの名前入れする等の小口仕事ばかりで、気合の入るような売上額の大きい仕事は殆ど無いのでありました。
 勿論制作部を経由する必要のない他社商品の扱いは制作部では大凡しか把握しないのでありましたが、こちらもまあ要するに、自社製品に比すると実利はさして大きくはないのでありました。要は大口の、自社製品に依る特注仕事が肝心でありますが、残念ながらそう云う製作指示書はさっぱり回ってこないと云った具合でありましたか。
 袁満さんが担当する地方出張営業は、前に下の階の紙商事に居た矢目奈伊蔵さんが、嘱託社員として自前のハイエースを駆って北関東から東北エリアを出張して回る、と云うのはほぼ確定したのでありました。しかしその他のエリアに関しては、この前新宿で会談した信州の蓼科や美ヶ原や松本の浅間温泉とかでお土産屋とかホテルを経営している人が、山梨県と長野県の主な観光地での販売代理店をやってくれると云う契約や、他地域の同様の契約は幾つかがほぼ本決まりしてはいるようであるものの、未だ他の多くのエリアに関しては鋭意話が進行中と云うところで、未だ正式の決定には至らないのでありました。
(続)
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