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株式会社 ハウスショップ 東京都町田市

罠・・・・29

2020年02月19日 | 不動産業界

秋田に戻った明美は
毎日夜になると電話をかけて来ました。
離れてるとどうしても心配になるようで
山本に何度も大丈夫かと確認したり
祐太に電話を代わったりして
大体終って見れば1時間近くも話してる
その繰り返しでした。
ただ山本は
明美が居なくなる前は
それまで家事は全部明美がやってくれてましたので
大変だろうな?
と思って覚悟していましたが
実際に居なくなって見ると
祐太が掃除はしてくれますし
洗濯は自分の分は下着だけですから
数日に1回だけ洗濯機を回すだけなので
思ったほど大変では無い
そう感じていました。
ただ明美には
大変だけど頑張るから心配しないで
とだけ言いました。
毎晩かかって来る電話からは
明美からもたくさんの情報が伝わって来ました。
まずお母さんですが
病状は軽く
後遺症は
言葉が少し聞き取りにくくなった事と
手足のマヒが僅かに残ってる
って話しでした。
ですから元とあまり変わらない生活にすぐ戻れる
そんな希望を持っていました。
ただお父さんは深刻でした。
心臓もかなり悪くなってますが
手術には耐えられないので
そのまま経過観察になってるそうです。
ですから
もう長くは生きられない
そんな話しもして来ました。
最後に
何でうちだけこんな目に遭うんだろう?
ってひと言漏らしました
ただ
その言葉に山本は
自分の中に封印してる思い
これが湧いて来ました。
明美には理由は分からなくても
山本は何となく原因が分かっていました。
それは明美が作る食事です。
すべて塩辛かったのです
関西の薄味で育った山本は全く口に合いませんでした
ただ
それは自分の心の中にしまい込んで口には出しませんでした。
明美には
自分はパンが好きだからと言って
朝はトーストとコーヒーにしていましたし
夜は帰りが遅いので
少しだけ外で食べて
家にもどったら
つまみとお酒
これが基本になっていました。
明美は毎日三食味噌汁と漬け物
これを食べていましたので
秋田の家族もこの食事をしてるのであれば
血管はもろくなってる
そう思ってたのです
ですから
山本は両親の脳梗塞自体は
むしろ予期してた事
そうも言えたのです。
そして
その話しをした翌日
朝まだ寝てる山本に明美から電話がかかって来ました。
覚悟はできてましたので
落ち着いた声で
お父さんがさっき亡くなった
そう報告してきました。
長くはないと思ってましたが
まさかその話しをした翌日に亡くなる
なんて思ってませんから
全く準備は出来ていません。
とりあえず山本も祐太を連れて
翌日に秋田に向かいました。
祐太は学校を休む事になりましたが
山本もまだ新しい会社に入社する前なので
5日ほど秋田に居て
お父さんの葬儀を済ませて帰る事にしました。
佐藤家の墓は自宅の裏山にあって
5~6基の墓石が並んで据えてありました。
すでに新しい墓石も作ってあって
お坊さんがお経を唱える中
次々に村の人達が焼香して
納骨まで無事に終了しました。
他の皆さんが去った後
お母さんと明美
そして山本と祐太
この4人だけでしばらく墓の前にいました。
すると
山本が気付きました
お父さんの墓の横に小さな墓石がありました。
刻まれた名前を見ると
祐一と書かれていました。
山本がお母さんに
これはどなたですか?
と尋ねると
お母さんに代わって
明美が答えました
その下に眠ってるのは私の兄ですと・・
山本は明美にお兄さんがいたなんて話しは初耳でしたので
少し驚いた表情をしました
それを見て
お母さんが不自由な言葉で話し始めました。
この子は明美より5歳年上で
終戦の前の年の冬に生まれたのですが
1歳になった時に
いろりの前で寝かしてたのですが
しばらくして様子を見に行ったら息をして無かったそうです。
当時は終戦前で
村の若者も何人か戦死して戻って来てましたので
大げさに葬儀をする事もできずに
近い身内でそっと葬った
そんな話しをしていました。
お父さんは
祐一が生まれた時には
跡取りが出来たと喜んでいましたので
その突然の死は
かなりショックで
しばらく農作業も出来なかった
そんな事を話してくれました。
ここまで話しを聞いて
明美が自分の子供に祐太と言う名前を付けた理由も察しが付きました。
多分両親は
いずれ明美が婿を貰って跡を継ぐ
これを期待してたのだと思います。
ただ明美は
一度は東京に出たくて村を離れた
そして山本と出会い結婚した
それが両親の希望をくじく結果になり
明美はその罪悪感から
子供に祐太とつけて
両親に
家の事は忘れてないよ
ってメッセージを送ってた
そんな風に感じたのです。
実際明美は
両親の苦境に接して
今自分が支えになろうとしてる訳です。

翌日帰る時に山本は明美に言いました
俺たちは大丈夫だから好きなだけ居て良いよ

すると明美はその言葉に救われたかのように言いました
お母さんを家に引き取っても良いかな?
って
山本は予想してませんでしたので
一瞬戸惑いましたが
すぐに言いました
明美とお母さんがそうしたいのであれば
俺は全く構わないよ

そして祐太と一緒に自宅に戻りました

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