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株式会社 ハウスショップ 東京都町田市

罠・・・・30

2020年02月20日 | 不動産業界

義父の葬儀を終えて秋田から戻ると
すぐに新しい会社での仕事が始まりました。
建築会社ですから
まず建物の基礎的な知識を身に付けるための研修が始まりました。
そこで初めて山本は
自分の建築の知識がいかに乏しいが
思い知らされる事になります。
建築用語もほとんど知らなかった事に自分でも驚きました
15年も不動産の営業をしていて
たくさんの家を仲介したのに
実際には建築の基本知識を欠如したまま売ってたのです。
まぁ良く考えれば
不動産屋はそれで務まるって事の証明でもあります。
建築の一通りの知識が付いたら
数軒の店舗を回り実習が行われました。
先輩営業マンが接客してるのを側で聞いていたり
また会議の場にも参加しました。
そうやって3ヶ月の研修期間が終えたのですが
上司から打診がありました。
面接の時に言った通り
山本さんには店長として仕事をしてもう
そんな予定になってる事
そしてすぐに店長は無理だから
他の店舗でしばらく副店長として修行して貰う
そんな指示でした。
しかし山本は営業会議も参加して
自分には店長は無理
そう判断していました。
性格的に
この会社の店長達のように
体育会系のスタイルで部下を指導する
これが出来ないのです。
ですから言いました
自分は一番下からスタートさせて欲しいと
そう言われれば会社としても受け入れる以外にありません。
小田急線沿いの店舗に配属され
新入社員としての生活が始まりました。

仕事は決まりましたが
明美は父親が亡くなって半年が過ぎようとしてるのに
帰って来ませんでした。
理由は
一緒に同居しようと勧めても
ここで死なせてくれ
そう頑なに拒否してるのです。
一人で置いてく訳にもいかずに
ずるずる時間が過ぎていったのです
明美からは相変わらず毎晩電話がありますが
山本と祐太に申し訳無い
そんな気持が伝わってきましたので
山本も
お母さんが納得するまで焦らずにゆっくり秋田にいるように
そう伝えました。
そして自分の仕事も決まったので
その間仕送りも出来る
だから金銭的にも心配要らない
そう言って安心させていました。
それと
秋田にいると
明美は精神的にも安定していて
その意味でも
むしろしばらくそこに居て貰いたい
そんな気持も山本の中にはありました。
祐太も
友達と過ごすのが一番楽しい時期で
母親が居ないから淋しい
なんて気持は全く無い
これも山本は毎日一緒に過ごして分かっていました。
ただ
少し心配もありました
まだ山本は歩合給を稼いでないので
秋田に仕送りをすると
生活に余裕が無く
祐太は私立には行かせられない状況でした。
それは祐太にも伝えてあって
祐太は大丈夫だから
と心強い言葉をくれました。
実際に祐太は学年でもトップクラスの成績で
地域の進学高にも偏差値で見ると
十分合格するだけの力がありました。
ただ
祐太自身は
滑り止めが受けられないので
ワンランク落とした高校を志望高と決めていました。

山本が配属された店舗の店長は
10歳も年下の若い店長でしたが
多分なめられないようにと思ってるのか
山本の名前は呼び捨てにして
言葉もタメ口でした。
以前の会社の宮本店長は
年上にも関わらず
山本にはさんづけでしたし
普段の会話も敬語でしたから
それと比べると
違和感がありましたが
しかしこの程度の事を受け入れられない訳ではありません。
それと
言葉はタメ口でも
営業会議で山本が責められる事はありませんでした
まぁしかしどこの会社でも
慣れるまではお客様扱いをしてくれますからね
その間に成績を上げて認めて貰う
山本の頭にあるのはそれだけでした。
山本の会社は建築会社とは言っても
実際には自社で所有する土地を売却して
その上に建物を建ててもらう
これが主な仕事でした。
ですから
営業の仕事は
お客様に土地を案内して
気に入れれば
建築プランを提案して
そして土地の契約と建物請負契約を同時に行う
これが一つの流れでした。
それと建物プランになれば
実際には設計士が打ち合わせをしますので
せっかく身に付けた建築の知識も
それほど披露する機会もありませんでした。
そうこうしてる内に
2ヶ月目で初契約
それからはコンスタントに月に1棟は契約して行きましたので
歩合も入るようになり
生活も少し安定してきました。

やがて年が明け1994年になりました
年が明けると
すぐに祐太の高校受験の願書提出です。
祐太は志望高については
ワンランク落とすと決めていましたが
それは明美には伝えてませんでした
明美は祐太の偏差値からすれば
当然トップの高校に行く
そう決め付けていました。
それが分かってますから
祐太は願書を提出する前に
明美に電話をしました
志望高をワンランク落とすと
明美はそれを聞いて
何でそうするのか?
尋ねたら
滑り止めが受けられないので
確実に受かる所にしたい
そう言ってきました。
そしてその理由を
うちには経済的な余裕が無いから
これもはっきり伝えました。
すると明美はお父さんに電話を替わるように言いました。
山本が替わると明美は
実は祐太が産まれたときから始めた郵便貯金の積み立て
それには手を付けてないから
最悪公立が受からなくても
それを滑り止めの入学金に使って欲しい
そう言いました
山本がいくらあるのか?
と聞くと
300万と少し
そう言いました。
明美は
自分の身体がおかしくなっても
祐太の事は考えてた
これが分かると
山本の中から熱い思いがこみ上げてきました。

そして祐太は
第一志望に切り替え
見事に合格しました。
積み立てた貯金も崩す事無く
ただこの浮いた300万
精神的には本当に有難い物でした。
いざと言う時にそれだけのお金がある
これだけで
それまでお金に追い詰められて苦しんでた自分の心が
軽くなる
これを感じていました。

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