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株式会社 ハウスショップ 東京都町田市

罠・・・・26

2020年02月16日 | 不動産業界

証券会社に出向いたのは
年が明けてすぐの事でした。
受付で名前を告げて担当の営業を呼出しました。
そしてやってきたのは
まだ30前の若い社員です。
その社員に山本は
明美から預かった封筒の山を見せて
この取引は自分の名前になってるが
了解した覚えは無い
そう告げました。
するとその営業マンは
取引については全て奥さんの了解を取ってる
そう反論してきました。
山本は妻の了解を取ってるとしても
自分は全く承知してないので
これは認められない
そう言いました
しかし
その担当は
ご主人は奥さんに財産の管理を一任してたんでは無いですか?
と冷たく言って来ました。
山本は
自分は妻に一任した覚えは無い
そう反論すると
その社員は
また冷たい声で
であれば
ご主人の財産を勝手に動かした奥さんの責任ですね
と漏らしました。
山本はその言葉に怒りが湧いてきましたが
黙ってると
更にその社員は続けました
一時お預かりしたお金が倍以上になりましたが
その時には何も言わずに
損をしたら苦情を言う
間違ってますよ

痛いところを突かれた山本は
大声で
お前では話しにならん
支店長を呼べ
と怒鳴りました。
するとその担当は
支店長はいちいちそんな事では出て来ません
とまるでバカにしたように言いました。
これまで仕事では冷静さを失った事がない山本ですが
その時には初めて自分を失ってしまいました。
この生意気な男のせいで
妻は病んでしまい
自分は会社を辞めた
この怒りはもう制御ができない程膨らみ
気が付いたら
目の前で
その担当の営業が
顔を押さえてしゃがみ込んでいました。
山本は
逆上して目の前の灰皿を投げてぶつけてしまったのです。
すぐに警備員が駆けつけ
山本は取り押さえられました
そしてしばらくして警察官がやって来て
警察署につれて行かれる事になります。
そこで事情を聞かれた訳ですが
もう山本は話しをする気力を失っていました
ですからひと言
黙秘します
と言って黙ってフテ腐れてしまいました。
警察官はそれでは家に帰れませんよ
と脅してきましたが
学生運動の時には留置場で過ごした事もありますから
その程度はどうでも良い話しです。
翌日仕事がある訳でもありません
何なら好きなだけ拘留してもらって結構
そう腹を括りました。
しばらく沈黙が続きましたが
やがて取り調べの警察官が部屋を出て行きました。
山本は一人取り部屋で待たされてましたが
扉の外には一人別の警官が立ってるのが分かりました。
小一時間ほどしてその担当の警官が戻ってきました。
そして言った事は
被害者は被害届を出さないと言う事ですから
もうお帰り頂いて結構です。
と言って
扉を開けて出るように促しました。
最低でも一晩は泊まる
そう覚悟していましたので
拍子抜けでした。
そう言われて警察にいる事もできませんので
黙って立ち上がり
警察署の玄関から外に出ました。
警察署を出たのは良いのですが
この警察署は駅から歩いて30分もかかる場所にあって
来る時にはパトカーに乗せられて来ましたが
帰りは自分で駅まで行かなければなりません。
バスで行くかタクシーで行くか?
少し迷いましたが
頭を冷やす意味でも
歩いて帰ろう
そう決めて駅に向かって歩き始めました
すると
しばらくして
雨がぱらつき
やがてそれがみぞれに変わりました。
これでは駅に着くまでにはびしょ濡れになってしまいます。
慌てて目の前にある本屋の軒先に入り
タクシーを待つ事にしました。
やがてみぞれが雪に変わりましたが
タクシーは来ません
と言うより
数台通りましたが
手を上げても停まらないのです。
山本は
思いました
プロの運転手は
この天気では早く駅前に行き
長距離の客を拾った方が金になる
そう考えてるかも知れない
と・・
しかし困りました
いつまでもここで待ってる訳にもいかないし
雪は止む気配が無いどころか
本降りになってうっすらと路面が白くなり始めました。
どうしたら良いだろう
と悩んでる時に
ふと
明美と最初に出会った時の事を思いだしました。
三里塚
その時も今日と同じで雨がみぞれに変わりました
そして
気付いたのです
あの時には
雨に濡れるのもみぞれに濡れるのも
全く気にならなかった
そしてお金も無く
就職も決まって無かったのに
なぜか明美がいるだけで
胸が高鳴り
幸福感に満たされた事を
そして

明美は毎日そばにいて
帰る家はある
にも関わらず
自分は暴力を振るうほど狼狽してる
なんと愚かな事か?
ここに思いが至ると
すべて吹っ切れました
明美は信用取引をしてないので
財産は失いましたが
借金がある訳ではありません。
またゼロから頑張れば良いだけじゃ無いか
元々山本はお金の管理はしていませんでしたから
最初から無かったと思えば良い

そして
は気づけば
雪に降られながら
駅に向かって歩いていました。
雪に降られながらも
頭の中は色んな事が駆け巡りました。
そして
あの証券会社の営業は
何で被害届を出さなかったのか
気になりました。
まぁしかし想像はできます。
曲がりなりにも自分は顧客ですから
体面を考えた上司から指示されのかも知れません。
ただ
山本はなぜかそこで思考は止まる事はありませんでした。
あの営業マンは冷たい視線の中に
明らかに怒りの表情が見て取れました。
なぜ罪悪感では無く怒りが?
それに気付くと
理由を知りたくなりました。

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