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カテゴリ:本・雑誌
松本清張の短編には優れた作品が多い。 たとえば、新潮文庫 『共犯者』(昭和55年5月発行、平成29年2月66刷)である。 表題の作品は有名で何回もテレビドラマ化されている(同所収の『恐喝者』と合作した脚本も目立つ)。この文庫版には良く出来た作品が多い。社会が総じて貧乏な昭和30年代ごろとは思えない社会風土を描いて、現在に移しても容易にドラマ化できそうである。 そんな作品の中で題名が奇妙で独特な作品が『点』(中央公論昭和33年1月号)である。 主な舞台は、筆者得意の九州北部の海に近い小さな田舎町のU。 【作品の紹介】 小説は、旅館にいた東京在の文筆業・伊村にボロボロの服を着た小さな女の子が、父親(笠岡)からの手紙を持ってくるところから始まる。文章のタッチが淡々として読み易い。 手紙は「私(笠岡)は元・警察官で現在、主に原稿を出版業界に売り込んで生計を立てているが、余りにも貧乏というか困窮しており、娘に託した手紙にある(ボロボロ紙質の)原稿を買ってほしい」という内容だった。原稿の内容は、「私が、戦後まもない時期に地区警察から日本共産党の内情探るスパイとして送り込まれた際の内容メモ」となっている。 文筆業・伊村は、仕方なく女の子に食べ物と帰りの汽車賃を与えたが、U町には友人がいて、ついでに女の子の父親(笠岡)にも会ってみようとなって、U町の貧民部落で笠岡に会うことになるが、家は牛小屋みたいだった。笠岡は実年齢よりずっと老けた印象で、家は「とにかく困窮」し、文筆業・伊村は笠岡の話を聞いていく・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ こういう内容の小説だが、「困窮しているが過去にこだわる偏屈な元・警察官の生活と、妙にしっかりした女の子」の描写が卓越している。 有名な表題の短編のついでに、この作品『点』も読んでみてはどうですか?
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最終更新日
2019年11月15日 12時51分21秒
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