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写真家・藤原新也氏のブログ(12月3日)からの転載
「自からの情報(思考)の管理すら出来ない政治のプロが他者に向けての機密の管理など出来るわけがない。(Cat Walkより転載)」
「特定秘密保護法」の施行に関して賛成の意を唱える識者やマスコミは私の知るかぎりどこにもいないようだが、私個人はこの法案に無条件で反対というわけではない。
残念ながら愚かな人間の歴史は戦争の歴史でもあり、この先も戦争は起こりうるだろう。
日本も保証の限りではない。
そういった歴史的事実の中において、国というものはある意味で仮想された敵を想定することによって存立していると言えなくもない。
さしずめ、近年の日本国にあって仮想される敵はチベットやトルキスタンやウズベキスタンをおそるべき虐殺手法で占領弾圧している中国となる。
異常とも言える早さで高度成長を成した漢民族の中華思想は近年ますます肥大化しており、北方の占領を果たしたこの国は版図を南に拡大しょうとしていることはご承知の通りだ。
こういった国際情勢の中、国を守るための「機密保護」は必要不可欠であることは言うまでもない。
問題はこういった国是の強化が官憲の強権と結びつき、秘密保護の名目で都合のいいように汎用化し、言論や表現の自由まで介入してくることだ。
今はその具体例が示されない時期であるがゆえに抽象的な議論にならざるを得ないが、懸念すべきは権力がこの「秘密保護法」という”大鉈”を持つことによってより支配的な力を持っていると自からを過信し、その過信が市民生活を踏みにじることである。
これは戦前の軍機保護法が軍の機密のみならず一般人や表現者の表現の自由まで敷衍し、恐怖政治を敷いた例を見ればその怖さがよくわかる。
このことはすでに一党独裁という権力を手にした自民党内の例の石破の「デモはテロ」発言や「どんどん前に進めば良いんです!!」と自民党の部会でアジテートする町村清和会会長と物腰にすでに現れていると言える。
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もう一点非常に怖いのは何が守るべき秘密かということがわからないという点である。
私が房総で懇意にしている白土三平さんが書いた少年忍者を主人公にした漫画「ワタリ」に「死の掟(おきて)」という話が出てくる。
この実録マンガの中では下層の忍者たちは掟を破ると支配者から殺されてしまうのである。
ところがその掟の中身とは何なのか、支配者以外は誰も知らないのだ。
「その掟を知らねば掟の守りようがないではござりませぬか」
忍者たちは見えない掟に恐れおののき、疑心暗鬼になり、支配者に結果的に服従することを強いられる。
つまり何が秘密であるかを知らせない、ことが支配をするための要諦なのである。
その掟がさだかでないと今回の秘密保護法はあの忍者の時代を彷彿とさせる。
掟がさだかでないことはあの「ワタリ」のような疑心暗鬼を生み、人々や表現者の行動を萎縮させるわけだ。
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だが一歩譲ってその掟や秘密が国防に特化するであったとしても何が守るべき機密で何が守らなくてもよい情報であるかという的確な判断は非常に難しいと個人的には思う。
この夏に岩国基地を訪れたとき、感じたのもそのことだった。
私は岩国取材で軍事のプロにおいてさえ、その情報が守るべき機密に属するものなのか、あるいはそうでないのか、的確な仕分けをすることは余程の直感と塩演算能力がないと難しいのではないかとその場で感じた。
1日を費やして岩国の海難救助艇を取材してのち、私は救助隊員十名とその上官そして広報部を交え、懇談(質問取材)に入った。
私はそこで私が救助艇に乗った感想を述べ、疑問に思っていることなどの質問を並べたのだが、当然「それは機密に属することなのでお答えできません」という横槍がお目付役とおぼしき上官の方から随所に入るわけである。
いかに人命救助のための機器であろうと、それは戦時においては”人を殺さない”兵器なのである。
そこに機密が存在することは言うまでもない。
岩国から帰京してのちに広報から電話があり、あの件に関しては書かないでほしいという数件の質問に対する答えをここで書くことは日本国民である以上謹慎すべきだと思っている。
だがそのように用心深く、機密のマニュアルを守ったかに見える軍事のプロが果たして、この取材において機密を守り得たのかと思い起こすに、どうもそうではないように思えるのだ。
それはこのトークですでに開示しているこの世界一と言われる荒天時での着水能力に関する2つのデータである。
そのひとつは着水時の飛行速度が●●キロ(この速度は機密に属すると個人的に判断するので、公開サイトでは記さない。一般の飛行機は210キロ前後)であること。
そしてもうひとつは着水時の機体の角度が上向き●度(同様に機密であると判断するので公開サイトでは記さない)であること。
私はそのふたつのデータが機長の口から出たとき、一瞬上官の様子をちらりとうかがった。
だが、上官は口をはさむことはなかった。
重ねて言うが戦時においてはこの海南救助艇はひとつのれっきとした兵器である。
この世界でも例を見ない3メートルから4メートルの荒天時の荒波に着水することのできる水陸両用飛行機の、そのふたつの機能は船に長年馴染んでいる私としては、これは機密事項ではないかと判断したのだ。
そのふたつのデータはさまざまなコンピューター上の演算と実実験との積み重ねの上に出た貴重なデータであり、かりに仮想敵国でモノマネ天国の中国が同じ海南救助艇を作ろうと思えばそのもっとも琴線となるデータを開示したことになる。
つまり荒天時の着水が時速●●キロがもっとも適切な速度であるということはそのような構造着水時に揚力を持たせるために着水時にプロペラ部の風圧を下方に向ける機構の開発ことによって果たされるわけだ。
また着水角度が機首を上向きにして●度の意味は機体は前後半々で●度に折れ曲がっているということであり、着水時には機首を●度上向きにして、機体後半部分を水面に平行にするということである。
これ以上の角度だと機首がさらに上がり、当然5メートルや6メートルの波にも対応できそうだが、そのことを質問するとこの実験の結果●度が限界点であることがわかったという。
これは私個人はあきらかに軍事機密だと思った。
ところが軍事のプロがその情報の管理を誤っている。
この一例を見ても、戦時において瞬時に何が機密であるべきで何が機密でないかという的確な判断を下せるような人間は余程の天才的な演算能力のある人ではないかと思う。
ところが時間が切迫しているとは言えないこの平和時においてさえ”政治のプロ”であるべき石破氏は情報の取捨選択の判断を誤り、自からを、そして母体である自民党を苦しめ、仮想敵に利を与えることになったわけだ。
こういった似非政治のプロ集団に「特定機密保護法」のような宝刀を持たせた場合、それを的確に使いこなすかと言えばただただそれは怪しい。
それこそ戦前のように気違いに刃物になる公算もありうるだろう。
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ところで、なんでもありの世の中、ここ数日間の懸念材料がふと頭をよぎる。
6日の参議院での「特定秘密保護法案」の成立の前日、あるいは前々日などに、猪瀬東京都知事の事務所の家宅捜索、さらには突然の逮捕などなきよう切に願うものである。