ゆるファシ ~ウンベルト・エーコ『永遠のファシズム』を読んだ本に追加~ #読書 #ゆるファシ
ウンベルト・エーコといえば映画化もされた『薔薇の名前』の著者であり、
図書館の本には毒が塗ってあるとの迷信を刷り込んだイタリア代表ですが。
(図書館ボランティアとしてあるまじき発言)
本書は1990年代、湾岸戦争や難民問題、ネオナチの台頭など当時の社会的問題について
このイタリアを代表する知の巨人が発した講演や論考をまとめた問題提起の書です。
ムッソリーニの栄光とイタリアの不滅についての作文で一等賞を取った利発な少年エーコは、
その3年後、13歳でファシズム体制からの「解放」を告げるパルチザンの演説を聞き、
「自由」の回復に歓喜する人々の声を聞きました。そしてファシズムに抵抗したのは共産党だけではなくさまざまな色のスカーフを巻いた人々だったことを知り、ユダヤ人たちがどのように殺されたのかを知ることになります。
そんな体験から語り始められる表題「永遠のファシズム」は1995年コロンビア大学での講演です。
2020年にあらためて読み返されるそれは、不気味なほどに、
1940年代のヨーロッパを徘徊していた全体主義の亡霊が何度でもよみがえる可能性を予言しています。
整然としたイデオロギーもシステムも持たない、ある幾つかの特徴を満たすだけの、何気ない、無邪気な
ゆるいゆるい「ファシズム的なもの」。2020年のインターネットがその空気を濃くまとっていることは、
少しでも社会的な問題に関心を持っている人には容易に感知できるでしょう。日本においても。
零戦搭乗員の壮絶な特攻死に感動する純粋さはファシズムの特徴の一つである「死の崇拝」です。
誰もがタイトルを思い出すであろうあの小説の作者がどんな差別的発言をしているかはわかりやすい例です。
ナショナリズムはファシズムと仲良しです。それは余所者を排除することでアイデンティティを強調します。
「自由」と「解放」とは決して忘れてはならない課題であること、私たちは記憶し続けなければならないこと。それはモラルであること。
20年前のミレニアムに際してエーコが寄稿した、
やがて来るヨーロッパとキリスト教中心文化の終焉と多民族共生社会を透視した予言、
「次の千年紀には差別主義者や民族主義者は過去の存在となるであろう」という言葉に希望を持って。
コロナウイルスが世界を席巻し、アメリカで人種差別に反対するデモが行われている2020年6月に。
meriyasu