『ジョーカー』IMAX | アディクトリポート

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『ジョーカー』IMAX

2019/10/10 グランドシネマサンシャイン スクリーン12 F-20

 

公開以来、たいへんな話題のこの映画。

見る人によって、意見や感想が拮抗している。

 

たとえば

——と言った具合に。
 
とりあえず行きつけの池袋でIMAX鑑賞。
 
この館で上映中、鳴りっぱなしのノイズの正体がやっと判明!
 
まだ画面に何も映写される前から、
ドゥルルル、ドゥルルル、ドゥルルル
と鳴っているではないか!
 
スクリーン向かって左側下の、
空調のファンの回転音だ。
 
わずか一月後の8/22には、もうノイズが出てたんだから、
この空調ファン、
よほどの欠陥製品である。
 
設備費をケチっちゃいかんよ、
シネマサンシャイン(佐々木興業)!
 
…と、相変わらず前置きが長いが、
肝心の映画『ジョーカー』の感想は?
 
たいへんな感銘を受けましたが、
世間の評価、感想が二分されているのも頷けます。
 
真ん中あたりから終盤に向けた物語展開を、
食い入るように見つめながら頭に浮かんだ言葉は、
「この映画は虚構の形を取りながら、描いていることはウソ偽らざる現実だ」
だった。
 
だから
「本作の主人公を理解できるのは、
まさに描かれているとおりの人生を送ってきた自分しかいない」
と共感宣言する人が多いのもわかるし、
そういう、共感、同化の動きを危険視し、
犯罪の正当化に同意、同調する立場を自分は取らないと、
「いいこちゃん宣言=自分は危険分子ではない安全宣言」
に踏みとどまる人の態度や姿勢も理解はできる。
 
だが映画『ジョーカー』だけを鑑賞すれば、
「なるほど、そういうことね」
と納得できることが、
過去のバットマン映画『ダークナイト』(2008)の
ヒース・レジャーの演じた、
あのジョーカーと比較すると、そうはすんなり受け入れられなくなってしまう。
 
いやいや、ジョーカーというキャラ名は同じでも、
完全に別キャラなんだから、
混同しちゃイカンよ!
 
今回の『ジョーカー』を正しく鑑賞した人は、
 
一方で『ダークナイト』のヒース・レジャー版ジョーカーは、
ダークナイト
小画面2
  • ウソをつきまくる
  • 他者に共感しない
  • 自己の犯罪を正当化する
  • 他者をそそのかして犯行に誘い込む
  • 犯行に反省がないから更正が見込めず、再犯をくり返す
——等々、共感を誘わない徹底した危険人物。
※画像と本文は無関係です(笑)
 
……のはずなんだが、
『ダークナイト』公開たちまち、
劇中でより共感を誘うのは、
陰鬱な表情のブルース・ウェイン/バットマン=ダークナイト(クリスチャン・ベール)より、
小画面
ポッド
ためらいなく悪行の限りを尽くす、
ジョーカーの方だろ!という意見があり、
その発言者にもサイコパス気質があって「やれやれ」だったし、
 
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アメリカ本国では『ダークナイト・ライジング』(2012)の時に、
「俺がジョーカーだ!」宣言の男が、
公開たちまちの映画館で銃を乱射するなど、
ヒース・レジャー版ジョーカーが、
犯罪心理を刺激する存在だったのは間違いない。
 
だから今回の『ジョーカー』版、
ホアキン・フェニックスが演じる新ジョーカーが、
観客の共感を誘うような描かれ方をされてしまうと、
またも犯罪を助長するのではないかと憂慮され、
「俺はその手には乗らないぜ」宣言が、あちこちから発せられている。
 
ではしかし、
どうして映画『ジョーカー』は、
当然そうした心配がされることなど重々承知の上でなお、
新ジョーカー像を、観客の共感を誘う方向に変えたのか?
 
一つ目の答は、
だってそれが(虚構ではなく)事実だから。
 
近代国家は、
生存権や社会権と言った基本的人権が、
全国民に等しく保証されている
……はずなのに、
現実にはまったくそうはなっていない。
 
権力者や富裕層は、
弱者を切り捨てることで、
自分への富と権力を集中させており、
これでは近代国家の仕組みが正常に機能してないんだから、
前時代的な悪夢世界に逆行している。
 
ホアキン版ジョーカーと同じ境遇に置かれた人は、
現代アメリカにももちろん、
日本にだって山ほどあふれている。
500
※だから写真と本文は関係ありませんってば!
 
それで思い出したが、
『見えない目撃者』でまたしても書き漏らしたことを、
ここに書いておかないと。
この映画をはなから酷評すると決めつけた評者には、
同題の2015年作中国版や、
 
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同じアン・サンフン監督によるオリジナルの韓国映画『ブラインド』(2011)
 
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に対して、
「どうせ中国映画や韓国映画なんて、くだらないに決まっている」
という偏見があるのだろう。
 
しかし邦画にだって名作も駄作もあるように、
中国/韓国映画にも名作があり、
『神弓 KAMIYUMI』(2011)のような名作には、
わいど
庶民目線や社会批判の視点がある。
 
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『見えない目撃者』がすぐれていたのは、
親にさえ見放された社会的弱者を、
主人公の女性が最後まで見放さないところにある。
つまり見捨てられても仕方ない人を、
自分の身まで危険にさらしながら、
最後まであきらめず見捨てないところに、
観客は感動するわけ。
 
吉岡里帆が演じた役は、
元警察官が失明して職を失っているが、
警察官の良き資質が生きているからこそ、
事態を解決に導く。
 
現代の日本の警察/検察とは、
これまたエライ違いである。
 
ところが映画『ジョーカー』では、
ホアキン・フェニックスは彼を見放してはならない立場の人たちから、
徹底的に見放され続ける。
『見えない目撃者』と違って、
誰もホアキンに救いの手を差し伸べない!
しかも彼の相談相手を務める民生委員も、
近隣住民の魅力的な若い女性/シングルマザーも、
たまたまバスで前の席に座った母子も、みんな黒人で、
あきらかに白人のアーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)の方が地位が低い。
 
でもって、漫画『バットマン』の物語の核は、
荒廃した社会が生み出した凶悪犯罪者の前には、
警察も裁判所もあてにならず、
自分の身は自分で守るしかない、
自警団(vigilante)思想の行きすぎた究極モデルがバットマン!
——というところなわけだが、
映画『ジョーカー』では、
凶悪犯罪者の方だって、
荒廃した社会が生み出した犠牲者で、
ジョーカーの犯罪の犠牲者=〈ジョーカーの乱〉に殺害された被害者=大富豪トーマス・ウェインが、
実は犯罪者ジョーカーを生み出す原因、
つまりジョーカーの方が富豪ウェインの被害者/犠牲者だったという、
驚愕の新事実が描かれたのには心底驚いた!
 
鑑賞した当日は、
夜に
↓オガケンサンバ氏と会食し、
同氏はかなりのアメコミ通で、
ジョーカーには厳密な設定が存在せず、
いかようにもいじりがいがあり、どのような改変も許されると聞き、
たいへんな目の付け所だったと思い知った。
 
とにかく、
文句のつけようがありません。
 
↑ザック・スナイダー監督のしくじり続きで凋落した
 

『バットマン vs スーパーマン/ジャスティスの誕生』(2016)

DCブランドのダメ路線に回帰せず、
かといって、
のような、
カラッと陽性の世界観にも移行せず、
バットマン過去作と潔く訣別しながら、
ティム・バートン版(1989)の
ウェイン夫妻殺害シーンは踏襲するなど、
名作へのリスペクトも欠かさず、
ただただひたすら、感嘆しました。

映画がジョーカーという既存キャラに、
説得力のある、「これまで語られなかった、そうなる経緯」を描いた偉業に比すれば、
「いくら悲惨な境遇を描いても、
私は同調して悪の道に堕ちたりしない」
という観客の安全宣言は、
ほんとどうでもいい、「そこかよ!」な的外れ感想に感じられて仕方ない。
 
たとえばですよ、
このブログの読者が、
「おお、今日は『ジョーカー』の記事か! どれどれ、どんなことが書かれてるのか…」
と楽しみに読んでたら、
「私は悪の理屈にはまって、ジョーカーのように犯行には至りません」
宣言なんかしたら、
「はぁ?こいつ、何言ってンの?
お前がどう行動するかしないかなんて、こっちは興味ないんだよ!」
と思われて当然って気がしますけどね。
 
これ以上書くと差し障りがあるのでやめときますが、
都市景観が迫力で、
大音響でもあり、
IMAX鑑賞に満足でした。
 
 
ご覧あれ。