今年9月に発行になった拙著『21世紀の「男の子」の親たちへ』に書いたことですが、取材にご協力いただいた男子校の先生たちは、幼児のうちは、文字や計算を教えたりしなくていいから、とにかくひとと触れ合ったり、自然に触れたりする体験を豊富にしてくださいと口をそろえていました。

 

“いい学校”の先生たちが「自然の中でたくさん遊ばせましょう」というと、そうすることで将来の子どもの偏差値が上がるかのように思うひとがいるかもしれませんが、そういうことではありません。自然の中で遊ばせましょうといっても、何も屋久島や知床半島のような世界遺産の大自然に連れて行くということではないんです。

 

都会の街中にもある、ちょっとした木立があるような小さな公園でも十分です。また、図鑑を手にしながら「これは○○の木」「これは○○という花」などといちいち知識を教える必要もありません。ありのままの自然を五感で感じる。ただそれだけでいいのです。

 

自然の中で具体的にどんなふうに過ごせばいいのか、親は何をすればいいのか、それがどんな効果を子どもにもたらすのか、まだピンとこないかもしれません。そんなひとにおすすめの本があります。レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』です。レイチェル・カーソンはもともと海洋生物学者で、作家としても有名です。

 

彼女は1962年に『沈黙の春』を発表します。環境の汚染と破壊の実態を、世に先駆けて告発したのです。世界的に環境問題への関心が高まったのはこの著作がきっかけだったと評価されています。その彼女が、幼い甥っ子のロジャーとともに海や森で自然と触れ合う様子を生き生きと描いた作品が『センス・オブ・ワンダー』です。これが彼女の遺作となりました。

 

センス・オブ・ワンダーとは、神秘さや不思議さに目を見張る感性のことです。そしてこれを読むと、子どもとともに自然触れ合うとはどういうことなのかが、自ずとわかってくるはずです。印象的な部分をちょっと読んでみましょう。

 

子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみちあふれています。残念なことに、わたしたちの多くは大人になるまえに澄みきった洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力をにぶらせ、あるときはまったく失ってしまいます。

(中略)

生まれつきそなわっている子どもの「センス・オブ・ワンダー」をいつも新鮮にたもちつづけるためには、わたしたちが住んでいる世界のよろこび、感激、神秘などを子どもといっしょに再発見し、感動を分かち合ってくれる大人が、すくなくともひとり、そばにいる必要があります。

(中略)

子どもたちがであう事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生み出す種子だとしたら、さまざまな情緒やゆたかな感受性は、この種子をはぐくむ肥沃な土壌です。幼い子ども時代は、この土壌を耕すときです。

 

書籍としては非常に短い作品ですから、子育てで忙しい親御さんでも読めると思います。これを読むと、近所の公園をお散歩するときの視点が変わると思います。そしてなにより、お子さんを見る目も変わると思います。いや、子育てのためなんて思わなくても、純粋に、この宇宙に生まれてきて幸せだなと思える本です。おすすめです。

 

 

※2019年11月21日にFMラジオJFN系列「OH! HAPPY MORNING」でお話しした内容の書き起こしです。