僕と彼女は医者だ。
正確に言うと国試合格したばかりのひょっ子研修医で、忙しい毎日を過ごしている。
彼女とゆっくりデート出来たのも、3ヶ月前か…
ただその頃から…
僕は内科回りで彼女は外科回り、違う診療科ということもあり、
すれ違いの日々…
電話をもらっていても、
掛け直す時間も無く、
寝食もままならない。
まさにそんな日々だった。
次の研修先の指導医の先輩医師が、イケメンで優しくてカッコいいなどという他の男の話を聞かされたのが、最後に彼女と交わした会話だ。
ある日、中庭を突っ切って、
薬剤科に向かっていた時のこと。
僕は見てしまった…。
『一度、彼とちゃんと話をした方が良い!』
『でも、だって…』
泣き出す彼女の肩を優しく支える背の高い男性。
あれが、噂のイケメン医師か…。
彼女の側に居てあげられない自分を思うと、
彼女の気持ちが傾いてもムリは無いのか…。
その日は、病棟師長から、ガミガミ怒られて1日が終わったような気がする…。
僕は彼女を愛してる。
別れたくない。
他の男に取られるぐらいなら、
いっそ…。……。
僕はかなり疲れていたらしい。
どうして、こんなことを考えてしまったのか…。
薬剤科で、ある薬を持って帰って来てしまった…。
プルプルプル。
ガチャ。
『あの…、私だけど、
次のお休みは、いつかなぁ?
ちょっと話したいことがあって…。
…うん。その日なら、大丈夫。
貴方の部屋に行くね。』
ムリに明るい口調にしたような深刻そうな声だった。
これは、無味無臭の毒薬。
苦しまずに眠るように死へと誘う薬。
彼女の大好きなミルクティーに、
薬を数滴垂らした。
先ほど『今から行くね』と彼女から電話があったから。
間もなく彼女はやって来る…。
僕は、本当に薬を入れたのか?
不安になってきた。
…。
……。
見た目は、普通のミルクティーだ。
匂いは………無い。
味は……………。
1年後、
僕に、よく似た赤ん坊を抱いた彼女が、
墓石の前で線香をあげていた。