【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

核事故の法則

2019-11-12 07:22:03 | Weblog

 核事故が起きたら、どこの国でも政府は必ず嘘をつきます。まずは「事故の隠蔽」。しぶしぶ公表する場合でもたとえどんな事故であっても「軽微で健康の心配はない」と。つまり、核事故に関しては、政府が言わないことに注意を払う必要があるし、何か言った場合にはそれを信じない必要があります。
 この法則に反対する人は、反例を出してみてください。事故が起きたとき政府が即座に正直にすべてを発表した事例です。

【ただいま読書中】『世界の核被災地で起きたこと』フレッド・ピアス 著、 多賀谷正子・黒河星子・芝瑞紀 訳、 原書房、2019年、2500円(税別)

 世界17箇所の核被災地の地名が列挙されています。恥ずかしながら、私がわかるのはその中で9箇所だけ。
 まずは単位の複雑さ(ベクレル、レム、ラド、シーベルト、キュリー、レントゲン、グレイ、クーロンなど。さらにその大きさでマイクロからギガ・テラ・ペタなんて接頭語も使います。これは「放射能」と「(吸収される)放射線」を測定する必要から単位系が複雑になっているわけです。著者は話をシンプルにするため、本書では放射能量については「キュリー(ちなみに1キュリーは370億ベクレル)」、放射線量は「ミリシーベルト(ちなみに4シーベルトが致死量。人が自然界(宇宙線や土壌)から受ける放射線は1年で2〜3ミリシーベルト。日本だと花崗岩質の西日本の方が東日本よりちょい多めになってます)」だけを使う、と宣言します。
 まずは「ヒロシマ」。オバマ大統領が訪問した翌年の平和式典に著者は参列、強い印象を得ています。さらに「被爆者がアメリカに対する憎しみを発露しないこと」と「広島の人たちが戦争そのものについてを資料館に展示しないこと」にも強い驚きを感じています。
 1957年の「ウラルの核惨事」は、冷戦下でも鉄のカーテンを通じて噂だけはこちらにも伝わってきていました。ただ「大変な事故が起きたらしい」というだけで、詳細は不明でしたが。本書によると、プルトニウム生産工場でタンクが爆発、大量(2000万キュリー)の核物質が周囲にまき散らされてしまった、という事故です。その9割は工場周辺に降り注ぎましたが、200万キュリーは強風に乗って周辺の田園地帯に(最大で数百マイル先まで)運ばれていきました。この事故の情報が公開されたのは1991年にソ連が崩壊した後のことでした。なお、この時除染作業のために集められた兵士や強制収容所の囚人たちについて、その後の健康調査はされていないそうです(だから「健康被害を示す調査結果は存在しない」と断言することが可能になっています)。著者はこの時強制疎開をさせられた村を訪問しましたが、現在の放射線量は年間3ミリシーベルト(環境放射線とほぼ同等)ですが、土壌や湖にまだ放射性物質(ほとんどはセシウム137)が潜んでいました。皮肉なのは、人の立ち入りが制限されているため、野生動物はのびのびと生きている(自然が豊かになっている)ことです。11月9日に読書した『錆びた太陽』のようなとんでもない生物はいないようです。
 著者は「賛成とか反対とか言う前に、まず現地を訪れてみる」主義のようです。だからでしょう「核技術者の独善的な主張と、反核派のキャンペーンにおけるヒステリックな主張とは真っ向から対立してきた」なんてことを平気で言います。
 ソ連では、別のところも大規模な核汚染を受けました。そこでは住民の健康調査は行われましたが、住民にそのデータはフィードバックされませんでした、というか、なんのための調査かさえ秘密にされていました。国際法では、当人には知らせずに人を「調査」対象にすることが禁じられていますが、そんなことはお構いなしです。おっと、これはソ連の特質ではありませんね。日本でも米軍が行った被爆者健康調査は似たようなものでした。被爆者が望むのは「調査」ではなくて「正しい知識の開示」と「治療」なのですが。
 アメリカのプルトニウム生産工場でも、火災や爆発事故が起きています。ロッキーフラッツ工場では、一回目の爆発事故は隠蔽できましたが、二回目は周囲にばれてしまいました。ただし裁判は竜頭蛇尾に終わったようです。
 イギリスでも放射能放出事故が起きていますが、政府はきっちり隠蔽に成功しました。
 第3部のスリーマイル島事故あたりから、事故そのものの隠蔽は難しくなっています。しかし隠蔽体質は変わりませんから、都合の悪いデータの隠蔽を行う、というたちの悪さが目立つようになります。そういえばフクシマのときも、政府はやたらといろんなデータの公表やきちんとした調査の実行を渋っていましたね。
 どの汚染地も、問題は「その後」です。除染をするにしても封じ込めるにしても、放射性物質とは息の長い付き合いをする必要があります。それをきちんとするだけの“根気"と覚悟が、人類にあります?




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