【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

コストか投資か

2020-07-11 07:44:57 | Weblog

 日本の林業の衰退と荒れた山とその結果としての大水害や山崩れなどの災害の頻発は、林野庁の失敗で、その失敗の原因は、役人が林野業を「単年度の予算を稼ぐための手段」と見なしたことにある、と私は考えています。あれは「短期間でコスト回収を考える事業」ではなくて、「長期間(最低でも数十年)の投資」なのに、と。

【ただいま読書中】『トイレがつくるユニバーサルなまち ──自治体の「トイレ政策」を考える』山本耕平 著、 イマジン出版、2019年、1200円(税別)

 日本で最初の「公衆トイレ」は、明治四年(1871)横浜の「路傍便所」だそうです。外国人が増えてきたため神奈川県が設置を通達したのですが、はじめは樽を地面に埋めてまわりに囲いをしただけ、という「江戸時代スタイル」が不評で、薪炭商の浅野総一郎(浅野セメントの創業者)が1879年に私費を投じて「洋風六角形」という画期的なデザインの「改良公同便所」を63箇所に設置しました。
 近代的な公衆トイレが飛躍的に普及したのは、1964年の東京オリンピックがきっかけです。もっとも大きな「レガシー」は「ピクトグラム」。たしかに一目でトイレだとわかります。80年代には自治体がアメニティーに目を向けるようになり、景観に配慮したトイレやバリアフリートイレを設置するようになりました。
 平成年間に家庭のトイレの洋式化(温水洗浄便座の普及)はどんどん進み、それに伴って公共トイレへの要求水準も上がりました。学校のトイレも洋式化が進み、現在の子供たちは和式トイレの使用経験がありません。
 公衆トイレに関する法律は「廃棄物処理法」「都市公園法」「自然公園法」「建築基準法」「バリアフリー法」、ちょっと変わったもので「雨水の利用の推進に関する法律」なんてものもあります。さらに各自治体の条例も関係してきます。
 人が集まるところにはどこでもトイレが必要ですが、たとえば富士山頂のトイレを維持するためには年間5000万円かかっている、と聞くと、ちょっと考えざるを得ません。私が富士登山をしたときには、一泊二日で山小屋のトイレを計2回使いましたが、それ以上の我慢はできませんでした。
 「バリアフリー」とは身体障害者が不自由なく使えるように障壁を除去すること、「ユニバーサルデザイン」とは「多様な人が誰でも利用しやすいように、都市や生活環境をデザインすること、と本書にはあります。すると前者は「あらかじめどのような障害者が存在するか」を想定してから対応する、になるし、後者は「誰でも来い、受けて立とうじゃないか」、かな? 「個人」は多様で、「障害の有無」「あるとしたら、その障害の種類と程度と各障害の組み合わせ」「体格の違い」「握力の違い」「認知症の有無」など様々な要素が見えてきます。そのすべてに対応できるのが「ユニバーサルデザイン」かな。

 



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