おもしろい本をひとつ読み終わると、次に読もうと用意していた本ではなく、おもしろいと思ったその本の流れで別のものを読もうとしてしまうのは、わたしだけだろうか。
少なくともわたしには、顕著にその傾向がある。
当然のなりゆきとして、ライブラリーの「積ん読」が、いくら数を読んでも減るどころか増えるいっぽうとなるのは、この際おいておくとして、その傾向は大きく2つに分かれている。
ひとつは、おもしろいと思ったその本の著者が書いた別のものを読むパターン。
そしてもうひとつは、おもしろいと思ったその本の主旨に沿って別の人が書いたものへと移っていくパターンだ。
『私家版 日本語文法』(井上ひさし、新潮文庫)をたのしく読み終えた今回もそのご多分にもれず、次候補には、同じ作者の『自家製 文章読本』(井上ひさし、新潮文庫)と、日本語文法つながりで買った『日本語練習帳』(大野普、岩波新書)があがった。
さて・・どちらにしようかな裏の神さまの言うとおり・・と、少しだけ考えたが、そもそも『日本語練習帳』のほうは、わたしのなかで信頼がおけるホンヨミストとして一二を争う”新潟のハム”さんが、先日このブログにくれたコメントに出ていた書名にビビッときて買ったもの。
ならばそちらが先でしょ、と決めて読みはじめると、これがまた大当たりだった。
いや、「もっときちんとした文章を書きたい」、そのためには、「日本語(文法)をいまいちど勉強し直さなければならぬのだ」という動機を思えば、むしろ、『日本語文法』よりもこちらのほうが、わたしが欲していたものだといえる。
読みはじめるなりすぐに、そう感じた。
なによりその内容と論旨が明確でわかりやすく、いまだに「文法」という単語を聞いたり口にしたりするだけでアタマが痛くなってくるわたしのような人間にとっては、目と口と心とにやさしい。
たとえば、井上ひさしが『私家版 日本語文法』でも多くの稿を割いていた「”ガとハ”問題」ではこうだ。
まず最初に「ハ」から。
「ハ」には4つの働きがあると著者は書く。
その1「予約」。
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ハは「問題を出して、その下に「答え」がくることを予約するのが役目だ」といえます。(Kindleの位置No.578)
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その2「対比」。
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私は猫は嫌い
とあるときは、「私は」のハの答えは「嫌い」です。「猫」は「嫌い」の対象物ですが。「猫は」のハは二つ目のハですから「対比のハ」です。ここには「猫は嫌い」とだけあって、「犬は・・・」と並べては書いてありません。しかし、「猫は」とあるだけで、「別の何かは(好きダケド)」が裏にあるのです。(No.683)
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その3「限度」。
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「限度のハ」は「対比のハ」の延長上にある使い方です。ハは、本質的に、「一つのことを取り上げて、他の同類と比較する」ことを役目として、しかもそれとは違うと明示するのです。Aハ、Bハの対比のように、「十日まではだめです」といえば、「十一日ならばいいけれど」という意味が裏に見えます。「四時からは」という表現は「それ以前は」との対比があるわけで、それと「限度」の使い方とは根本は共通です。(No.869)
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その4「再問題化」。
著者はまず、上記3点の共通項をこう説明する。
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ハの働きを三つ見てきました。1.話題として一つのこと(もの)を設定する、2.対比する、3.限定する。この三つの共通点は何かというと、ハは自分の上に来ること(もの)を、とにかく一つ選択して、「これは確かなこと(もの)だ、他とは違う」と取り立てることといえるでしょう。(No.874)
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そのあと、四番目の解説に入る。
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私が行くか行かないかは分かりません
「私が行くか行かないか」ということは、問題(topic)として、話題として確定的で、ゆるぎないことだとハが決定しているのです。その確定した問いに対しての答え(新しい情報)として、「分からない」ということが加わったのです。つまりハは、事柄・事実が確かだというのではなく、問題として確かだというのです。これが日本語のハという助詞の特性です。このことが、これまでの文法家の中にさえなかなか理解できなかった人がいます。ここをよおく呑みこんでください。(No.882)
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そして総括。
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この四つには一つの共通点があります。ハは、すぐ上にあることを「他と区別して確定したこと(もの)として問題とする」ということです。その根本的性格がハの特質です。(No.910)
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なんと明快
なんと明確
そして、なんと論理的。
以上、「”ガとハ”問題」のうち、「ハ」について。
となると当然、お次は「ガ」がこなければならないが、いささか長くなりすぎた。
今日のところはこれぐらいにしておいて、お次はあしたのおたのしみ。
ん?
「あした」と約束してだいじょうぶか?
ゴホン
元へ
お次はあとのおたのしみ。
では。