帯状疱疹後神経痛と共に読むドストエフスキー(連載19) 師匠と弟子
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師匠と弟子
イエスを〈人の子〉として見るなら、イエスほど孤独な存在はない。わたしは人間は孤独な存在だと思っている。わけも分からずこの地上世界に誕生し、わけも分からず死んでいく。しかし孤立する必要はないと思っている。選りすぐった十二弟子のすべての弟子がイエスを理解できずにいる。わたしはかつて生前のイエスと弟子たちのこういった関係性を〈実存の異時性〉と名付けた。物理的に同一の時空を生きながら、イエスと弟子たちの立っている舞台は異なっているのである。イエスの死後、弟子がイエスの生きていた舞台に立てた時、その時こそ弟子がイエスの復活に立ち会えたというのがわたしの復活理解である。イエスが〈三日後〉に復活するという〈三日〉は象徴的に理解されるべきで、弟子によっては何年もかかったであろうし、死ぬまでイエスの復活に立ち会えなかった者もいたであろう。イエスの復活に立ち会えた者をわたしは〈実存の同時性〉を獲得した者と見た。この理解は基本的には今も変わらない。
わたしは師イエスの気持ちはよく分かるが、ペテロをはじめとしてユダ、その他裏切る弟子たちのその屈折した心理を体感的に知ることはできない。口先ではイエスの後に従うと言いながら、心の内では裏切り続けている。こういった卑小卑劣な感情を抱いて生きるとはどういうことなのだろうか。
ゲッセマネという所に来て、イエスは弟子たちに言われた。「わたしが祈る間、ここにすわっていなさい。」
そして、ペテロ、ヤコブ、ヨハネをいっしょに連れて行かれた。イエスは深く恐れもだえ始められた。
そして彼らに言われた。「わたしは悲しみのあまり死ぬほどです。ここを離れないで、目をさましていなさい。」
それから、イエスは少し進んで行って、地面にひれ伏し、もしできることなら、この時が自分から過ぎ去るようにと祈り、
またこう言われた。「アバ、父よ。あなたにおできにならないことはありません。どうぞ、この杯をわたしから取りのけてください。しかし、わたしの願うことではなく、あなたのみこころのままを、なさってください。」
それから、イエスは戻って来て、彼らの眠っているのを見つけ、ペテロに言われた。「シモン。眠っているのか。一時間でも目をさましていることができなかったのか。
誘惑に陥らないように、目をさまして、祈り続けなさい。心は燃えていても、肉体は弱いのです。」
イエスは再び離れて行き、前と同じことばで祈られた。
そして、また戻って来て、ご覧になると、彼らは眠っていた。ひどく眠けがさしていたのである。彼らは、イエスにどう言ってよいか、わからなかった。(14章32~40)
ゲッセマネでイエスは何を祈ったのか。なぜペテロ、ヤコブ、ヨハネの三人のみを連れて行ったのか。なぜこの三人は、イエスに命じられたように起きて待つことができなかったのか。
イエスは自分が裏切り者によって逮捕されることを知っていた。福音書記者は「イエスは深く恐れもだえ始められた」と記している。ここでのイエスの恐れともだえを〈人の子〉のものとしてとらえればよく理解できよう。イエスは逮捕、ゴルゴタの丘での十字架刑を予知している。イエスの三人の弟子に向けての言葉「わたしは悲しみのあまり死ぬほどです。ここを離れないで、目をさましていなさい。」を孤独な人間の言葉として聞くことができる。しかし、弟子たちはどういうわけかイエスの人の子としての悲痛な言葉さえまともに受け止めることができず、三度にわたって眠りほうけている。
なぜイエスは悲しんでいるのか。自分が裏切り者によって逮捕され、処刑されることを悲しんでいるのか。それとも自分のことをまったく理解できない弟子たちを思って悲しんでいるのか。そのどちらとも言えよう。いずれにしてもイエスときわめて身近な時空を生きている弟子たちが、師イエスをまったく理解していない。イエスの悲しみ、恐れ、もだえを自分のものとして体感できるは弟子はいない。イエスがひとり祈っているとき、十二弟子より選ばれた三人の弟子は眠りほうけている。しかも三度にわたってである。
ドストエフスキー文学に関心のあるひとはぜひご覧ください。
「清水正先生大勤労感謝祭」の記念講演会の録画です。
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「池田大作の『人間革命』を語る──ドストエフスキー文学との関連において──」
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これを観ると清水正のドストエフスキー論の神髄の一端がうかがえます。日芸文芸学科の専門科目「文芸批評論」の平成二十七年度の授業より録画したものです。是非ごらんください。
ドストエフスキー『罪と罰』における死と復活のドラマ(2015/11/17)【清水正チャンネル】 - YouTube