ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

空に聞く

2020-11-22 18:00:07 | さ行

この監督の息づかいは、なぜこうも優しいのだろう。

 

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「空に聞く」72点★★★★

 

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「息の跡」(17年)小森はるか監督の新作。

 

岩手県・陸前高田市の「陸前高田災害FM」で

パーソナリティを務めた阿部裕美さんを追ったドキュメンタリーです。

 

「陸前高田災害FM」は

2011年12月10日に開局したFMで

プレス資料に寄稿された金山智子さん(情報科学芸術大学院大学教授)によると

こうしたFM局は震災後に沿岸部を中心に30局も開局されたそう。

 

 

阿部さんはそこで開局当初から

2015年までパーソナリティをしていたんですね。

 

普段ラジオを聞く習慣がないワシなのですが

移動の車のなかや、取材先のお仕事場(農家さんとか)などで久しぶりにラジオを耳にすると

おもしろいなあと思うと同時に

不思議と、センチメンタルな気分になる。

それを聞きながら暮らす人の「生活」を

背後に感じて、しみじみしちゃうんですかね。

 

で、そんなFM局で阿部さんは

災害情報を伝える、というだけじゃなく

仮説住宅に暮らすお年寄りを訪ねて、その人の人生を聞く取材をしたりしている。

こたつに入りながら、おじいさんに

「奧さんとのなれそめは?」「いやあ恥ずかしいねえ」みたいに

インタビューしたりする様子が

とってもあったかく、感じがよくて、好きになってしまう。

 

阿部さんは

決してプロの話し手だったわけじゃなく

震災前はご夫婦で和食料理屋を営んでいたんです。

 

すごくホッとする声と、話しかたをする方で

きっと取材相手も聞く人の心も、癒やしていたんだろうなあと。

その姿は瓦礫と化したシリアで

私設ラジオ局を立ち上げた大学生を追った「ラジオ・コバニ」(18年)

にも重なったりして。

 

そして、そんな阿部さんを追う小森監督の視線もまた

とても優しくて、ホッとする。

視線だけじゃなく、取材の場に同席しているそのたずまいや息づかいのやさしさも

映像に現れている。

心の素直さ、きれいさが映像に映るって

こういうことなのかな、と。

 

阿部さんも、陸前高田の人々も

言うまでもなく喪失や虚無から生き続けることの難しさを

経験してきた方たち。

 

彼らは、そこに在る悲しみを、たしかに抱えつつも

立ち上がり、歩み続けている。

そんな思いをとらえた本作に

コロナ禍のいま、学ぶことがあるなあ、とも思うのでありました。

 

★11/21(土)からポレポレ東中野ほか全国順次公開。

「空に聞く」公式サイト


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