魔女狩りのヨーロッパ史 | 空想俳人日記

魔女狩りのヨーロッパ史

 これまで、この現代の世界情勢を理解するには、まずは学生時代「日本史」しか学ばなかったボクの弱点「世界史」を知る必要があると考え、これまで『民族でわかる世界史』やら『民族と宗教からわかる世界史』やら、日本では封印されてた地政学の観点から『図解 いちばんやさしい地政学の本』やら『地政学でよくわかる! 世界の戦争・紛争・経済史』やら、はたまた、人類史という観点から『人類史の「謎」を読み解く』やら『漫画サピエンス全史 人類の誕生編』『漫画サピエンス全史 文明の正体編』やら、いろいろ読んで来たわけだが。そんな世界の流れを見てきた自分が、本屋さんの棚の一点から目が離さなくなった。それが、この『魔女狩りのヨーロッパ史』なのだ。

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 以前であれば、歴史に、過去に何を学ぶか、そうした時、どうも「臭いものには蓋をしろ」で来てたように思う。そうではなく、二度と過ちを繰り返してはいけない、今、その過ちを繰り返そうとしているのではないか、そういう見方をすべきことを、『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』『とめられなかった戦争』や『ぼくらの戦争なんだぜ』で痛いほど痛感したではないか。そして、中東問題にしても、テレビや新聞のガセネタやフェイクを信用せず『中東問題再考』や『ハマス・パレスチナ・イスラエル-メディアが隠す事実』で真実を知ったではないか。
 そう、この『魔女狩りのヨーロッパ史』の「はじめに」にも、こう書かれている。
《本書では、15世紀から18世紀のヨーロッパに輩出した厳密な意味での魔女と魔女迫害を対象とする。しかも魔女狩りの時代である「近世」の魔女は、ヨーロッパ文明の隠れた本質探求へと導いてくれるアリアドネの糸のようにも思われる。》
 そうだ、「ヨーロッパ文明の隠れた本質探求へと導いてくれるアリアドネの糸」かもしれないぞ、そう思って、手に入れたのだ。14世紀に輝かしいルネサンスという時代がありながら、何故にヨーロッパでは、その後、魔女狩りなどが行われたのか。
 以下が目次である。

第1章 魔女の定義と時間的・空間的広がり
 魔女とは何か
 悪魔との契約
 異端セクト化
 魔女の害悪魔術
 動物への変身と使い魔
 迫害の主対象は年老いた女性
 迫害時期・地域と規模
 魔女狩りの政治状況

第2章 告発・裁判・処刑のプロセス
 教会裁判所と異端審問制
 世俗裁判所の大きな役割
 噂から始まる魔女狩り
 魔女発見人の暗躍
 魔女委員会と請願
 訴訟の展開
 全身検査と拷問
 量刑および処刑方法

第3章 ヴォージュ山地のある村で
 魔女の「巣窟」としての山間奥地
 農民たちに流布する対抗呪術と招福呪術
 ブルオモン村のピヴェール家とドマンジュ家
 ピヴェール家に掛けられた嫌疑
 少女マンジェットの告発と崩壊する家族
 祖母に責任を!
 人間の弱みにつけ込む司法機構

第4章 魔女を作り上げた人々
 中世の神学者
 教皇と説教師と大学
 悪魔学者の重責
 『魔女への鉄槌』
 ジャン・ボダン
 ニコラ・レミ
 ジェイムズ六世
 アンリ・ボゲ
 ピエール・ド・ランクル
 他の悪魔学者たち

第5章 サバトとは何か
 サバトの誕生と発展
 サバト開催地と日時
 夜間空中飛行と膏薬作り
 悪魔への臣従とさかさまの宗教儀式
 人肉食宴会・狂乱ダンス・乱交
 絵画と印刷文化によるイメージ拡散

第6章 女ならざる“魔女”――魔女とジェンダー
 男の“魔女”=妖術師
 魔術師の肯定的評価とメランコリー
 世代間闘争が魔女狩りを生み出す
 裁かれる子どもたち・告発する子どもたち
 家族現象としての魔女

第7章 「狂乱」はなぜ生じたのか――魔女狩りの原因と背景
 悪天候・疫病・戦争
 農村共同体の解体とスケープゴート
 賢女と魔女
 都市の魔女
 都市エリートによる農村の文化変容
 国家権力の発現としての魔女狩り
 カトリックとプロテスタントの相克
 社会的規律化

第8章 魔女狩りの終焉
 魔女狩りに反対した人々
 一七世紀の悪魔憑き事件
 高等法院の開明的態度
 理性への信頼と啓蒙主義
 魔女のグローバル・ヒストリー
 カウンター・カルチャーとしての新魔女運動

 おわりに――魔女狩りの根源


第1章 魔女の定義と時間的・空間的広がり

 魔女は人を病気にしたりけがをさせる妖術を使う。中には呪いをかけて新婚男性の性的能力を奪うことも。また、天候魔術、雷や嵐を巻き起こしたり。
 興味をそそられたのは、空中飛行と動物への変身だ。おおお、『飛ぶ男』。魔女は女性だ。変身は、猫や狼の他、山羊、牛、犬、兎、フクロウ、コウモリ、などなど。
 そして、知らなかったのが「使い魔」。悪霊の一種で、動物の姿をして魔女に仕え、主に悪行を遂行し、魔女の「愛人」として情交するそうだ。
《イングランドのサフォーク州の魔女マーガレット・ワイヤードは7匹の使い魔を所持していたが、自分には5つの「乳首」しかないので、使い魔たちは、ミルク吸いの時になると豚のように乳首を争いあう、と自白している。》
魔女狩りのヨーロッパ史04

第2章 告発・裁判・処刑のプロセス

 では、どのようにして告発があったのだろう。ボクはてっきり、カトリックVSプロテスタントみたいな、宗教的異教者を教会団体などが告発する者かと思ってたが、そうではなかった。なんと魔女狩りは、噂から始まった。
《共同体の中で魔女が仕立て上げられる最初のきっかけは「噂」である。》
《隣人に対する陰口や井戸端での女性どうしのい噂話が夫や親族に伝わり、子どもまで知るようになって増幅し、中心広場や村長の家の前で語られる公然たる非難の叫びに変ずると、それは名指された人物の共同体の中での悪辣さの標になる。》
《濃密な人間関係の張り巡らされた村で悪い噂を立てられるのは致命的であるが、それを防ぐには、隣人たちとトラブル・誤解のないよう、人間関係を円滑にするしか方法はない。》
 おいおい、これって、日本における村八分じゃないか。
《権力によって強圧的に裁かれる無力な人々、というのは魔女狩りの大きな構図としてはその通りだが、この「噂」の決定的役割から見ても、個別具体的な場面においては、魔女狩りの最初の推進者はつねに民衆だったと言ってよいだろう。》
《名誉を失うと魔女にされる危険性が高いという事情は、嫌われ者の老婆のほか、その共同体出身でないことが多い女性に不利に働いた。つまり他の村・地域から嫁入りする女性は、彼女らの素性をよく知らない近隣住民からしばしば不審の目で見られ、恐れられた。また女中など下働きの女も同様な理由で標的になった。》
 もう、これは民衆の差別視でしかないぞ。
 こうなると、みんな魔女探しに躍起になる。そのうち、魔女発見人暗躍も始まる。魔女を発見する仕事をするものに依頼するのだ。ドイツのある地域では「魔女委員会」なる組織まで作られた。司法が始動する前に、村民代表が集まる会議だ。あと「請願」なる手続きを経ることも。請願状で住民らが集団で魔女を告発するのだ。これ、署名運動か?
 ここでは、その後の魔女裁判の審理や、全裸にしての隠れてるであろう陰毛や臀部や陰部を中心とした全身検査と自白のための拷問が行われた、そのことが書かれている。詳しくは、本書を入手してお読み下され。 
 とにかく、被告になると、ほぼ逃げ道はない。
魔女狩りのヨーロッパ史05

 はい、ここまでの章で、概ね、ヨーロッパ史の中で、何故に魔女狩りが生まれ、魔女となった女性はどういう運命を辿るのか分かった。勿論、日本のような八百万代の神ではなく、単一の神の崇拝があったわけだが、言っておくけどユダヤ教もキリスト教もイスラム教も同じ神だよ、それを信じている民衆は、日本で言えば、同じ宗旨宗派じゃない者が来ると、そいつが異教徒=神に背いて悪魔に魂を売った=災いをもたらす、となり、災いが起きると天変地異でも、「ほれ、与作がもろうた嫁が、異教徒の地から来た女子じゃ。あいつのせいじゃないかや」となるわけである。時は、中世・近世の王国出来たり、キリスト教をどう浸透させるか、そんな頃なのだから、村単位、自治単位で災いをもたらす者=魔女に仕立てたんだね。そうして、「こいつは魔女だ」と皆から言われると、自白まで拷問を受けるのだ。
 ボクは思う。日本のような八百万代の神じゃなく、西洋では単一神(イエスだ、ある場所ではユダヤ教だ、ある場所ではイスラム教だ、同じ神なのに)の信仰がコミュニティ単位で、異教徒への迫害を始めたと理解した。
 同じ神を信奉できない、あいつはおかしいとの井戸端会議の結果、多くの女性が魔女となり、審判・拷問。処刑の道を歩んだ。
 もう見えてきたね、同じ神、イエスを中心としながら、ユダヤの旧約聖書、ヨーロッパの新約聖書、イスラムのマホメッド経典、ボクなら、同じ神ならシェアすればいいじゃん、そう思うけど、出来ないんだろうねえ、ユダヤとイエスとマホメッドは。これが、エルサレムの地でイスラム=ユダヤが許せないんだろうねえ。だから、ハマスは、まるでネオナチのようにユダヤ人を全滅させようとしている。
 簡単に言えば、西洋史の中で起きた魔女狩りは、そうした、他の宗教が信じられない、つまり、自分たちと動きを異にする連中は、悪魔に魂を売って、魔女になったんじゃないか。だから、うちらに不幸がたくさんふりかかる。それは魔女のせいだ、これが魔女狩りの真相だと思う。
 実は、日本にも拷問や処刑はあった。以前『日本で本当にあった拷問と処刑の歴史』を読んだ。ただ、そこには、ヨーロッパ史のような、「魔女」という概念はなかった。
 単一宗教しか信じられない村社会が、そうじゃない考えが入ってきたとき、それは魔女の仕業だ、そう思った。西洋史の魔女狩りは、宗教改革を目論む連中の仕業ではない。言ってみれば、戦前に、日本国民の多くが、「戦争反対」論者に対し、「非国民だあ」と叫んだのと、同じ民衆の力なのだ。民衆が犯している罪なのだ。そんなことなのだ。
 そして今、中東戦争に対し、「悪いのはハマスじゃなく、イスラエルだあ」と言っている間違った日本人。同じ過ちを犯している。日本人は、これをきっちり認識して欲しい。
 では、以下の章。具体例を見ていきたい。
 
第3章 ヴォージュ山地のある村で

 ブルオモン村の親戚筋であるピヴェール家とドマンジュ家の不和から始まる。旧世代のピヴェール家、新たにやってきた新世代のドマンジュ家の土地に対する考え方の違いや経済状況の差、そして近すぎる関係が憎悪を生むが、ひとたびピヴェール家に嫌疑がかけられると、内部告発が始まる。下女や孫娘が悪魔の集会・サバトに連れてかれ、そこでの出来事を描写する。そこで、祖母だけに責任を負わせようとするのだが、祖母は、家族をも巻き添えにしようとする。司法も祖母だけを血祭りにあげるのでなく、家族、村全体の緊張を高め分断を広げ、多くの魔女をあぶり出して、神と君主の権力を高めようとする。
《裁判は、隣人どうしの不和・憎悪、暴力と復讐への欲求を養分にしながら進められるが、それを裁判によって昇華させることなく、むしろ奨励し煽り立て増殖させて、自分たちのコントロール下に具体的な形を与えようとしたのである。》
 ようは、魔女狩りは民衆の不和・争いから始まるが、ひとたび、裁判となれば、そこは、司法の力で権力増大を図ろうとする。魔女狩りは民衆を束ねるのに有益で、どんどん増えていくことになるのだ。
 それにしても、ここにある例、よく、これだけの記録が残ってたものだ。ここでの自白のための拷問は、殆どが梯子の身体引き伸ばしの拷問であり、処刑は生きたままの火刑だ。
 こうして、ピヴェール家が崩壊するとともに、その地を管轄するロレーヌ公領は、拷問による自白で有罪にし、人々を怯えさせ、権力を得ていったのだ。
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第4章 魔女を作り上げた人々

 ふんじゃあ、そんな「魔女」を誰がでっち上げたん、ってことだけど。
《悪魔学者や司法官らのエリートが作り上げたものだとはいえ、民間伝承の諸要素をタップリ取り込んでいた》
 というように、世界のあちこちで、前近代社会、日常の困難や危機回避のために呪術にすがる、例えば、占い師や巫女に頼ったりする、そんな前提があったからだと。そういやあ、日本では、卑弥呼がいたねえ。
 そんな上に、カトリック教会の最高の権威者、教皇を筆頭に、悪魔学者や神学者がレールを敷いた。
 そして悪魔額のエッセン氏を古代に宣伝する「説教師」が登場する。これは著名な「説教師」だけじゃなく、土地土地の司教や司祭、大学所属の神学者によっても行われた。
 さらには、活版印刷の発明も手伝って、「魔女」に関する著作物が多く出回った。ここに主要な著作が説明されているが、1468年に出版された『魔女への鉄槌』から。
《女性はエヴァの末裔ゆえ、不実で野心家、そして何より淫乱だと非難を重ね、魔女は姦通と堕胎など性的犯罪にいつも絡んでいるとする。女性が悪魔と結託して男たちおよび世界全体を脅かす害悪魔術を行うのは、彼女らが肉体も魂も、本性上欠陥があって男性より劣り、その肉体にはムズムズするような抑制の利かない欲望がつねに渦巻いていて、容易に悪魔に騙され誘惑されるからだという。》
 もう、完全に女性蔑視である。しかし、大人気を博した著作だという。どうなってんの。
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第5章 サバトとは何か

 全然関係ない、どうでもいい話だが、ボクが小学生の頃、親父がよく飲みに行くスナックに「サバト」という名前の店があったよ。ということは、ボクも魔女か。いや、ボクは男だ。けど、魔男も地域によってはいたというが、その話は、次の第6章に譲ろう。
 サバトとは、悪魔を中心とする魔女集会。裁判において、このサバトが重要な尋問となる。この集会に参加している「共犯者」を芋づる式に引っぱりだすのに、大いに役立つからだ。集会で見かけた顔を告白するだけで「共犯者」は増えていく。
 さて、サバトへ出向いてみよう。
《夜のとばりが下りると、魔女はベッドの傍らの夫を起こさないように注意し、自分の替わりに藁屑・布屑を詰めた人形を寝かせたり、熊手・箒や木切れ、藁や柴の束をおいたりする。あるいは何らかの麻薬を夫の飲み物に混ぜて深く眠らせておく方法もあった。そしてたとえ家の扉が閉まっていても、人知れず、煙突や窓から飛んでゆくのである。》
 サバトでは逆転した宗教儀式が行われる。《悪の王国のメンバーになるべく、聖油と精液を混ぜたもので「洗礼」が行われ》、《悪魔への接吻、すなわち「後ろの顔」ないし肛門・性器にキスをするのである。》
 儀式の後は宴会、ダンス、乱交、罪の告白。宴会での「人肉食」は当初は必須でなかったが、後期のサバトの明白な構成要素に。
 宴会とダンスの後は、
《クライマックスとして、列席者たちは大人も子どもも入り乱れて乱交する。息子が母親と、父が娘と、弟が姉と交わる。男女の性行為以外にソドミーもあって、身体のあらゆる穴が使われる。》
 これらは、悪魔でフィクションのはずである。しかし、裁判において、拷問による自白に置いて、これらはノンフィクションと化するのである。サピエンスの歴史はフィクションで出来ているが、それらを絶対多数の者が信じれば、現実と化すのだ。ボクたちサピエンスは、いい意味でも悪い意味でも、多くの者が力を合わせ信じることによって、フィクションをノンフィクションに変える力を持っている。
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第6章 女ならざる“魔女”――魔女とジェンダー

 ここで、男の「魔女」=妖術師の話が出てくる。地域によっては、男が上回ることもあるそうだ。
《不正な蓄財をしたり、隣人の妻と不義密通を重ねたり、妻に殴られ罵られたり、禁酒や借金で家庭を壊したりと、社会全体の優良な秩序を壊し家長の役目を果たせない、情けない男とみなされた場合》
 なるほど、頷ける。
 世代間闘争が魔女狩りを産み出すこともある。
《町や村の参審員、裁判所書記、ギルドの要職をめぐって世代間争いがあり、年配者が若者の資質や経験のなさを侮り見くびって要職に就けさせず、一方それが納得できない若者たちが魔女委員会を構成して復讐する》
 なるほど、これも頷ける。
 さらに、子どもが裁かれたり、逆に子どもが告発したりすることも。
《いったん悪魔教に入信した子は一生解放されず、やがて本格的な魔女になる。子どもであれ神を否認しては駄目で、そうしない努力をすべきだった。(中略)服を脱がして鞭打つだけでは十分ではない。無知と年齢を理由にせず、公共の安寧秩序のために彼らも裁いて処刑すべきだ》《「魔女発見人」に子どもが多かった事実も看過できない。(中略)その多くは羊飼いとか職人の徒弟、捨て子、孤児など、マージナルな境涯の子であった。》
 それにしても、「公共の安寧秩序」って何だあ。
 あと、女中・下女が主人夫婦により魔女にされたり、解雇された女中が主人や奥方を告発する、義理の子どもが継母を告発する、離婚するために、夫が妻を魔女と告発する。
 家庭内の争いが、魔女を生み、それを受けた司法が魔女を増産する、そうして、人々は、拷問と処刑による権力の前に慄き、屈服していく。
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第7章 「狂乱」はなぜ生じたのか――魔女狩りの原因と背景

 これまで、「魔女狩りは、こんな風だったよ」を教えてくれてて、「なるほど、なるほど」の連続だったけど、「じゃあ、なんで魔女狩りが起きたのか」を、もちろん、一つ一つにその時の理由があるとは思うのだけれど、著者さんは、決してこれが専門ではないと言いながら、ここで総括してくださっている。
 その要因は、「悪天候・疫病・戦争」のせい、「農村共同体の解体とスケープゴート」のせい、「賢女と魔女」のせい、「都市の魔女」のせい、「都市エリートによる農村の文化変容」のせい、「国家権力の発現としての魔女狩り」のせい、「カトリックとプロテスタントの相克」のせい、「社会的規律化」のせい、と、あらゆる角度で要因を探ってくださっている。
 確かに、どうにもならない天候なんかは、神頼みのテルテル坊主じゃないけれど、農作物の不作が気候のせいであったろう。でも、それをも、誰かのせいにしたがるのがホモ・サピエンスだ。「あいつが悪い」と。
 そして、幾つかの提示されている要因の中で、ボクは、「農村共同体の解体とスケープゴート」「都市エリートによる農村の文化変容」「国家権力の発現としての魔女狩り」だと思う。その結果、「社会的規律化」が進む中、旧態依然として呪術に頼る人々を魔女化していった。
 この中でも、一番大きいのは、これまであった農村の共同体が崩壊したことだ。それは、「都市エリートによる農村の文化変容」「国家権力の発現としての魔女狩り」による。この時代とは、明るい農村に、新しい文明が萌芽する。国王であろうが帝国であろうが、そこに社会経済を担うブルジョワ階級が生まれる。彼らは、明るい農村にも立ち入り、地主と小作の関係を築いていく。そして、王様や国は、そのブルジョワと連携して、国の統治という形を作っていく。当然、そこには上下関係のヒエラルキーと差別や格差社会が生まれる。そうなると、これまで、共同体として共に生きてた仲間の中に亀裂が入る。「なんで、あいつんちばかりいい思いして」と憎しみや恨みが出てくる。ならば「あいつを魔女にしちゃえ」となる。賢い女も「生意気だ」で魔女にしちゃう。
 つまり、社会経済が発展する途上で、共同体が崩壊する中に生まれた憎しみや憎悪の結果が、魔女なのだ。これは、国を地域を統治するのにも都合がいい、そうして、魔女狩りは領主や国家規模で行われるようになった。
 ちょっと待てよ。これって、第二次大戦で日本も含め、世界をやり直す中、日本は、皆が一丸となって復興しようとした。世界も、その後、多くの植民地が自立し、国を築いていった。なのに……。
 いつの間にか、共に生きる概念はなくなった。多くの個人会社は、大手の企業に飲み込まれていった。みんな一丸となって、日本を復興して来たのに、いつのまにか、大手の多国籍企業の新自由主義謳歌の中で、ボクたちは疎外の構図の嵌り生きがいも削がれている。
 あれえ、魔女狩りがないにしても、同じ道、歩んでないかえ。魔女狩りの替わりに、「同調圧力」で、みんなで出る杭打って、政府も出る杭打ちを応援し続けてないかえ。その隙に「ショック・ドクトリン」なんかしたりして。
魔女狩りのヨーロッパ史10

第8章 魔女狩りの終焉

 最後は、魔女狩りがどう終わったのか、書かれてるよ、
 でも、「一七世紀の悪魔憑き事件」はメチャ興味深いよね。本来なら聖職者なのに修道院での尼さんと司教さんの性的交わりがあったそうで、庶民に「なんだ。悪の根源は、基督信奉者にあったんだ」ということ含め、ユダヤ教やキリスト教を絶対だと思う人々は急速に減ったそうだ。 
 さらには、デカルトなどの自然=機械論のような科学的根拠で解く人が出てきたこともあるだろう。
 でも、実は、それでも終わっていない、その話が最後にあって、驚いた。確かに、ドイツのホロコーストは魔女がユダヤに変形しただけだ。そして、今でも、魔女狩りは、南米やアフリカ、インドなどであるそうな。これは知らなかった。
 結構、勉強になりました。
魔女狩りのヨーロッパ史11

 以上、魔女狩りという形ではないにしろ、今でも、民族紛争、ユダヤ人の迫害など、続いている。人間は、協力し合って大きなことを成し遂げられる。だが、協力し合えない、分かり合えない者には排他的になる。
 こうした世の中で、ボクは、輝かしい発展の光の裏でヨーロッパの魔女狩りという闇は、今でも「生贄探し」という形で続いていると思う。これは、人間ならではの「脳の闇」の部分でもあるかもしれない。


魔女狩りのヨーロッパ史 posted by (C)shisyun


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