詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

林嗣夫「わが方丈記・2」、やまもとさいみ「さよならは」

2023-03-02 10:31:04 | 詩(雑誌・同人誌)

林嗣夫「わが方丈記・2」、やまもとさいみ「さよならは」(「兆」197、2023年02月10日発行)

 林嗣夫「わが方丈記・2」の後半。小中学校の不登校が増えているという新聞の記事をみながらの感想のあと、こう書いている。

またも新聞の見出しに驚いた
「戦後日本の安保転換
 敵基地攻撃能力保有」!
平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して(憲法前文)、と
わたしたちは決意したのではなかったか

ここにきて
一つ納得するものがある
「敵基地」という
毒性の強い共同幻想が
少しずつ 用意されてきたのだ

 「敵基地」というよりも、「敵」ということばが、いったいどこから来たか、と私は考えてしまう。
 中井久夫はエッセイのなかで、戦争中、空襲に恐怖を感じたが、アメリカに敵意は感じなかった、と書いていた。そのことも思い出した。
 「敵」という「ことば(概念)」は、とてもむずかしい。私は自分自身からそのことばをつかったことがあるかどうか、よく思い出せない。それは、なんというか、私にとっては「組織的な概念」である。ひとりでは立ち向かうことができない何か。それに立ち向かうためには、まず「組織」をつくらないといけない。これが、私には苦手だ。だから、そういう苦手なことをしないようにしないようにしているうちに「敵」という考えが、自分のなかから自発的(?)に出てくることがなくなったのかもしれない。
 聞いたらわかるが、自分ではつかわない。そういうことばが、私にはたくさんあるが、そのひとつが「敵」だ。
 新聞記事の「いやらしさ」は「敵」とだけ書くのではなく「敵基地」と書いていることだ。これは、まあ「政府の受け売り」だけれどね。「敵」と「敵基地」はどう違うか。「敵」といえば人間を思い浮かべるが、「敵基地」と聞いたとき、そこに何人の人間の存在を思い浮かべるだろうか。人間よりも、「武器のある場所」を思うだろう。それから、「武器を動かす人」を思うかもしれないが、その「武器」が「野球バット」だけだったら「基地」ということばはついてまわらないだろう。だから、「敵基地」というとき、思い浮かべるのは、やっぱり「武器」だと思う。たとえば、ミサイル、とか。で、それは逆に言えば「敵基地」ということばは、人間の存在を隠してしまうことばなのである。
 人間を殺さない。武器だけを破壊する。それが「敵基地攻撃」。
 そんなことは、できないね。
 「ことば」は何かを表現するためにある。しかし、「ことば」は何かを隠すためにもある。隠すための「ことば」が増えている。「敵基地」は「人間がいる」ということを隠すために「発明されたことば」である、と私は思う。
 「隠すためのことば」とどう向き合い、どう「ことば」を動かしていくか。そのことを考えないといけないのだと思う。

 やまもとさいみ「さよならは」。

さようならと言えば
さようならと返ってくる

じゃあまたと言えば
じゃあまたと返ってくる

さよならはこだま
返ってくることば言葉
でなければならない

さようならと言って
さようならと返ってこなければ
きっと言葉を間違えているのだ

 「さようなら」という「ことば」が何かを隠しているとき、「さようなら」が返ってこないのだろう。隠している何かは、それまでに起きた何かだろう。「隠されているもの」を、少しずつ、探していく(明るみに出していく)ために、ことばを動かしてみる必要がある。


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