『徒然草』の作者として知られる兼好法師は、
その時代にしては、類まれなるエッセイを残したと言える。
かの随筆集から察すると、どう見てもヘンコな人物像が浮かび上がってくる。
文の中では一般的に良いとされているモノに対して否定的。
たとえば「長寿や富」に対してかなり懐疑的な態度が見てとれる。
一方、遊び心を十分に持っていたようである。
それがわかるのは、親友である頓阿法師におくった和歌。
その歌、
「夜(よ)も凉し 寝(ね)覚めの刈り穂(ほ) 手(た)枕も
真(ま)袖も秋に 隔(へ) だてなき風(かぜ)と詠んでいる。
表に見える歌としては、「寒くなってきた。袖に風を受けるほどに」と詠んだ。
取り立てて秀歌とは思えないが、この歌に隠れた意味が存在する。
各句の第一字を上から順に読むと、「よね(米) たまへ」(米をくれ)と読める。
各句の最後の文字(青字)を下から順に読むと
「ぜに(銭)もほ(欲)し」(金も欲しい)と法師に無心する歌となる。
なかなか、凝った歌でもある。
これに対して、さすがに遊び仲間。
頓阿法師の返歌は、
「夜(よる)も憂し 寝(ね)たくわが夫(せこ) はては来ず
なおざりにだに 暫(しば)し訪ひませ」
同様に、隠れた意味を探ると、「よね(米)はなし ぜに(銭) すこし」
(米はない、金は少しだけある)という意味になる。
よく見ると、今は、誰もが知る立派なエッセイスト。
だが、その一方で、
貧困を舐めあうような哀れな二人、とも言える。
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