この頃患者さんの名前が出てこないことがある。勿論、顔を見れば人柄、病歴、家族構成などが自然に浮かんでくるので、診療に支障を来すことは殆どない。それでもいつかは物忘れが進行して引退しなければならないだろう。
二十年ほど前の話だが九十近くなって聴診器も禄に聞こえなくなっても診療されている老先生が居られた。注意する人が居なかったのだろう。医師会から特使が派遣され「先生そろそろ」と申し上げ、診療所を閉められた。幸い?患者数も少なく患者さんも後期高齢者ばかりで事故はなかったようだ。
果たして人は自分の能力をどれくらい客観的に理解できるものだろうか。勿論、能力は多様で数値で表しにくいものもあるし、稀には周りの評価の方が間違っていることもあるが、自他の評価にあまりに大きな差が生ずれば、社会人として生きていくのが難しくなる。幅広い他者の評価は貴重且つ重要で聞く耳を持たない厚顔無恥の輩にはお引き取りを願わねばなるまい。