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スペース・ジャズ・トリオ/メリディス

JAZZ Piano 4

2013年05月03日

Enrico_Pieranunzi_Meridies.jpeg Space Jazz Trio / Meridies

 エンリコ・ピエラヌンツィが80年代に率いていたスペース・ジャズ・トリオ7枚のうちの1枚。ピエラヌンツィが最も乗っていた時期の演奏で、メロディアスで淀みなく流麗なインプロヴィゼーションにはエヴァンス派を超越した個性が光輝いています。数曲でピアノとスキャットのユニゾンが試みられているのも興趣あり。3者の一体感もハイレベル。パーソネルは、エンリコ・ピエラヌンツィ(p)、エンツォ・ピエトロパオリ(b)、ファブリツィオ・スファリ(ds)。1988年1月Rome録音。Gala Records。

 エンリコ・ピエラヌンツィ(1949~)の80〜90年代の演奏がやはり気になります。本作はまさに絶好調の彼のピアノの演奏が記録されていると言えましょう。創造性豊かな美しいパッセージが次々と織りなされる流麗なアドリブ・ラインは彼の比類ない才能であり、そのピアニスティックな美をよく捉えた本作は非常に高品質なピアノ・トリオ作品です。

 いくつか驚きがあるのですが、一つは、3曲目Some Other Timeの美しさです。何百何千というたくさんのピアノ・ジャズを聴いて来た自分ですが、その中でも5本の指に入るくらいに素敵な演奏と思っています。地中海の明るく温和な陽射しの下で、楽天的で快楽主義的なイタリア人ピアニストが、ジャズという知的な音楽として腕を振るって料理した最高のアンティパスト。

 軽快でありながら透徹した美意識がさらりと一筆書きのような儚さで表現されています。4分43秒と意外と長いながらその長さを全く感じさせない潔い演奏です。長めのバースの後に主題が始まってその可憐なメロディが上昇を続けて最高音に達するまでの30秒ほどにエクスタシーがあります。

 クラシックの作曲家スクリャービンの「アルバムの綴り Op45-1」や、アントニオ・カルロス・ジョビンの「Anos Dourados(黄金の歳月)」らの佳曲に通じる、一つの印象深い美しい主題メロディで勝負する曲ですね。

 もう一つの驚きは、ピエラヌンツィのピアノとスキャットによるユニゾン演奏です。4, 5曲目の2曲で披露されています。楽器とスキャットのユニゾンは、ライオネル・ハンプトンの名盤「スターダスト」(47年)でのベースのスラム・スチュアートが著名ですが、ピアノとのユニゾンを聴いたのはこれが初めてでした。それだけでなく、速弾きのピアノとスキャットが完全に一致している点は、さすがにプロとは言え驚嘆しました。

 アドリブ・ラインを頭の中で構築しながら弾いているのが明らかです。私はこうした速いアドリブはある程度は指任せなのかなと勝手に思っていたのですが、実際はそうではなくて、ピアニストが頭で想定して選択した音を確実に鳴らしているのだということです。そうでないと、指で弾く音と声で出す音の音階や長さを完全に一致させることはできません。

 スタンダードのTenderlyが4曲目ではユニゾンで、最後の10曲目では普通のピアノのみで演奏されているので同じ曲が異なった演奏として聴けるのも面白い趣向です。とにかく、この4曲目のユニゾン演奏は聴いてみる価値があると思います。ピエラヌンツィの声質が意外にも二枚目美青年の雰囲気なのも二度びっくりです。生声に意表をつかれたビル・エヴァンスの時ほどではありませんが。

 ピアノ・トリオ演奏では、通常、スローテンポのバラッド演奏が聞きどころやクライマックスになるものですが、本作でのピエラヌンツィはむしろミディアムテンポやアップテンポでの流麗な音の流れが心地良く、転がるようなピアノの音列がクセになるというか、ジャズのまた違った魅力に開眼させられるのですね。エヴァンス派の一人と目されるピエラヌンツィの個性がエヴァンスの呪縛から逸脱しているという印象を抱かせる、そうした新しい体験というか境地になるものです。

1. Filigrane
2. Altrove
3. Some Other Time
4. Tenderly
5. What Is This Thing Called Love
6. Meridies
7. Blues Per Enzo
8. I Should Care
9. Echi
10. Tenderly Instr.

Enrico Pieranunzi(p), Enzo Pietropaoli(b), Fabrizio Sferra(ds). Recorded at Sonic Studios, Rome,1988.

詳しくはアマゾンでどうぞ。→Space Jazz Trio / Meridies

関連エントリはこちらから。
 →エンリコ・ピエラヌンツィ/バラード
 →エンリコ・ピエラヌンティ/ナイト・ゴーン・バイ
 →エンリコ・ピエラヌンティ/プレイ・モリコーネ
 →エンリコ・ピエラヌンティ/New Lands
 →ホロヴィッツ/スクリャービン・アルバム
 →アントニオ・カルロス・ジョビン/リオ・リヴィジテド

投稿者 Jazz Blogger T : 22:21 | トラックバック

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