2021年12月20日

日本の労働生産性の低さの原因−最低賃金引き上げの必要性−

【要旨】
 日本の労働生産性は先進国の中で最も低く、2019年の日本の一人当たりの労働生産性はOECD加盟国37カ国の中で26位で、韓国よりも低くなっている。
 日本の企業の99%以上は中小企業で、全体の85%である304.8万社が小規模企業であるが、中小企業の労働生産性は低く、特に小規模企業の労働生産性は大企業の半分にも満たない。労働生産性が低いのは経営者の能力が低いためであり、経営効率ではなく、低賃金が中小企業の収益源になっているのではないかとも考えられる。
 国民の大半を占める賃金労働者は最低賃金の引き上げによって利益こそあっても、不利益はない。「最低賃金を引き上げると失業者が増える。」というステレオタイプな言い訳を繰り返し、労働生産性を向上させられない経営者に強制的に労働生産性を向上させるためには最低賃金の引き上げが必要だ。

【本文】
 日本の労働生産性は先進国の中で最も低い。OECDのデータによると、2019年の日本の一人当たりの労働生産性はOECD加盟国37カ国の中で26位となっている。出典「労働生産性の国際比較 2020概要(日本生産性本部)」(pdfファイル)
 1位はアイルランドで187,745ドル、アメリカが3位で136,051ドル、フランスが7位で121,987ドル、ドイツは13位で110,355ドル、イタリアが16位、イギリスが19位、韓国は24位で82,252ドル。日本は81,183ドルで26位となっている。なぜ、日本の労働生産性はこんなに低いのだろうか。韓国よりも低くなっている。
労働生産性の国際比較 2020(拡大する)

 そして、日本企業の企業規模別の労働生産性を見ると、予想どおり、大企業の労働生産性は高く、小規模企業の労働生産性は大企業の半分も満たない。

企業規模別業種別労働生産性
中小企業・小規模事業者の労働生産性(中小企業庁)、出典「中小企業白書」

 日本には359万社の企業があるが、そのうちの99.7%、なんと357.8万社が中小企業であり、全体の85%である304.8万社が小規模企業である。
 そして、わずか0.3%の大企業で働く従業者は約1,459万人で全体の31.2%、中小企業で働く従業者は約3,220万人で68.8%となっており、中小企業の中でも小規模企業で働く人達は約1,044万人で全体の22.3%となっている。
 労働生産性が大企業の半分にも満たない小規模企業で働く従業者が、全体の22.3%を占めていることが、日本の労働生産性の低さに繋がっている。
企業数(拡大する)
(出典:「財政制度等審議会 財政制度分科会 歳出改革部会」歳出改革部会(令和3年11月1日開催)資料2 中小企業、エネルギー・環境(グリーン))

 次に労働分配率の推移であるが、「企業は事業活動により生み出した「付加価値」を基に、人件費などの諸費用を賄い、利益を得ているが、「労働分配率」とは、企業が生み出した付加価値額のうち、どれだけが労働者に分配されているかを表す指標である。」

企業規模別労働分配率の推移
(出典:中小企業白書)

 これを見ると、2018年度の大企業の労働分配率は51.3%であるが、中規模企業は76.0%、小規模企業は78.5%であり、いずれも2000年に比べて低下しており、したがって、日本の賃金が先進国の中で唯一上昇していないことがわかる。しかし、大企業に比べ、中小企業の労働分配率は高くなっている。

 また、「国税庁が2021年3月26日に公表した「国税庁統計法人税表」(2019年度)によると、赤字法人(欠損法人)は181万2,332社だった。全国の普通法人276万7,336社のうち、赤字法人率は65.4%(前年度66.1%)」となっている。最新の赤字法人率 65.4%で9年連続改善(東京商工リサーチ)
 なお、企業規模別赤字企業比率の推移(中小企業庁)によると、2012年度で中小企業の約40%、大企業の約10%が赤字企業となっている。最新のデータを検索できなかったので、古いデータになっている。

 ここまで、中小企業庁等のデータで中小企業の現状を見てきた。これらを踏まえて、次の引用について検討してみよう。

 「最低賃金に関して、日本商工会議所や三村会頭はよく「小規模事業者の労働分配率はすでに80%だから、これ以上の最低賃金の引き上げは無理」と言います。でも、この「80%」という数字は、怪しいものがあります。
 労働分配率には役員報酬が入っています。私は、労働分配率に役員報酬を入れることに問題を感じなくもないのですが、問題は日本の小規模事業者では役員報酬が、人件費の38.2%を占めていることです。大企業の平均はたった2.8%です。従業員だけの労働分配率を計算すると、大企業の労働分配率の52.5%に比べて、小規模事業者の労働分配率は80%どころか、51.5%です。ほとんど変わらない。
 小規模事業者の場合、税制のインセンティブが働くので、労働者に賃金を支払ったら、残りを自分たちの役員報酬として分配するところが少なくありません。だから70%弱の日本企業は赤字なのです。
 労働分配率が高いのは当たり前で、最低賃金を上げれば、さらに労働分配率が高くなって、失業や倒産、廃業が続出というのは、少なくとも小規模事業者についてはまやかしです。計算すると、従業員の給料を5%引き上げるために、役員報酬を7%だけ減らせば、失業、倒産、廃業が増えることなく、捻出できるのです。このトリックに日本商工会議所などは、気づいていないのか、それとも印象操作をしているのか、わかりませんが。」

「「強い日本」をつくる論理思考」デービッド・アトキンソン、竹中平蔵著(2021年ビジネス社)」p.128〜p.129

 これまでの中小企業庁等のデータと、デービッド・アトキンソン氏の指摘は整合性があり、アトキンソン氏の主張は説得力がある。日本の労働生産性の低さは中小企業、特に小規模企業の生産性の低さに起因していると思われる。

 中小企業、特に小規模企業の生産性の低さは、そこで働く従業員ではなく、その企業経営者の能力に問題がある。経営者が効率化を図らない、ITを積極的に導入しない、デジタル化を推進しない、社内分業体制を確立しないなど経営問題であって、低賃金労働に支えられ利益を出していることが推察される。従業員を最低賃金で働かせるなどにより利益を確保する、その従業員が不足すれば外国人労働者によって低賃金労働を支えようと考える。
 経営効率ではなく、低賃金が中小企業の収益源になっているのではないか。そのため、中小企業経営者の団体である商工会議所は最低賃金の引き上げに猛烈に反対する。「最低賃金を引き上げると失業者が増える。」というステレオタイプな言い訳を繰り返すが、人口減少社会になっている日本では、逆に人材不足が中小企業の課題になっている。

 「最低賃金を引き上げると経営努力が必要になり、経営者が安穏と出来ない。低賃金労働の恩恵による多額の役員報酬が減ってしまう。」あるいは「経営者という自分の立場が危うくなり、場合によっては倒産して経営者から賃金労働者に転落してしまう。」ために、最低賃金の引き上げには反対だというのが実態なのではないか。

 これらの問題を強制的に解決する方策は、やはり最低賃金の引き上げというデービッド・アトキンソン氏の意見が最も効果的だと思われる。中小企業経営者は、低賃金労働に依存し、現状維持の傾向があることから、彼らが自ら企業改革を行うインセンティヴは低い。それでは企業の存続が危険になる状況に追い込むことで、やむを得ず企業改革に取り組むだろう。

 国民の大半を占める賃金労働者は最低賃金の引き上げによって利益こそあっても、不利益は全くない。最低賃金が上昇すれば、限界消費性向が高い最低賃金近辺で働いている人達の消費が増え、国内消費が増え、日本の経済成長にも資するものである。
 最低賃金の引き上げが求められている。

Posted by blog_de_blog at 21:45│Comments(0) 社会 | 一般

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