山に棲むもの その3 | フライドチキンと海のおと。

山に棲むもの その3

父と友人はいっさんに駆けた。
帰らなくては。
ここから離れなくては。
命の危機すら感じたという。


あの大きな木を右に折れてまっすぐ行けば。
村が見えるはずだった。
だが、見えない。
いつもあるはずの道がなかった。
麓に突き抜けるはずの道は大きく湾曲し、
また山の中腹に連れ戻された。


おかしい。そんなはずはない。


二人は二度、三度と同じ道を走った。
違う道を通ろうという考えはなかった。
知っている道ですら迷っているのだ。
知らない道など、

一体どこへ迷い込むかもわからない。
陽はもう山の稜線に消え入りそうだ。
こらえていた涙が噴出しそうになった。
さらに同じ道を走った。
これで五度目。


「見えた! 村だ」


二人が歓喜の声を上げた。


その瞬間、父は聞いた。


耳のすぐ後ろで、何かが舌打ちをしたのだ。



構わず、山を転がり出た。
ほんの一瞬だけ、
巨大な鳥のような何かが木々の間を飛ぶのを見た。





切り傷だらけで疲れ切った父を見て、祖母は顔色を変えた。


「ああ、そうか。センジュガナの日か」


そして泣きじゃくる父を抱き寄せ、何を見たのかを聞いた。
父が大きな鳥のようなものを見たと言うと、


「そうか、あれを見たか。よく生きて戻れたなあ」


と言って涙を流したという。