叶美香が緊急入院したとのこと・・・
美容的な改造を行っているんじゃないかとか、心ないことを言う人もおりましたが、恭子さんがブログで真相を報告していました
アナフィラキシーショックで入院
だそうです
呼吸困難にも陥っていたというから大変です
処置が間に合って良かったです
さて
アナフィラキシーとはなんでしょう
意外とその正体と対応方法は医療者にも知られていなかったりします
アナフィラキシーは重篤な全身性アレルギー反応で、皮膚、気道、血管系、消化管などの多臓器の障害を起こすのが特徴です
アレルギー反応は、本来起こるべき防御反応である免疫反応が特定の物質に対して過剰に起こり、体に害を及ぼす反応を指します
体に異物が入ると「抗体」が働いて異物を攻撃したり排除しようとして体を防御しますが、特定のアレルゲンに対応するIgE抗体を有する人では次のような反応が起こります
アレルゲンが入る
→IgE抗体を介して肥満細胞を刺激
→ヒスタミンなどの化学物質が放出される
→化学物質が細胞で炎症を起こす
→血管透過性が亢進して白血球が浸潤しやすくなる
→水も血管から漏れるので腫れる
というわけで
皮膚で起これば蕁麻疹ができるし
気道で起これば浮腫で窒息するし
消化管で起これば腹痛下痢嘔吐を起こすし
血管内水分が減ると血圧が下がって意識障害を起こしてきます
アナフィラキシーはこれらのことが一気に起こるのです
まさに防御機構の暴走
アナフィラキシーの語源は
ana(逆に)
phylaxis(防御)
というわけです
アナフィラキシーショックというのはアナフィラキシーが原因でショック(血液循環が保たれず重要臓器の機能が保てなくなる状態)に陥った状態をいいます
美香さんは本当に危なかったのです・・・
実際に日本でも毎年50名~100名程度が命を落としています
この恐ろしいアナフィラキシー、診断は簡単ではありません
病歴と目の前で起こっている症状から推察することになります
一応ガイドラインがあり診断基準もあります
ガイドラインについてはこちら参照↓click
で、診断基準を記載しておきます
診断基準(文献1)
①突然始まった数分から数時間の皮膚や粘膜の症状(蕁麻疹、掻痒、紅潮、口唇や舌・口蓋垂の腫脹)に加えて以下のいずれかがある場合
a. 呼吸器症状:呼吸困難、喘鳴、気管支攣縮、いびき様呼吸音、最大呼気流量低下、低酸素血症
b. 血圧低下と随伴症状:循環虚脱、失神、失禁
②以下4症候のうちの2つ以上がアレルゲン、もしくは何らかのトリガーに暴露した数分から数時間後に生じる場合
a. 皮膚・粘膜症状:蕁麻疹、掻痒、紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹
b. 呼吸器症状:呼吸困難、喘鳴、気管支攣縮、いびき様呼吸音、最大呼気流量低下、低酸素血症
c. 血圧低下・虚脱・失禁:循環虚脱、失神、失禁
d. 消化器症状:腹痛、嘔吐
③既知のアレルゲン暴露後数分から数時間で血圧低下が認められる場合
a. 小児:1ヶ月~1歳は70mmHg未満、1歳~10歳は70+(2×年齢)mmHg未満、11歳以上は90mmHg未満、または30%以上の収縮期血圧低下
b. 成人:収縮期血圧90mmHg未満、または30%以上の収縮期血圧低下
アレルギーといえば蕁麻疹を思い浮かべますが、アナフィラキシーは呼吸困難と腹痛だけみたいな感じで、皮膚症状なしに発症する場合もあるので
さて、血中濃度を上げたいなら静注でええやんと思うかもしれませんが、血中にいきなりエピネフリンを打つと、心拍数と血圧がえらいことになってしまいますから、血中にいきなり投与はしません
でもなかなかエピネフリンの筋注が奏功しない場合には、エピネフリン持続静注を行う施設もあります(文献4)
(1-20μg/minで症状を見ながら投与)
ちょっとマニアックな話になりますが、高血薬治療薬のβ受容体遮断薬を服用されていたり、高齢でβ受容体の感受性が落ちている人などではエピネフリンが効きにくくなるため、グルカゴンを静注するといい場合もあります・・・・
さて・・・・ここまで治療薬にエピネフリンとグルカゴンしか出てきませんでした
他にもいろいろな薬剤を使用することがありますが、いまいちエビデンスに乏しいのが現状です
ヒスタミンが出るからということで、抗ヒスタミン薬を投与する施設が多くあるかもしれません
が、アナフィラキシーに対する効果については疑問符がつきます
痒みは抑えられるかもしれませんが、予後を改善するとまでは言えません(文献5)
あと二相性反応の予防を狙ってステロイドも使用されるかもしれません
二相性反応ってなんのこっちゃという感じですが、実はアナフィラキシーショックになって数時間後に、同じような反応が何の前触れもなく起こることがあるのです
恐ろしすぎますよね・・・・
ステロイドはこれの予防につながるのではないかとされますが、適切な研究デザインで確かめたエビデンスはありません(文献6)
というわけでアナフィラキシーショックになると、呼吸管理や循環管理、そして二相性反応の経過観察が必要なので入院する必要があるわけです
昨日入院で本日元気にしているということでしたので、とりあえずある程度は落ち着いたと考えて良さそうです
なぜ僕がこんなに熱く語るか?
もちろん叶美香のおっぱ・・
救急医が一番燃える疾患だからです!
時間の差し迫った気道管理、循環管理など重要な要素が含まれており、そして適切な処置によって救命に繋げられる重要な疾患なのです
まずは彼女の回復を喜び、これを機に一般への認知がより進めば幸いです
文献
1) Simons et al. World Allergy Organization Anaphylaxis Guidelines: Summary. J Allergy Clin Immunol. 2011;127(3):587-93.
2)Lieberman PL. Recognition and first-line treatment of anaphylaxis. Am J Med. 2014 Jan;127: S6-11.
3)Pumphrey RS.Lessons for management of anaphylaxis from a study of fatal reactions.Clin Exp Allergy. 2000 Aug;30(8):1144-50.
4)S Brown, K Blackman, V Stenlake, and R Heddle. Insect sting anaphylaxis; prospective evaluation of treatment with intravenous adrenaline and volume resuscitation. Emerg Med J. Mar 2004; 21(2): 149–154.
5)Sheikh A, Ten Broek V, Brown SG, Simons FE. H1-antihistamines for the treatment of anaphylaxis. Cochrane Database Syst Rev. 2007 Jan 24; 1
6)Choo KJL, Simons FER, Sheikh A. Glucocorticoids for the treatment of anaphylaxis. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Apr 18; 4
美容的な改造を行っているんじゃないかとか、心ないことを言う人もおりましたが、恭子さんがブログで真相を報告していました
わたくし達の大切な皆さんへのご報告と「美香さんからのメッセージ」
アナフィラキシーショックで入院
だそうです
呼吸困難にも陥っていたというから大変です
処置が間に合って良かったです
さて
アナフィラキシーとはなんでしょう
意外とその正体と対応方法は医療者にも知られていなかったりします
アナフィラキシーは重篤な全身性アレルギー反応で、皮膚、気道、血管系、消化管などの多臓器の障害を起こすのが特徴です
アレルギー反応は、本来起こるべき防御反応である免疫反応が特定の物質に対して過剰に起こり、体に害を及ぼす反応を指します
体に異物が入ると「抗体」が働いて異物を攻撃したり排除しようとして体を防御しますが、特定のアレルゲンに対応するIgE抗体を有する人では次のような反応が起こります
アレルゲンが入る
→IgE抗体を介して肥満細胞を刺激
→ヒスタミンなどの化学物質が放出される
→化学物質が細胞で炎症を起こす
→血管透過性が亢進して白血球が浸潤しやすくなる
→水も血管から漏れるので腫れる
というわけで
皮膚で起これば蕁麻疹ができるし
気道で起これば浮腫で窒息するし
消化管で起これば腹痛下痢嘔吐を起こすし
血管内水分が減ると血圧が下がって意識障害を起こしてきます
アナフィラキシーはこれらのことが一気に起こるのです
まさに防御機構の暴走
アナフィラキシーの語源は
ana(逆に)
phylaxis(防御)
というわけです
アナフィラキシーショックというのはアナフィラキシーが原因でショック(血液循環が保たれず重要臓器の機能が保てなくなる状態)に陥った状態をいいます
美香さんは本当に危なかったのです・・・
実際に日本でも毎年50名~100名程度が命を落としています
この恐ろしいアナフィラキシー、診断は簡単ではありません
病歴と目の前で起こっている症状から推察することになります
一応ガイドラインがあり診断基準もあります
ガイドラインについてはこちら参照↓click
アナフィラキシーのガイドライン
で、診断基準を記載しておきます
診断基準(文献1)
①突然始まった数分から数時間の皮膚や粘膜の症状(蕁麻疹、掻痒、紅潮、口唇や舌・口蓋垂の腫脹)に加えて以下のいずれかがある場合
a. 呼吸器症状:呼吸困難、喘鳴、気管支攣縮、いびき様呼吸音、最大呼気流量低下、低酸素血症
b. 血圧低下と随伴症状:循環虚脱、失神、失禁
②以下4症候のうちの2つ以上がアレルゲン、もしくは何らかのトリガーに暴露した数分から数時間後に生じる場合
a. 皮膚・粘膜症状:蕁麻疹、掻痒、紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹
b. 呼吸器症状:呼吸困難、喘鳴、気管支攣縮、いびき様呼吸音、最大呼気流量低下、低酸素血症
c. 血圧低下・虚脱・失禁:循環虚脱、失神、失禁
d. 消化器症状:腹痛、嘔吐
③既知のアレルゲン暴露後数分から数時間で血圧低下が認められる場合
a. 小児:1ヶ月~1歳は70mmHg未満、1歳~10歳は70+(2×年齢)mmHg未満、11歳以上は90mmHg未満、または30%以上の収縮期血圧低下
b. 成人:収縮期血圧90mmHg未満、または30%以上の収縮期血圧低下
アレルギーといえば蕁麻疹を思い浮かべますが、アナフィラキシーは呼吸困難と腹痛だけみたいな感じで、皮膚症状なしに発症する場合もあるので
必ずしも蕁麻疹が出るとは限りません(文献2)
アレルゲンが明らかな人だと病歴上疑いが強く持てますが、例えば叶美香のように、咳をしている人が治療中に呼吸困難を訴えたら、咳に関連しての呼吸困難なのか、薬剤が原因なのか判断に難渋します
そうしてまごついている間に死に至ってしまいます
薬剤が原因の場合、心停止までにかかる時間の中央値は5分程度だそうです(文献3)
ちなみに虫の毒で15分、食物で30分です
薬剤に関してですが、CT撮影時などに使用する造影剤でも同じような反応がおこります
前述の通り、アナフィラキシーはIgE抗体を介して起こる反応ですが、IgEを介さずに肥満細胞からのヒスタミン放出をおこす同様の反応もあり、類アナフィラキシーと呼ばれます。
造影剤アナフィラキシーは類アナフィラキシー反応です。
心停止までの時間についてデータ検索しきりませんでしたが、経験上、ショックから心停止に至るまで数分ということもありました
下手したらCT室内でCPAになります・・・・
治療はアナフィラキシーに準じます・・・
そんなわけで、アナフィラキシーだと考えたら、急がねばなりません
治療は即座に大腿外側にエピネフリンを筋注します
(エピネフリン=アドレナリン、商品名:ボスミン®、小児では0.01mg/kg、成人では0.3-0.5mgを使用)
皮下注射よりも筋肉注射の方が血中濃度上昇が早いのです
筋注なら最大血中濃度まで10分程度です
効かなければもう一発試します
最近はエピペン®という商品があり、緊急時に一般の方がエピネフリンを自己注射して生命危機を脱することができるようになりました
エピペン®も躊躇せずに大腿部に打つのが肝心です
過去にアナフィラキシーを起こした人で、再度起こす可能性が高いと考えられる人は持っておいてもらったほうが良いかもしれません
処方できる医師が限られるので、気になる人はお近くの医療機関に尋ねてみてください
アレルゲンが明らかな人だと病歴上疑いが強く持てますが、例えば叶美香のように、咳をしている人が治療中に呼吸困難を訴えたら、咳に関連しての呼吸困難なのか、薬剤が原因なのか判断に難渋します
そうしてまごついている間に死に至ってしまいます
薬剤が原因の場合、心停止までにかかる時間の中央値は5分程度だそうです(文献3)
ちなみに虫の毒で15分、食物で30分です
薬剤に関してですが、CT撮影時などに使用する造影剤でも同じような反応がおこります
前述の通り、アナフィラキシーはIgE抗体を介して起こる反応ですが、IgEを介さずに肥満細胞からのヒスタミン放出をおこす同様の反応もあり、類アナフィラキシーと呼ばれます。
造影剤アナフィラキシーは類アナフィラキシー反応です。
心停止までの時間についてデータ検索しきりませんでしたが、経験上、ショックから心停止に至るまで数分ということもありました
下手したらCT室内でCPAになります・・・・
治療はアナフィラキシーに準じます・・・
そんなわけで、アナフィラキシーだと考えたら、急がねばなりません
治療は即座に大腿外側にエピネフリンを筋注します
(エピネフリン=アドレナリン、商品名:ボスミン®、小児では0.01mg/kg、成人では0.3-0.5mgを使用)
皮下注射よりも筋肉注射の方が血中濃度上昇が早いのです
筋注なら最大血中濃度まで10分程度です
効かなければもう一発試します
最近はエピペン®という商品があり、緊急時に一般の方がエピネフリンを自己注射して生命危機を脱することができるようになりました
エピペン®も躊躇せずに大腿部に打つのが肝心です
(画像参照:ファイザー http://www.epipen.jp/)
過去にアナフィラキシーを起こした人で、再度起こす可能性が高いと考えられる人は持っておいてもらったほうが良いかもしれません
処方できる医師が限られるので、気になる人はお近くの医療機関に尋ねてみてください
さて、血中濃度を上げたいなら静注でええやんと思うかもしれませんが、血中にいきなりエピネフリンを打つと、心拍数と血圧がえらいことになってしまいますから、血中にいきなり投与はしません
でもなかなかエピネフリンの筋注が奏功しない場合には、エピネフリン持続静注を行う施設もあります(文献4)
(1-20μg/minで症状を見ながら投与)
ちょっとマニアックな話になりますが、高血薬治療薬のβ受容体遮断薬を服用されていたり、高齢でβ受容体の感受性が落ちている人などではエピネフリンが効きにくくなるため、グルカゴンを静注するといい場合もあります・・・・
さて・・・・ここまで治療薬にエピネフリンとグルカゴンしか出てきませんでした
他にもいろいろな薬剤を使用することがありますが、いまいちエビデンスに乏しいのが現状です
ヒスタミンが出るからということで、抗ヒスタミン薬を投与する施設が多くあるかもしれません
が、アナフィラキシーに対する効果については疑問符がつきます
痒みは抑えられるかもしれませんが、予後を改善するとまでは言えません(文献5)
あと二相性反応の予防を狙ってステロイドも使用されるかもしれません
二相性反応ってなんのこっちゃという感じですが、実はアナフィラキシーショックになって数時間後に、同じような反応が何の前触れもなく起こることがあるのです
恐ろしすぎますよね・・・・
ステロイドはこれの予防につながるのではないかとされますが、適切な研究デザインで確かめたエビデンスはありません(文献6)
というわけでアナフィラキシーショックになると、呼吸管理や循環管理、そして二相性反応の経過観察が必要なので入院する必要があるわけです
昨日入院で本日元気にしているということでしたので、とりあえずある程度は落ち着いたと考えて良さそうです
なぜ僕がこんなに熱く語るか?
もちろん叶美香のおっぱ・・
救急医が一番燃える疾患だからです!
時間の差し迫った気道管理、循環管理など重要な要素が含まれており、そして適切な処置によって救命に繋げられる重要な疾患なのです
まずは彼女の回復を喜び、これを機に一般への認知がより進めば幸いです
文献
1) Simons et al. World Allergy Organization Anaphylaxis Guidelines: Summary. J Allergy Clin Immunol. 2011;127(3):587-93.
2)Lieberman PL. Recognition and first-line treatment of anaphylaxis. Am J Med. 2014 Jan;127: S6-11.
3)Pumphrey RS.Lessons for management of anaphylaxis from a study of fatal reactions.Clin Exp Allergy. 2000 Aug;30(8):1144-50.
4)S Brown, K Blackman, V Stenlake, and R Heddle. Insect sting anaphylaxis; prospective evaluation of treatment with intravenous adrenaline and volume resuscitation. Emerg Med J. Mar 2004; 21(2): 149–154.
5)Sheikh A, Ten Broek V, Brown SG, Simons FE. H1-antihistamines for the treatment of anaphylaxis. Cochrane Database Syst Rev. 2007 Jan 24; 1
6)Choo KJL, Simons FER, Sheikh A. Glucocorticoids for the treatment of anaphylaxis. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Apr 18; 4