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息子と父と、母の見舞いに行った日の息子の日記に
「おじいちゃんは、かあちゃんのことが、すきそうでした。」
と書いてあった。
そんな風に見えた?と聞くと
「うん、おじいちゃんがかあちゃんを見るときのお顔が優しかったから。」
と言って、嬉しそうに笑う。
父親に愛されていると実感したことのないわたしだけれど
息子の目にそう写ったのなら
そうなのかな、そうだったらいいな、と素直に思う。
母の病室に入る前
感染予防のためにマスクを着けたとき
「ちゃんと顎の下までおろさないと効果がないんだよ」
屈んで息子のマスクの位置を正してくれた父。
そしてビニールのエプロンを着るときに
父はエプロンを首にかけてから
当たり前のように無言でわたしに背中を向けた。
わたしはなんだかくすぐったいような気持ちで
父のエプロンの腰ひもを結ぶ。
母の代わりに。
終始笑顔だった父。
父と会うのはいつも母か兄と一緒で
わたしの目を見て話す父を見ることはあまりなかったな、と思った。
目の前で、穏やかに微笑むこの人が
母の愛したひと。
そしてわたしの父。
隣にはわたしの大切な息子。
愛しい、幸せな時間よ。
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