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飛行機は、予定時刻より30分遅れでスパータンバーグ国際空港に到着した。

椎菜達は無事に手続きを終え、大きなトランクを引きずりながらロジャーの家族が待つ到着ロビーへと歩いて行った。


扉の向こうでは、それぞれの家族や恋人や友人を出迎えるため、沢山の人が彼らの到着を今か今かと待っていた。

その中の一人が目ざとくロジャーを見つけ、彼の名を大声で叫びながら大きく手を振った。

すると、ロジャーはすぐに気付いて、嬉しそうに手を振り返した。

彼が向かったその先には、老若男女合わせて6名のメンバーが彼を出迎えていた。


「Hi, Roger. Long time no see you!

How have you been?」

(ロジャー、久しぶりね。元気だった?)


30代くらいの背の高いブロンドの女性がロジャーに抱きついた。
彼のお姉さんだろうか。それとも・・・


「Pretty good!(ちょ~、元気だよ)

Hey, my pumpkin. I'm sure you missed me so bad.」

(よお、おチビちゃん。俺がいなくて、めっちゃ寂しかったろ?)


ロジャーは、目の前の小さな女の子を抱き上げ、その頬にキスをした。

女の子は嬉しそうに、彼の首にその細い腕を巻きつけぎゅっと抱きついた。

他の人達も、代わる代わるロジャーと言葉をかわしたり、ハグをしたりとひとしきり忙しかった。

一通り挨拶を終えたロジャーは、振り向いて椎菜を呼び寄せると彼らに紹介した。


「Oh, She's so pretty. You did good job!(きれいな子じゃないか。やったな!)」


「I've never thought that you got married while you stayed

in Japan.(日本にいる間に結婚しちゃうなんて思ってもいなかったわ)」


「I'm proud of you, my son. But you shoud told me before

you did.(さすが私の息子だわ。でも、その前に一言、言って欲しかったわね)」


何を勘違いしたのか、皆、椎菜をロジャーの妻だと思ったらしい。

3年振りの里帰りだ。

いきなり女連れで帰って来れば、そう思っても不思議はないかもしれないが、結婚は個人の問題とはいえ、そんなのアリなのだろうか。

椎菜は、ぼんやりとそんなことを考えていた。

しかし、予期せぬ家族の反応に、慌てたロジャーは懸命に弁明をした。


「No, no, she's not my wife. (いや、違うよ。妻じゃないんだ)

There's no way that I would get marry without asking.

(いくらなんでも勝手に結婚なんかするわけないだろ)

I tell you what, she's just a poor girl・・・(実を言うとさ、彼女はかわいそうな子でね・・・)」


ロジャーは、いきなり早口になった。

プアーガールという言葉が引っかかったが、その後に続く英語は全く聞き取れなかった。

暫くして、一同に笑い声が上がった。

誤解は無事に解けたらしく、皆揃って「なーんだ。そう言うこと」というような意味のことを言っていた。

ロジャーは、椎菜に向かって微笑んだ。


「OKデス」


「えっ?OKって、何が?」


「ホームステイのこと」


そうか、ホームステイのことを頼んでくれたんだ。

しかし、二つ返事でOKとは、なんて寛大で大らかな人達なんだろう。

感激した椎菜は、ますます彼らに興味を持った。

家族構成も然る事ながら、その人柄にもっと触れたいと思った。


「本当にいいの?嬉しい。ありがとう!」


椎菜はその顔に満面の笑みを浮かべ、ロジャーの家族に心からお礼を述べた。


「サンキュー。サンキュー ソーマッチ。エブリバディ!」


「Sure, you are welcome!(いいのよ、歓迎するわ)

Well, You are hungry, aren't you?Let's go to eat, anyway.(お腹すいたでしょ?とりあえず食事に行きましょう)」


ふくよかなシルバーグレイの髪の年配の女性が、上品にタバコをくゆらせながらそう言った。


一行はロビーを後にし、空港から10分程車で走った所にあるレストランで夕食を摂ることにした。

席に着いてから、ロジャーは改めて一人ずつ紹介をしてくれ、そこにいたのが父親のマックス、義母のベス、妹のリビー、姪っ子のヘザー、実母のロッティー、その夫のヘンリーだということがようやく分かった。


さらっと紹介されたので、思わずスルーしそうになったが、やはり「たまげた」状況には違いなかった。

というのは、ここに勢揃いしているのは、なんとロジャーの別れた両親と、それぞれの新しい家族なのだからだ。

しかも、一つのテーブルを囲んで食事をしながら歓談までしている。

こんな光景、日本ではまずあり得ない。


自分だったら、どうだろうと椎菜は考えた。

別れたダンナの新しい家族と一緒に食事などできるだろうか?

芸能人じゃあるまいし、そんな関係、絶対に成立しないだろう。


文化の違いとは、こういうことを言うのだろうか。

早くもカルチャーショック第二弾である。




※テンプル家の家系図ご用意しました。道に迷った時にご覧ください!(笑)