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「で、ユウヘイはこのブランコにのって、
おかあさんを待ってたんだね?」
「うん。空は真っ赤で、夕陽がきれいだった」
学校が終わると急いで公園まで走り、
ユウヘイとマコトは、
もう長いあいだブランコの上で、
黒マントについて話しあっていた。
「気がつくと、ブランコを降りていて、
夕陽に向かって歩く黒マントを見ていた。
そのあと、おかあさんの声にふり向いて、
目を戻すと黒マントは消えていた。そうだね?」
「うん」
「ということは、ブランコを降りて、
出入口の近くに立つまでの記憶を無くしている、
ということになるな」
「あっ」
思いもしなかったことをマコトから教えられ、
ユウヘイはブランコから立ち上がる。
「そうだ! ぜんぜんおぼえてない!」
マコトも立ち上がり、
公園の出入口の方に二人で歩きだす。
「たとえば、ブランコに乗っているときと、
黒マントのうしろ姿を見ているときの
夕陽の高さの違いとか、
そんなことは思い出せない?」
マコトは腕組みをして、ユウヘイの方を見た。
「うーん。ブランコから見たときはまん丸で、
立っているときは、下の方が半分ぐらい
沈んでいたような気がする」
答えながらユウヘイは、
やっぱりマコトは天才だと、あらためて思う。
「その差が、ユウヘイが記憶を無くしていた時間だよ。
後で確かめてみよう。それから、黒マントが消えたとき、
その辺の風景に変わりはなかった?」
「そうだなぁ。砂あそびの赤いバケツが一個あったな。
それから、鉄棒に赤ちゃん用の帽子がかけてあった。
そうだ。黒マントが消えたあと、
ネコが一匹歩いていたような気がする」
「それって、もしかして黒ネコ?」
「えーっ! そんなことまでわかるの?」
ユウヘイは、ものすごくおどろいた。
ここまで天才だとは、知らなかった。
「ほら、あそこ。
歩いてるんだけど」
マコトが指さす方を見ると、
すべり台のそばを黒ネコが歩いている。
気のせいだろうか。ユウヘイを見ると、
ネコはあわてて目をそらしたように見えた。
つづく