私が寝た後の事。
娘が下にいる夫に話があると起きてきたという。
内容は上の前歯が他の歯に比べて大きい事をクラスメイトの女子に指摘され、これを歯科医に相談したいと泣きながら訴えたのだった。

私がそれを夫から聞いたのは翌日。
私は前歯で思いたある事があり娘に話す事にした。
それは小学生の時。
当時住んでいた家の前にうどん屋さんがあった。
私の家は自営業で、とにかく忙しい店だった事もあり、土曜日に学校が昼で終わると家に帰り、家の前にあるうどん屋さんか、お好み焼き屋さんに一人で食べに行く事が度々あった。

ある時、うどん屋さんでいつものようにカレーうどんをカウンターで食べていたら、うどん屋さんのおっちゃんが私に「前歯がハムスターみたいで可愛いな」と笑いながら言った。
歯を褒められた事も容姿を褒められた事も一度も無かった私は、それがとても嬉しい言葉であると感じた。
背も高く、色黒で自分には可愛さのカケラもないと思っていた年頃の私に、以後その前歯を褒めてくれる人がいたんだという、たった一度の経験が、私にとっては人前で思い切り笑える自信をくれる経験となった。

私はそれを娘に話した。
あの時、確かに私の歯はそう見えた。
しかし大人になった今、歯の大きさはすっかり成長した骨格に馴染んでしまい、気にならなくなった。
だから今は自分で気になるかも知れないけど、成長したらそうじゃなくなると思うよと話した。
大人になり、それでも嫌なら歯科医に相談すれば良いとした。
娘は泣きながら聞いていた。
納得はしていないと思うが、私の経験話が残ればと思う。

クラスメイトの女子にこういう事を言う子がおり、何故そんな事を急に言い出したのか検討は付いていたから、娘に「誰かに言われた?」と聞いてみた。
「そうだ」と言った娘。
やはりそうだった。
私も経験はある。
友達に言われた容姿の事が後を引いたり、コンプレックスになる事だってある。
担任に言われて未だ心に許せない言葉もある。

私は娘に「コンプレックスは皆ある。悲しいかな、人が人に言う言葉でコンプレックスを持つ事もある。でも一番覚えておいて欲しいのは、本当の友達は絶対にあなたを傷付けないという事。それだけは忘れないで。だれが自分にとって本当の友達なのか、必ず分かってくるから」と伝え、同時にイギリスに来てから、自分の肌の黒さが人によって羨ましがられる事、背の高さがイギリスで買う服をシンプルに着こなせる事に気付かされ、私にはコンプレックスが何も無くなった事、唯一は太った事であるが、これは100%自分のせいなのでコンプレックスとは違い自分の怠慢さにある事を話した。

このクラスメイトの女子により、傷付いた女の子はうちの娘だけではない。
数人の仲良しのお母さんからも、以前から何度か聞いてきた。
厄介な女子である。
がしかし、生きていく中でコンプレックスを持つなとは無理な話である。
既に娘はクラスメイトが全員金髪ヘアの中において、一人だけ黒髪なのは君だけだと言われ気にした事もあるし、しかし金髪ヘアのお友達から髪の色を綺麗だと言われ自信を持ち直した事もある。
この白人率89%のカーライルにおいて、多分今後はもっと色んな言葉を言われるかも知れない。
ただ、その時に傷付いたとしても、今後それを綺麗だと可愛い事だと思ってくれる人が必ず先にいるんだと、私の経験から言えるから…とだけ、今は小学6年の娘に伝えながらも、伝わったんだろうかと悶々とする日々である。
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