Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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アルツハイマー病治療のための薬物開発は案外,幅広い標的をターゲットとしている

2024年05月07日 | 認知症
毎年恒例のアルツハイマー病(AD)治療のための薬物開発の現状(いわゆるパイプライン)に関する論文が発表されました.clinicaltrials.govを調査し,2024年1月1日時点でADの薬物開発に関するすべての臨床試験を検討しています.164件の臨床試験で,計127種類の薬剤が評価されています(図1).



164試験のうち,第3相に48試験(32種類),第2相に90試験(81種類),第1相に26試験(25種類)が含まれていました.疾患修飾生物学的製剤(=抗体薬)が34%(56試験),疾患修飾低分子薬が41%(68試験),認知機能改善薬が10%(17試験),精神神経症状治療薬が14%(23試験)でした.つまり疾患修飾薬(DMT)が全体の3/4(76%)を占めることが分かります.DMTのみでは小分子薬剤が55%,生物学的製剤が45%です(個人的にはもう少し対症療法の薬剤も開発されても良いように感じました).

つぎに治療ターゲットを見てみると,アミロイド,タウ,炎症,シナプス機能など,ADの多様な病態プロセスが対象となっていました(図2).



例えば第2相(90試験)の薬剤の作用機序をCADRO分類(Common Alzheimer's Disease Research Ontology)を用いて分類すると以下の通りでした(図3).
1. 炎症(23%)
2. 神経伝達物質受容体(19%)
3. アミロイド(12%)
3. シナプス可塑性(12%)
5. タウ (7%)
6. その他 [代謝,酸化ストレス,脂質など] (27%)
しばしばADの治療標的は「あまりにもアミロイド中心」という批判がありますが,こう見ると案外,幅広い標的をターゲットとしていることが分かります.



また論文はパイプラインが2023年に比べて縮小していることを指摘しています.2023年と比較すると,臨床試験数は164件←187件,薬剤数は127←141,新規化合物数は88←101,再利用薬剤数(repositioning)は39←40といずれも減少しています.ただそうは言ってもADの治療薬の開発には引き続き高い需要があり,有効な薬剤の探求が引き続き重要であると書かれています.ちなみにAD治療薬が非臨床試験からFDAの審査に至るまでに要する開発期間は約13年と記載されており,改めて薬剤開発の大変さを認識しました.
Cummings J, et al. Alzheimer's disease drug development pipeline: 2024. Alzheimers Dement (N Y). 2024 Apr 24;10(2):e12465.(doi.org/10.1002/trc2.12465

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