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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(12月5日)  

2021年12月05日 | 医学と医療
今回のキーワードは,オミクロン株に関してこれから明らかにすべき疑問,ファイザー・ワクチン2回目の接種90日後には感染リスクの緩やかな上昇が見られる,long COVIDやワクチン後副反応に抗イディオタイプ抗体が関与する可能性がある,です.

◆オミクロン株に関してこれから明らかにすべき疑問.
オミクロン株(B.1.1.529)は11月初めにボツワナで初めて確認された.スパイク蛋白だけで少なくとも32の変異を認める.他の「懸念される変異株(VOC)」で報告された多数の変異を含み,さらにウイルスの複製に不可欠なウイルスRNA複製に関与するRNA依存性RNAポリメラーゼ(nsp12)や,RNA複製時のエラーを構成する酵素(nsp14)にも変異がみられる.オミクロン株は,オリジナルのSARS-CoV-2ウイルスの少なくとも3倍の感染力を持ち,おそらくデルタ株よりも感染力が高いと考えられている.J Med Virol誌では,緊急に解決すべき3つの課題を紹介している.
①オミクロン株がより重篤な疾患や感染の長期化を引き起こすか?
②ウイルスRNA複製に関与するnsp12やnsp14の変異が,オミクロン株に見られる高い変異率を引き起こしているのか?
③オリジナルのSARSCoV-2株に基づいて作成された現在のワクチンが,この新しい変異株に対して保護効果をもつかどうか?
J Med Virol. Nov 30, 2021(doi.org/10.1002/jmv.27491)

またNature誌も複数の解決すべき疑問点をコメントとともに示している.
①オミクロン株に対するワクチンの効果は?(中和抗体,T細胞やNK細胞への影響,リアルワールドでの入院に対する保護率等)
②ブースター接種でオミクロン株に対する防御力は向上するのか?(ロックフェラー大学のウイルス学者Paul Bieniasz教授は,ブースター接種者は中和活性を持つ可能性がかなり高いと述べている)
③オミクロン株感染はこれまでの変異型と比べて,より軽症もしくは重症か?(変異株の違いによる重症度への影響を明らかにするのはかなり難しく,年齢,ワクチン接種の有無,経済的困窮などの要素を一致させた2グループで症例対照研究を行う必要がある)
④オミクロン株はどの国に拡散しているか?(迅速にウイルスの配列を明らかにする能力は,裕福な国に集中しているため,オミクロン株の拡散に関するデータには偏りがある.ウイルスサンプルの5%をシークエンスするように各国に求めるガイドラインがあるが,そのような余裕のある国はほとんどない.一部の国が南部アフリカ諸国に対して行った渡航禁止措置は,頑張って取り組んだ国を罰するもので,各国政府によるゲノム監視データの共有を阻害する恐れがある)(図1も参照;WHO.12月1日データ)
Nature. Dec 2, 2021(https://www.nature.com/articles/d41586-021-03614-z)



◆ファイザー・ワクチン2回目の接種90日後には感染リスクの緩やかな上昇が見られる.
イスラエルからファイザー・ワクチンの2回目の接種を受けた人において,接種後の経過時間とCOVID-19感染のリスクの関連を検討した研究が報告された.対象は2021年5月から9月の間に,2回のワクチン接種から少なくとも3週間後にPCR検査を受けた18歳以上の成人で,COVID-19感染の既往がない者とした.調査期間中に 8万3057 人がPCR 検査を行い,9.6%がPCR陽性であった.陽性となった人では,ワクチン接種からの経過時間が有意に長かった(P<0.001).ワクチン接種から90日以上経過した時点での感染の調整オッズ比は,基準(90日未満)と比較し,90~119日で2.37,120~149日で2.66,150~179日で2.82,180日以上で2.82と有意に上昇した(各30日間隔でP<0.001;図2).以上より2回目のワクチンを接種した人において,少なくとも90日後に感染リスクの緩やかな上昇が見られた.
BMJ 2021;375:e067873(doi.org/10.1136/bmj-2021-067873)



◆long COVIDやワクチン後副反応に抗イディオタイプ抗体が関与する可能性がある.
New Engl J Med誌に,COVID-19感染ないしワクチン後における抗イディオタイプ抗体の役割について議論した記事が掲載された.ここでの抗イディオタイプ抗体は,感染ないしワクチンによって作られる抗スパイク蛋白に対する抗体の可変領域の一部を抗原として認識する抗体である.これまでほとんど議論されてこなかった.

抗イディオタイプ抗体の概念は1974年に提唱され,1983年にウイルス感染後に起こる自己免疫疾患との関連性が示唆され注目された.具体的には,コクサッキーウイルスB3に対する抗イディオタイプ抗体は,心筋細胞抗原と結合して自己免疫性心筋炎を引き起こしたり,アセチルコリン受容体のアゴニストとして働き,ウサギに重症筋無力症様症状を引き起こしたりする.よってウイルス感染後の新たな疾病の発生や,ワクチン接種後に起こる種々の副反応との関連も示唆されてきた.

図3のAb1は,感染ないしワクチン後に産生されるスパイク蛋白を中和する抗体を示す.Ab2はAb1に対する抗イディオタイプ抗体を示す.このAb2はさまざまな作用を持つ.まずAb1と結合して免疫複合体を形成しそのクリアランスをもたらし,Ab1の効果を減弱させる.またAb2のなかには,抗原結合ドメイン(パラトープ)が,元の抗原(スパイク蛋白)そのものと構造的に似ているものがある.このためスパイク蛋白と同じ標的であるACE2に結合し,ACE2の機能を阻害することも促進することもあり,細胞傷害性に作用する可能性もある.つまりウイルスが存在しなくなった後も,Ab2がACE2に結合して症状が持続し,後遺症(long COVID)を招く可能性がある.神経組織でもACE2が発現することから感染やワクチン後の神経症状に関与する可能性もある.またワクチンコンストラクトの違い(RNA,DNA,アデノウイルス,タンパク質)によっても,Ab2の誘導に異なる影響が生じる可能性があり,mRNAワクチン後心筋炎や,ウイルスベクターワクチン後VITTといったワクチン特有な副反応の発現に関わる可能性がある.今後の検討が必要である.
New Engl J Med. Nov 24, 2021.(doi.org/10.1056/NEJMcibr2113694)





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