Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(5月25日)  

2022年05月25日 | COVID-19
今回のキーワードは,オミクロン株は,ワクチン接種により免疫能が高まっている集団でもデルタ株より多い超過死亡をもたらす,COVID-19はパーキンソン病発症のリスクになる可能性がある,感染後のワクチン接種はlong COVIDを軽減する,モデルナおよびファイザーワクチンは異なる免疫応答を引き起こす,long COVIDの発症メカニズム4つの仮説,です.

最近,4回目接種について相談を受けます.イスラエルでは2022年1月2日から60歳以上の方にファイザーワクチンの4回目の接種を開始していますので参考になります.効果の検証が4月5日,New Engl J Med誌に報告されていますが(doi.org/10.1056/NEJMoa2201570),4回接種の方が3回接種より感染率,重症化率とも低下し,とくに重症化は3.5 倍低くなることが示されています.高齢者や基礎疾患を持つ人,施設入所などハイリスクの人には4回目接種は推奨すべきと思います.オミクロン株=軽症という認識で世の中は一気に動き出していますが,2点,認識する必要があります.①オミクロン株はデルタ株と比較して感染者数が増加した結果,むしろより多くの超過死亡をもたらしていること,②COVID-19の関心はむしろ脳への影響,つまり感染が認知症やパーキンソン病発症の危険因子となるかに移ってきていることです.感染対策緩和を行う場合,健康弱者を守ることと,長期的な人や社会への影響を正確に認識することが重要と思います.

◆オミクロン株は,ワクチン接種により免疫能が高まっている集団でもデルタ株より多い超過死亡をもたらす.
オミクロン株は,従来の変異株より重症度が低いと言われている.このため高頻度にワクチン接種が行われた米国マサチューセッツ州で,デルタ株期と初期のオミクロン株期の超過死亡数(想定される死亡数の取りうる値を超過した死亡数)を比較した研究が報告された.結果は,23週間のデルタ株期には1975件の超過死亡が発生した.これに対し移行期を挟んで8週間のオミクロン株期には2294件の超過死亡が発生した.1週間当たりの超過死亡率比は3.34であった.高年齢層での超過死亡が多かったが,若年層を含むすべての成人年齢層で超過死亡がみられた.この結果は感染致死率の低下をはるかに上回る高い感染率を反映しているのかもしれない.つまりオミクロン株は,高頻度にワクチン接種を受け免疫力が高まっている集団においても,かなりの超過死亡率を引き起こすものと考えられる.ワクチン未接種であればさらに超過死亡は高まる.
JAMA. May 20, 2022(doi.org/10.1001/jama.2022.8045)

◆COVID-19はパーキンソン病発症のリスクになる可能性がある.
映画「レナードの朝」で知られるように,1918年のウイルス性の嗜眠性脳炎と診断された患者にパーキンソン症状が出現した.ウイルス感染による神経疾患の誘発は従来より懸念がり,COVID-19でもパンデミック当初から脳症後パーキンソニズムが生じるか注目されていた.今回,SARS-CoV-2ウイルスの感染により,パーキンソニズムを引き起こすミトコンドリア毒素に対する感受性が上昇するか検証した研究が米国から報告された.方法はK18-hACE2マウスに,SARS-CoV-2ウイルスを感染させた.38日間の回復後,マウスにドーパミン作動性ニューロンを変性させる神経毒MPTPを投与し,7日後にドーパミン神経細胞の減少と神経炎症を示唆するミクログリアを測定した.この結果,感染後にMPTPを投与すると,SARS-CoV-2単独群,またはMPTP単独群と比較して,23%または19%の黒質ドーパミン作動性ニューロンの損失が生じた(p < 0.05)(図1左).またSARS-CoV-2+MPTP群では,黒質と線条体の両方で,SARS-CoV-2単独群またはMPTP単独群と比較して,活性化ミクログリアの数が有意に増加した(図1右).以上より,動物実験の結果ではあるが,COVID-19は神経毒の暴露によるパーキンソン病発症リスクを上昇させる可能性が示唆された.パーキンソン病のリスクを高める他の薬剤が,同様にSARS-CoV-2と相乗効果を持つか,またワクチン接種が防御的作用をもつか検証することが求められる.いずれにしても感染対策緩和などの公共政策が進む現状において重要な意味を持つ結果だと著者は述べている.
Mov Disord. May 17, 2022(doi.org/10.1002/mds.29116)



◆感染後のワクチン接種はlong COVIDを軽減する.
ワクチン未接種のCOVID-19感染成人に対するワクチン接種が,long COVIDに及ぼす影響を検討した研究が英国から報告された.対象は感染後,アデノウイルスベクターまたはmRNAワクチンを少なくとも1回接種した参加者のlong COVIDの有無とした.経過観察の中央値は,初回接種から141日,2回目接種から67日であった.参加者のうち6729人(23.7%)がlong COVIDを呈した.初回ワクチン接種は,long COVID のオッズの12.8% の減少をもたらし,その後も1週あたり0.3%減少した.2回目のワクチン接種後,long COVID のオッズの8.8%の減少をもたらし,その後も1 週あたり0.8%の減少が持続した.つまり初回接種は,long COVIDの軽減と関連し,さらに少なくとも67日間に渡って,2回目の接種後も持続的に改善した.健康関連因子,ワクチンの種類,感染から接種までの期間等は影響しなかった.より長い追跡調査が必要であるものの,ワクチン接種はlong COVIDに伴う集団健康負担(burden)の軽減に寄与する可能性がある.
BMJ. May 18, 2022(doi.org/10.1136/bmj-2021-069676)

◆モデルナおよびファイザーワクチンは異なる免疫応答を引き起こす.
モデルナおよびファイザーワクチンは副反応に差はあっても効果はほぼ同じと考えられてきた.ハーバード大学から,両者の差を詳しく調べ直した研究が報告された.2回接種を受けた病院スタッフにおいて,両者の抗体反応の違いを検討した.いずれもオリジナルの武漢型ウイルスの配列を元にしており,配列に違いはないため種々の変異株に対する反応には差はなかった.しかしエピトープ特異的な抗体反応とFc領域を介したエフェクター機能を促進する能力は,両ワクチン間で異なっていた.具体的にはモデルナの接種者では,受容体結合ドメイン(RBD)およびN末ドメイン特異的IgAがより高濃度に観察された.そして抗体の Fc 領域の機能を反映する,好中球の貪食能誘導やNK細胞の活性化もモデルナで強く誘導された.また誘導される抗体からRBD特異的抗体を取り除くと,ファイザーでは抗体依存性細胞障害,NK活性,白血球貪食誘導は低下するのに対し,モデルナの場合は活性が残り,一部は上昇さえ認められた.以上より,モデルナとファイザーは異なる免疫応答を引き起こすものと考えられた.→ 私はファイザーを3回接種したが,4回目はモデルナを希望したいと思う.
Science Transl Med. Mar 29, 2022.(doi.org/10.1126/scitranslmed.abm231)s

◆long COVIDの発症メカニズム4つの仮説.
long COVIDの病因について,有力な4仮説がNature Medicine誌に掲載されている.第1はPCRでは病原体が検出されない場合でも,元の病原体が持続的な感染を引き起こすか,あるいは非感染性の残骸が体内に残っている可能性である(図2a).この場合,ウイルスRNAや細菌細胞壁などの病原体関連分子パターン(PAMPs)を生成され,様々な宿主パターン認識受容体(PRR)に作用して,自然免疫活性化を引き起こす可能性がある.またT細胞やB細胞の活性化を引き起こし,炎症状態を引き起こす可能性がある.
第2は,自己免疫活性化である(図2b).自己抗原に対する自己免疫応答は,急性感染症後に起こることが知られている.通常は抑制されている自己反応性T細胞やB細胞が,制御性T細胞(Treg)の機能低下や高濃度のサイトカインによる刺激によって一時的に活性化するために生じる可能性がある.自己免疫性リンパ球は,病原体由来の抗原が自己の抗原を模倣する,いわゆる「molecular mimicry」によって活性化されることがある.Guillain-Barré症候群,多発性硬化症,1型糖尿病,全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患におけるメカニズムとして議論されてきたが,COVID感染後でもこれらの疾患の発症が報告されている.
第3は,初感染やその後に生じる免疫反応によって引き起こされるマイクロバイオーム,ヴァイローム,マイコバイオームの調節障害である(図2c).とくにEBウイルス,サイトメガロウイルス,単純ヘルペスウイルス(HSV)などの潜伏性DNAウイルスの再活性化が生じる可能性がある.
第4は,感染とその後の免疫反応によって引き起こされた組織損傷を修復できないことにより引き起こされる可能性がある(Fig.2d).例えば,肺の血管損傷や線維化,脳萎縮などは長期的な機能障害につながる.急性期の重症例はこのリスクが高くなる.以上の仮説は重複し,相互依存している可能性もある.
Nat Med. 2022;28:911-923(doi.org/10.1038/s41591-022-01810-6)




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