ここから何回かは、相殺戦の戦い方を分析したいと思います。

応用編も含めればいろいろやり方があると思うのですが、まずは私の考える基本編から。そのコンセプトは、「シナリオを作って戦う」というものです。「シナリオ」は、平たく言えば、「具体的にどの駒で敵軍司令部を陥れるか、そして、どうやってそこに至るか」というものです。
たとえば、代表的なものを挙げれば、「自軍少将を敵軍に獲らせて、それで敵軍の中将を特定し、その敵軍中将が戻りきる前に、自軍中将が敵軍司令部を陥れる」というシナリオが考えられます。かなり有効なシナリオです。

しかし、軍人将棋に慣れた人はすぐに気付くと思うのですが、このシナリオは完全ではありません。なぜなら、どうやって「自軍少将を敵軍に獲らせるか」や「自軍中将の敵軍司令部までの進撃路をどう確保するか」が描かれていないからです。その辺のシナリオの肉付けがまだ足りていません。「自軍少将が中将のふりをすることで、敵軍中将に当てて来させる」とか、「自軍ヒコーキ×2枚で自軍中将の敵軍司令部までの進撃路を開く」といった部分的なシナリオも必要とします。
その意味で、シナリオには戦略的シナリオと戦術的シナリオがあると思います。

さて、本題に入る前に2点挙げておきます。
第一に、有効に使える戦略的シナリオの数はあまり多くないと思います。せいぜい5つくらいかな?これが、大将・スパイが残っている状況だと、こんな数では済みません。相殺戦でなければ正直シナリオなどは多すぎ、複雑すぎて組みようがないのですが、相殺戦だと、双方の打つ手は限定的なので、無計画に戦うよりは、シナリオベースで戦ったほうが勝ちやすいと思います。
第二に、「シナリオを作って戦う」のには、副作用があります。相手に読まれやすいというのと、策におぼれて自滅しやすいということです。それでも、戦術的シナリオを駆使して読まれにくくする、柔軟性をもって状況に対応していくことでカバーはできるので、その辺も以下で触れていきたいと思います。


 「少将カウンター」: 自軍少将を敵軍に獲らせて、それで敵軍の中将を特定し、その敵軍中将が戻りきる前に、自軍中将が敵軍司令部を陥れる

まさに王道と言って良いと思います。上手くいけば最も不確定要素を少なくして勝つ方法です。しかし、欠点が2つ、副作用が1つあります。

欠点の第一は、自軍中将が後方に「埋まって」いたら使えないこと。特に自軍司令部に隣接する場所に居れば、その自軍中将を敵軍司令部を狙える位置に出すということは、自軍司令部に至る道をあえて開けてしまうことにつながります。この場合は違う戦略シナリオが必要です。

欠点の第二は、自軍の囮となっている少将に、敵軍中将が喰らいついてくれる保証はないということです。
たとえば、こんな場面。
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赤軍が、右サイドと左サイドから1枚ずつ攻め手を繰り出しています。まさに、「少将カウンター」を狙っている典型的場面で、青軍がある程度練達していれば、ピンと来ているはずです。青軍中将は、この4cの赤軍少将を獲ってくれるでしょうか?
おそらく獲ってはくれません。なぜなら、その後に次のようなシナリオが容易に想像できるためです。

(1) 【4c 中将】    ×少将
(2) 【3f 中将】
(3) 【3c 中将】
(4) 【2f ヒコーキ】  ×??
(5) 【3d→4d】
(6) 【1f ヒコーキ】  ×??
(7) 【3d 中将】
(8) 【8f ヒコーキ】
(9) 【2d→9d】    =相殺(ヒコーキ)
(10) 【2f 中将】
(11) 【2d 中将】
(12) 【1f 中将】
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青軍司令部に残る駒が何であれ、中将でない以上、赤軍の勝ちです。このように、青軍がベストに近い指し筋を選んでも、敗れざるを得ない以上、青軍が容易に赤軍少将を獲ってくれることもなさそうです。代わりに次のような手でくるかもしれません。

(1) 【3h→4h】
(2) 【5f 中将】
(3) 【4c 中将】    ×少将
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さっきのケーススタディでは、青軍は一手自軍司令部に戻りきれず、という結果だったので、ひねりを加えました。赤軍中将の背後を突く素振りをするわけです。それを阻止しようと赤軍中将が一歩下がったところで、青軍は赤軍少将を奪います。手数計算上、今度は青軍の守りが間に合う可能性が出てきました。
(注: ただし、青軍が自軍司令部にヒコーキを置いていた場合に限ります。そうでなければ、青軍は二手分稼ぐ必要が出てきます。こういうシチュエーションがあり得ることが、初期配置時にヒコーキを自軍司令部に置きたがる人が多い所以ですね。)

さて、間延びしましたが、本題に戻って、「少将カウンター」狙いの副作用、欠点の第二とかなりかぶりますが、この狙いがバレやすい。具体的には、赤軍の中将と少将が、どっちがどっちかは別にして、半ば所在を明らかにしてしまう羽目になる、ということです。


このような欠点と副作用を踏まえれば、赤軍としても、この戦略的シナリオに少し味付けをする、戦術的シナリオで補完する工夫が必要になるでしょう。
パッと考えつくものは2つ。

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この場面、青軍が赤軍少将を獲ってきたということは、それなりに中将を自軍司令部に戻す自信あり、と考えても良いでしょう。しかし、青軍中将が悠々と戻りきれる状況か、というと、そういうことは無いはずです。いずれにせよ、少将をむざむざ失って、100%の確信がないと攻めないというほどの余裕が赤軍には無くなっています。
リスクが多少あっても、青軍の手数計算を崩す指し手を選ぶしかありません。

たとえば、先のケーススタディで、赤軍ヒコーキが、2f、1fと2回飛んでいたのを、いずれか1回にしてみてはどうでしょう?もちろん、赤軍として中将に地雷を踏ませてしまうリスクがあるのですが、多少のリスクはしょうがありません。逆に、リスクを冒してこそ相手の計算の上を行くことができるのです。

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そして、これが第二の工夫、戦術的シナリオです。敵軍に中将と少将で来たな、と思わせておいて、逆手にとって敵軍中将の当たりをつけてみようという試みです。この少将のふりをしている4c中佐は、タンクであればなお良いかもしれませんが、中佐でもモノの役には立ちます。
このままだと敵軍も喰いついてこないので、赤軍が【4g 中将】とか【5g 中佐】とか、一瞬、(フェイクの)隙を見せてみるというのはどうでしょう?待ってましたと喰いついてきたら、それが青軍の中将だと当たりをつけて、その後は、上手く自軍少将の位置をコントロールするわけです。



さて、いつもの如く、長くなったので、次の戦略的シナリオ「駒優勢の獲得」は、次回に見てみることにします。