アートの周辺 around the art

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引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

吉村芳生 超絶技巧を超えて@東京ステーションギャラリー

2019-01-13 | 展覧会
今年最初の記事は、昨年末に東京へ出かけたときに鑑賞したタイトルの展覧会を取り上げたいと思います。会場は、いつも期待を裏切らない展覧会を見せてくれる東京ステーションギャラリー。あのレンガのユニークな壁が、作品とどのように共創を生み出すかも、いつも楽しみに注目しているところ。

画家・吉村芳生の名は、初めて知りました。チラシを眺めてるだけでは、なかなか全容がわからない、「超絶技巧」がキーワードのよう。新聞に描いているこの自画像は、いったい…?

吉村芳生さんは、1950年に山口県に生まれました。主に郷里の山口県で作品を発表されていたようですが、2007年に森美術館で開催された「六本木クロッシング」で一躍注目を浴び、遅咲きの新人として話題になりました。このとき、彼の作品をキュレーションしたのが、美術批評家の椹木野衣さん。ところが、惜しくも2013年に病気で早逝されました。63才、まだまだ描きたかったでしょうに、本当に残念なことです。

展覧会を通してひしひしと感じるのは、吉村氏の描くことへの執念。彼の作品の「凄さ」は、実際の作品を見ないとわからない!鉛筆で超絶技巧の作品を生み出しているだけど、そこには彼が学んだ版画が深く関わっています。
少し離れたところから、写真に見える作品は、近寄って見るとすべて鉛筆で描かれている。しかも、版画の版をつくるように、モノクロ写真に細かい格子を刻み、そのひとマスひとマスの黒色の濃度を数値化し、同じく細かくマス目を刻んだ紙に、鉛筆の斜線で移し替えていくというもの。(わかります?)なぜ、そこまでやる?と言いたくなるほどの、緻密で根気の要る作業。写真のようで、全く写真ではない作品たちを見ていると、強く心が揺さぶられる気がします。なんなんだ?これは!

さらに、彼の執念を感じるのは「継続すること」。見習いたいです…。1年間、毎日描き続けた自画像。写真を撮ったものを描いたとのことですが、ささいな変化かと思いきや、1日違うだけで全く表情が違っていたりして、おもしろかったです。
そして、晩年に取り組んだ、新聞の一面に描いた自画像。本物の新聞に描いたものもありますが、驚くべきことに、新聞自体(新聞ロゴから、写真も、天気予報も、広告も!)すべて手描きの作品もありました。新聞紙面いっぱいの画家の顔は、記事に関連しているのかいないのか(昔の記事も興味深かったです)、さまざまな表情を浮かべています。これが壁いっぱいに展示されている様子は圧巻でした。

また、美術館のレンガの壁に展示されていたのは、2000年以降に取り組んだ色鉛筆による花々の大きな作品たち。これらも同様に細かいマス目を埋めて描いたとのことですが、写真のようでありながら、この世のものではないような、幽玄さを感じる色鮮やかな花々が咲き乱れています。これも、色鉛筆と思うと、驚愕!

人間の手が描く力って、無限大なのかも…と思わせてくれた展覧会でした。とにかく、驚愕・驚愕です。
展覧会は、来週20日(日)まで。絶対、実物の作品を見て欲しい!

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