ウソのような本当の話を人に伝えることは難しいです。
話し手が聞き手に求めたい感情は驚きでしょう。
話の内容によって、聞き手が抱いた驚きのベクトルは笑いや感動へ向かいます。

先日購入した電子レンジを設置しました。
設置すると言っても、これまで使っていたものと置き換えるだけです。
古いレンジを避けると、裏に個包装のお餅が転がっていました。
電子レンジを買った折りに
“レンジで餅を焼きたいこだわりを持った人”のことを触れましたが
まさか自分のレンジからお餅が出てくるとは思ってもみませんでした。
ウソみたいな本当の話です。

いや違います。
このような語り口で聞き手の驚きを誘うことはできないでしょう。
しかしながら、僕自身はお餅が出てきたとき、本当に驚いたのです。
賞味期限は5年前の日付でした。
少なくとも5年間はレンジの後ろに転がっていたことになります。
個包装ですから実際はもっと長い年月だったかもしれません。

これも語り口として違う気がします。
“ウソのような本当”の対象は餅であって、
“5年以上転がっていたという事実”は聞き手への訴求点とずれています。
「電子レンジを買い換えるとき、
 レンジで餅何て焼く人がいるのかと思っていると
 自宅のレンジ裏から餅が出てきた」
たしかに偶然性はあるのですが、文字にしてみるととても単純な話で驚きました。


話し手が2回驚いても仕方ありません。