傘寿・愛媛県教育文化賞受賞記念個展目録
個展目録1





































「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり」
                  幸若舞「敦盛」の一節

私の書架に津本陽の小説「下天は夢か」3巻が飾られて久しい。
織田信長の一代記で、私の愛読書だ。信長は冒頭の言葉を愛し、大
事に臨み「敦盛」を謡い舞ったことは夙に有名で、小説でも随所に
登場する。

「人の世の50年間は、天界の時間と比べると夢幻のように儚いもの
だ」というほどの意味。最近なぜか、この一節を思い出して仕方が
ない。

実は、私の10年ぶりの個展「傘寿・愛媛県教育文化賞受賞記念展」
が突然中止になった。柄にもなく無常観に打ちひしがれ、落ち込ん
でいるせいかも知れない。

同展は、4月27日~5月9日の間、新居浜市美術館(あかがねミュ
ージアム)にて開催する予定であった。準備万端整い、展示作業を
残すのみとなっていたが、愛媛県のコロナ禍は深刻さを増し、美術
館の閉館が決まったため、個展も夢幻 の如く消えてしまった。

 出品作品紹介。「山の発電所(端出場)」(F80号・1967年)
山の発電所


































今回の個展は「天・地・人 時よ、麗し」というタイトルを付けた。

私の画業65年間を振り返ると、奇しくも10年ごとに重大な転機が訪
れ、果敢にチャレンジして乗り切り、ひたすら前進し、気がつけば
80歳、傘寿を迎えていた。

この記念すべき年に、愛媛県教育文化賞を受賞することができた。
これひとえに、陰になり日向になり応援してくださった友人・知人・
家族のおかげであると思い、タイトルに感謝の気持ちを込めて開催
することを決めた。

私は、事を成すに当たって「天・地・人」を判断の基準としている。
すなわち、天の恵みを実感した今、私を育み慈しんでいただいた故
郷の美術館において、多くの人の支援を受けている今こそ機は熟し
たり、と早合点したのが浅はかであった。

新型コロナウイルスという強敵の存在を軽視していた。コロナ禍の
深刻な事態には危惧を感じていたが、まさか県内の美術館がすべて
休館になろうとは予想だにしなかった。

それにも増して、急遽実施を決めたため、散逸している作品の収集、
展示スペースの確保、案内状の配布等、すべての面において準備不
足であったことは致命的だ。

最後の頼りは、グループどんぐり会員の後方支援であったが、折悪
しく多くの会員がケガ・病気・業務の都合等で支障ができ、準備態
勢が整わなかったことは、返す返すも残念。

すなわち、今回は天の時、地の利、人の和、すべての条件が整って
いないのを見誤り強行した、すべては私の不明の致すところである。

 日展入選作「四阪島・風の日」(P100号・1983年)
四阪島風の日



















 インドの女神を描いた「摩耶の春」(S80号・2013年)
麻耶の春


























それにしても心残りは、私の作品の変遷を見てもらえなかったこと
だ。

個展のタイトルを「天・地・人 時よ、麗し」とした理由はもう一つ
ある。作品の移り変わりを、この言葉で表していることを知ってほ
しかった。

私のモチーフは年代ごとに変化している。

20代 始まりは別子銅山     一水会展初入選 
30代 四阪島に魅せられて    四阪島展開催(にいはま大丸)
40代 瀬戸の島々を巡る     瀬戸内の島展開催(県美術館)
50代 日本全国スケッチの旅   北海道・富士山・信州・大山
60代 なぜかインドの女神    インド取材旅行(3回)
70代 日本回帰 天空に遊ぶ   菩薩・天女・古事記・万葉集
80代 目指すは霊峰石鎚三十六景 葛飾北斎に挑戦

ご覧いただければお分かりのように、天地人すべてが私のモチーフ
である。最近は時空を越えて自由気ままに遊んでいる。名実ともに
遊行期を生きている。

今回は、美術愛好者のみなさんにご迷惑をおかけしたが、捲土重来、
いつの日か進化した秋山を見ていただきたいとは年寄りのカラ元気
か?! 

 日本回帰の記念作「雲上菩薩と天女」(F100号・2018年)
雲上菩薩と天女





















 最新作「霊峰石鎚」(F100号・2021年)
霊峰石鎚