人生を変える小説 by 魔法のネコ

人生を変える小説 by 魔法のネコ

即興小説を書いています。是非ご覧下さい

★魔法のネコ☆小説ブログへようこそ!
この小説のテーマは「この世で起きる奇跡」です。日常で実際に起きた心に響くお話を配信しようと

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渚☆光詩さん:
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ミナは、高校一年生の女の子、彼女は今、父親が世界で一番ウザいと思っている。彼女が特にむかついてるのは、言っていることがとにかく矛盾

していることだった、昔は早く起きろって言っていたのに、仕事が変わった途端に、自分は遅く起きるし、とにかく人をイライラさせることばかり言う。

 

この間も、自宅で焼肉をしていて、楽しく食べていたら父親がお母さんに

「おい、なんでカルビがないんだよ!カルビがない焼肉は焼肉じゃないだろう」と言ってきた。これを聞いた娘は

 

一体何様のつもりといらついた。「カルビが食べたいから、今度買ってきてください」ってやさしく言えばいいじゃん。

 

他にも不満がたくさんある。お母さんだって、あいつが嫌いだと思っていた。嫌すぎてどうしようもない。一人で悔しくて泣いたこともある。一人暮らしを夢見ている高校生だ

 

娘は最近になって、出来れば父を殺したいとさえ思っていた、そんな殺意を覚えていたのだ。娘の気持ちは限界だった。

 

反対に父親も娘の気持ちが全く分からないでいた。父親の高田は、夜の交通整理の仕事をしていた。最近まで、大手の家電メーカーに勤めていたが、経済危機のため、リストラをされてしまったのだ。仕事が変わり、朝は遅く起きて、夕方から出勤に出る日々だった。

 

自分へのストレスから、娘や妻に当たることも多く、家族は不穏な空気に包まれていた。

 

その日も、雨の日に父親は工事現場にいた。雨のため、工事が早く終了して11時には上がることになった。娘はおそらくまだ起きてるので、また顔をあわせるかと思うと憂鬱だった。

 

その時、高田はちょうど自宅途中の公園の横を歩いていた。すると、茂みの中から何やら声が聞こえた。最初は、カップルがいちゃついているのかと思ってむかむかした。

「まったく最近の若い奴らは」そんな中年のため息をついた。

 

しかしなんだか様子がへんなので、少し聞き耳を立ててみた。

どうやら揉めてる様子だ。

 

これは襲われてるのだ。

 

ようやく事態を理解したが、高田は動けなかった。

 

こんなのに関わってもし相手が暴力団だったらどうする。

まっさきに頭に浮かんだのは、自分の身の安全だった。

 

そして、そのまま無視をしてその場を去った。

 

警察に電話をしてあげようか?

いや、もし電話をして自分が不審者になったらそれこそ会社を首になる。

 

徐々に女性の声が小さくなってきた。

 

高田は足を止めた。そして自問自答を繰り返した。

本当に立ち去るべきなのかどうか。

 

私にはそんな勇気はない。私は格闘技もやっていないし、

第一、この女性とはなんの関係もない。

仕事もリストラされたし、だめな人間なのだ。

 

そこでこんなシーンがよみがえってきた。

自分が課長時代、後輩と飲みにいった。

そこで、目の前で喧嘩がはじまった。

 

自分が躊躇していたら、すぐに後輩が間に入って止めた。

それを見ていた女子社員がみんなその後、私の言うことを

きかなくなり、後輩の意見ばかり聞くようになった。

 

やっぱり、男は強くなきゃ。そんな強いリーダーシップが

まぶしかった。

その後、勢いを失った高田はリストラされて、後輩が

課長となった。

 

こういう状況であの時のことを思い出していた

そして、なんて自分はなさけないのかと思うと、

悔して涙が出た。

 

まだ自分は40歳。やり直せる。いや、やり直すのだ。

家族とも、自分自身とも、

 

そして、高田は握りこぶしを握ったまま、

持っていた鞄を放り投げて、先ほどの公園の茂みに

戻った。

 

そして無我夢中で、相手の男にしがみついて、女性を引き離した。

 

男性は、高田を殴り倒してきた。しかし高田はめげなかった。

むちゃくちゃだったが、相手にくってかかった。

 

とうとう、そのしつこさに、参った男性は、その場から立ち去った。

殴られて顔をはらしたまま、女性のところにかけよった。

 

女性は木陰でやぶれた服で、震えてしゃがんでいた。

暗くて、相手の顔がよくみえない。

 

「大丈夫ですよ。怖くないから。もう奴はいなくなりましたから」

 

やさしく声をかけた。

 

沈黙が続いた後に、声が聞こえた。

「お、おとうさん????」

 

木陰から顔を覗かせたのは、なんと娘のミナだった。

高田は、自分の作業用ジャンパーを彼女にかけて、そのまま肩を抱いて

一緒に自宅へ帰った。

 

「あなたどうしたの、喧嘩でもしたの?」

妻から高田は言われたが、なにも答えなかった。

 

翌日の夜、高田は会社が休みだった。

家族で、焼肉をやることになった。

高田がテーブルにつくと、ミナは、そっと声をかけた。

「お父さん、これカルビと、ビールよ。」

 

高田は満面の笑顔でそれに答えた。

 

 

 

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この小説は、Yitta Halberstamの著書Small Miracleの内容を引用してます。

出版社は、Adamsmediaです。

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「運命の人を探して」

by 魔法のネコ。 
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天野さくら、年齢65歳。年金と蓄えで生計を立てている。
仕事はフリーランサーの小説家だ。趣味は
新聞の告知欄を読むこと。決して、
贅沢は出来ないが、毎日幸せな日々だった。彼女の日課は電車
で都内まで出かけること、その日は11月の中旬、



冬の匂いを感じるころだった。東武東上線に乗っていた電車は
ゆるやかに坂戸の駅に到着しようとしていた。
いつものように日課の池袋との往復をしていたころ、
彼女は新聞を読んでいた。

 

昔からさくらは日課は新聞の告知欄を見るのが趣味だった。
なぜ告知欄を見るのが好きなのだろうか。さくらは小学校の
頃から人の生活に首をつっこむのが好きだった。
「人生は小説より奇なり」これがさくらの母の口癖だった。

 

さくらは結婚して30年、素敵な夫もいるし、それなりに平和な人生を送っていた。さくらは広告を見ながら、いつもロマンチックな出来事を探していた。

告知欄というのは不思議なドラマがある。

 

人探しの欄が特に好きなのだ。あれを見ながら、この人はどんな想いで人を探しいるのか、ドラマを感じずにはいられない。そこで想像を広げるのだ。

その日も同じように告知欄を眺めていた。

 

「あ、これ面白い」とさくらは思わず口に出してしまった。

「これ本当なのかしら?」頭にかけた老眼鏡を思わず書け直した。

告知にはこう書いてあった。

 

「みほさん、あなたは私を覚えていますか?昭和39年に夏に一緒に

日光で行われたボーイスカウトのキャンプに参加しました。
私はあなたを忘れた時は一時もありません。どうか
お電話いただけないでしょうか?たかし。」

 

そこにはちゃんと電話番号を書いてある。

 

「これって本当なのかしらね」さくらは、改めてつぶやいた。

その日の夜、家に帰っても、あの告知のことが気になって仕方がない。

告知って結構お金もかかるのよね。

 

ふざけて冗談のためにわざわざ新聞にのせて告知するかしら?

翌日、さくらはどうしても気になったので、勇気を出して

告知の電話番号にかけた。

 

電話口の相手のトーンを聞いた時に、それがすべて悪ふざけでは

ないことが分かった。

 

その瞬間、この電話をかけた自分の疑いの気持ちに悔やんださくら

だった。

そして、次に考えたのは、

この電話によって、たかしさんが、間違えた期待を
抱いてしまうのではないかと考えたのだ。

 

さくらは電話口でこう言った。

「も、もしもし、私はあなたがお探しの「みほさん」では
ありません。すみません、どうしても告知の内容が気になって。
どういう経緯でお探しなのか差し支えなければ教えていただければと思って」

 男性は紳士的な話口調で、快く応じてくれた。
さくらも、ほっとした気持ちだった。

「ええ、いいですよ。昭和39年、私は17歳でした。
私とみほさんは同じキャンプに参加しました。二人とも
リーダーになってお互いに助けあい、愛し合いました。
これこそ人生に一度の出会いと感じました。

 

みほさんに結婚を申し込んだのですが、相手方のご両親に
反対をされました。当時は彼女も17歳だったので、まだ若い
と判断されたようです。相手側の両親は私からみほさんを
離すために、海外に転校させてしまったのです。

 

そして彼女はアメリカで他の男性と出会い、結婚してしまいました。

私の心も身も引き裂かれそうな想いでした。私も数年後
には別の女性と出会い結婚をしました。

 

しかし、みほさんを愛したような愛情で妻と接することは
出来ませんでした。しかし妻とは平和な日々を過ごして幸せ
になることは出来ましたので感謝をしています。妻は3年前
に他界をして、私は現在、独り身です。

 

最近になって、みほさんはどうしたのか気になって仕方が
なく、思い切って告知を出したのです。今はまだ生きて
いるのか、まだ結婚されているのか?知りたくて仕方がなかったのです。

もちろんアメリカにまだいた場合は日本の新聞にのせても
意味がないですが、思い切って挑戦だけしようと考えたのです。

 

そしてもし彼女も独り身で、私のことを覚えていてくれて少し
でも私のことを気にしてくれているならもう一度あの情熱的な愛を取
り戻したいと考えたのです。

 

もちろんこの65歳の老人のたわごとを本気で相手にして
くれるかどうかは分かりません。しかし私は少しでも情熱
が残っているなら、死ぬまでにどうしてもこれだけは知りたいのです。」

 

ゆっくりだが、とても力強いこの男性のトーンに、
さくらはすっかり感心してしまった。人間の熱い情熱
というのは素晴らしいと心動かされた。

 

さくらは実はフリーランサーとして、小説を書いていたのだ。
いつも告知を物語のネタにしていた。

そこで、たかしさんから許可をとり、この題材をテーマに
小説を書き上げたいと考えて、早速出版社に連絡をした。

しかし編集者はこの意見に反対をしたので実現はしなかった。

 

さくらは、時折数ヶ月に一度、気になり、たかしに
連絡をして、あれから、みほさんから連絡が入ったの
かどうか確認をしたが、連絡は来なかった。

 

それから2年後、、、、

 

 

私はいつもどおり東武東上線に乗っていた。そこで、
今日はたかしさんの想いを感じながら、日光まで足
を伸ばそうと考えて、そのまま日光まで散歩に出かけた。

やはり、いつも通り、告知欄を広げながら、趣味にふけっていた。

 

すると、隣から、なにやら女性が声をかけたきた。

 

「どなたか、ボーイフレンドでも探してるの?」

 

隣の女性が笑いながら笑顔で声をかけてきた。

 

「失礼しました。とっても熱心に新聞を読んでいらっ
しゃるから、どなたかお探しなのかと思って。」

 

「あ、ええ、趣味なんですよ。告知を見るのが。良かったら見てみますか?」

「私はいいわ。人のお話を読むとつらくて、同情しちゃって
つらくなるのよ。」

 

どうやら同年代の女性のようだった。どこか人
なつっこくて、人好きのする感じの人だった。私は彼女と気があい、
そのまま席を彼女側へうつって話こんだ。

 

「で、日光には旅行で来てるの?」さくらは聞いた。

「ええ、思い出旅行かしら」女性は答えた。

「へえー、それは奇遇。私もある男性の思い出のためにここに来たの」

「それはめずらしいですわね。ご主人の思い出とかですか?」

「違うのよ。それがね、、、、」と、たかしさんの話を始めた。

 

この「たかしさん」の話を、女性は神妙な顔つきで聞いていた。

そして、最後に、さくらがこう切り出した。

 

「ね、というわけなの。残念ながら、この話はハッピー
エンディングじゃないのね。みほさんは最後まで現れなかった。
私が推測するに、みほさんはもうすでになくなったか、
告知を見ないか、もしくは幸せだから無視をしてるかのどれかね。」

 

すると女性はこう言った。

「その3つのどれでもないわね。」

と言って、そっと肩をたたいた。

 

そして彼女は、さくらにこう聞いた。

「ねえ、さくらさん、ところで、たかしさんの電話番号教え下さるかしら」

ちょうどそのとき、電車は日光駅の到着を車内に知らせていた。

 

 

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その日の午後は、春のような陽気だった。二人はベンチに座って

軽食をとった。目の前には、指定されたビルについていた。

そのビルを眺めながら、佐藤はつぶやいた。


「さて、どうしたものか。」

「どうしたっていうんですか?やはりあのビルは危ないんですか?」

「ああ」

「ああって、そんなのんきな。具体的にどこがおかしいのか教えて

くださいよ」


「まず、玄関を見ろ、やたら狭いだろう。あれは外敵が逃にくく

しているだろう。そして近くにビルがない。さっき裏口も見たが、

出口が一つしかない。しかも怪しい奴らがうろうろしてやがる」

「そんな所に入るのはやめましょうよ。」里中はそっと聞いた。



「いいや、入るしかない。いざとなれば、例の青い袋のものを

使えよ。」

「でも、人数が多かったらどうするんです。この青い袋のもの

で対応出来なかったら。。。。こうなりゃ、入らないという

選択肢もありじゃないですか?」

「ずいぶん弱気じゃないか。秋の風邪でも引いたか?」



二人は日が暮れて、夜になってから玄関から中へ入り、

そのまま進む。不思議なことに

誰も彼らを邪魔することなく、無視している。

暗闇の中、わずかな月の光で、中へ進む。ようやく目的の指定の部屋へ

たどりついた。玄関には怪しげな男が三人いた。

佐藤はしゃべりはじめた。



「町田さんという人に会う約束をしたんだが」

3人の男は驚きもせず、待っていたという顔をしていた。

「どうぞ入ってください。お待ちしてました。」

中へ入ると、さらに薄暗くて、まるで迷路みたいになっていた。

佐藤は里中に話かけた。

「なんか嫌な予感がしてきた」



「何いってるんですが、俺があれほど行ったのに、もう遅いですよ!」

一番奥までいくと、部屋の中には、4人の人影があった。全員マントを

来ており、カラフルなマフラーをしている。顔が きちんと見えない。

佐藤は4人にむかって声をかけた。

「町田さんに会いにきたんだが」

「目の前にいる」真ん中の男が返事をした。


里中は緊張していた、いつ佐藤からサインが出るかもしれない。

しばらく静寂が続いた後に、佐藤が切り出した

「しかし、佐藤と里中がそちらの場所に行けるとは限らないな。

彼らはテリトリーから出てはいけない指示が出てるからな。」

そう言った途端、佐藤はすっと前に飛び出した。

里中はあわてて、佐藤の動きにあわせた。

「彼らに伝えてくれ。我々はそこにいくと」

すると、男は軽くうなづいた。

「感謝する。約束は取り付けたということで」

男は背を向いて、再び闇へ消えていった。

里中は、ふーと息をついて腰をおろす。

「佐藤さん、どうするんですか?だいたい怪しくないですか?」

「おそらく罠だろうな」

「ですよね、だったらやめましょうよ。あんな約束守ることないっすよ」

「しかしそういうわけにはいかない。我々が行くということこそが、

使命だろうから。」

佐藤と里中は旅の支度をして出かけた。旅は予想以上に時間がかかった

それは佐藤の足が不自由だからだった。佐藤は自分から痛みを伝える

ことは決してなかった。里中はそんな痛みをこらえる佐藤を見守りながら

気づかれないように配慮をしながら旅を続けた。

この旅の途中、里中はずっと感じていたことがある。

それは佐藤がどこか自分の死に場所を探してるのではないかという疑問だった。

何か今回の罠ということも分かった上で、むしろ進んで自分から名乗った

こともおかしいと感じたのである。

佐藤もさすがに里中の気遣いに気づいて悪態をついた

「おい、もっと早く歩けるだろう」

「いいえ、荷物が重いのですみません」

「だったら、荷物を少し俺によこせ」

「いいえ、自分の荷物は自分で」

「とにかくだったら早くいけ!」

佐藤はイライラしてるようだった。いつも大切な瞬間の前には佐藤は

こうしてイライラするクセがある。

休憩の間、里中は例の青い袋の中身を見続けた。いつか使う瞬間が

来るのだろうか。

本小説は、Catherine FisherさんのRelic MasterDial社出版) を著者が読んで上、感じたことを引用して書いています。またすべては日々の直感と思いつきで話を進めておりますので、著者も結末を全く分かりません。一緒に読者の方と楽しんでいきたいと思っておりますので、更新も不定期で、時間が許すときにだけアップさせていただきます。どうぞ宜しくお願い致します。

 

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佐藤淳はある会社を経営している。年齢は40歳だ。そして社員は1人
名前は里中三郎と言う。

ちょうどその日は満月の夜だった。
上を見上げると、そこには
7つのビルがそびえたっていた。その中に小さなビルが1つある。そこがお気に入りのビルなのだ。


他の
6つのビルが最新の施設であるならば、最後の1つのビルはレンガ造りのビルだからだ。この新しい群れの中の古いものが不思議な調和を
生んでいた。

後ろからは、新入社員の里中三郎が、両手いっぱい荷物を持って
佐藤を追いかけていた。佐藤は後ろから来る、里中の気配を感じながらも、そのまま空を見上げて、新しいものと古いものの調和を感じていた。


里中は佐藤をちらみすると、携帯に目を追いやった。佐藤はどうやら機嫌がよくないことが見て分かったからだ。こういう時は関わらないほうが良いとさすが新人でも入社して3日で理解した。

鞄の荷物のひもでさすがに手がじんじんしてきた。


ビルのジャングルは夜もふけておりシーンとしていた。そろそろ家に戻って暖かいお風呂に入りたいと里中は考えていた。すると、そこで、妄想が止まった。後ろから何かの手配を感じたのだ。

どこか遠くの方から感じる何か大きなものが近づいている、そう里中には感じたのだ。


「どうした、お化けでも見たような顔してるぞ」佐藤が声をかけた。

 

「何か遠くから嫌な気配を感じたもので」里中は答えた。


すると、佐藤が大きな声を出した。


「おい、俺はどこへも逃げはしないぞ、さあ出てこい」


「や、やめて下さい。そんな挑発したらどんなことが起きるのかわかりゃし

ない」

「大丈夫だ。そんな奴らには俺は負けんぞ。さあ、どこからでもかかってこ

い」佐藤はあくまでも強気だった。


「で、どこから感じるんだ。その嫌な気配は」


「あちらのビルです」


「きっとどこかの酔っぱらいだろう」


「だと良いんですが。。。」心配そうに里中は答えた。


「ところで、俺の例の青い袋は持ってるんだろうな」


「も、もちろんですよ」


「いいか、もし俺に危険が及んだら、必ず使えよ。いいな?」


「分かってますよ。でも、社長に危険が及んだら、どうすればいいんです

か?」


そこで、カランカランと闇の中から、音が反響した。


里中の心臓はバクバクしていた。


「さあ、そろそろ音が近づいてきたぞ。準備はいいか?」


「は、はい。」


「大丈夫だ。心配するな、お前に危険は及ばないようにしてやるから」


里中は青い袋に手を入れた。


すると物音はとうとうすぐ後ろまでやってきた。それは男だった。


身長は
190cmぐらいあるだろうか、黒いコートを来ていた。


「どうも」軽く会釈をしてきた。知り合いだろうか。


佐藤も答えている。


佐藤は、まあ、一杯どうだと行って、袋から缶ビールを取り出した。


「いいや、おれはいい」男は断った。


「心配するな、危害は加えない」男は答えた。


そういって、男はポケットから手を出した。


「人を探している。佐藤淳という男だ」男は聞いた


里中はドキッとした。


「そして新人の里中という男も探している」


里中はそれを聞いて心臓が止まりそうになった。相手は自分のことを知らな


わけだから、知らぬふりをしてしまえば良いととっさに思い付いた。


「なぜそいつらを探している」佐藤はヒゲを触りながら聞いた。


その時、里中は気づいた。佐藤がヒゲを触るという意味は「警戒しろ」とい

サインだった。


「伝言がある。この先の三丁目と四丁目のビルで、奴らに会いたいといって

いる人がいる。



「しかしそんな怪しい場所へわざわざいく奴がいるか?」佐藤が聞いた


「大丈夫だ。彼らは怪しいものではない。安心してもいい」


「とにかく、佐藤と里中の力が必要なんだ」


里中は、袋のなかのものに手を入れて準備をした。


まだ使ったことがない、このものに。

つづく

むかしむかしある日本の村に2人の青年がいました。


2人の青年は村での貧乏な生活に嫌気がさして成功するために


東京に出かけようと決意をしました。東京についてから2人の青年は


東と西に分かれてお互いに成功することを誓い合い10年後に再会


することにしました。


2人は成功するに当たり大切な約束を守ることを誓いました。



それは500万円たまるまでは絶対に贅沢品を買わないということでした。



この約束は村に伝わる成功の法則でこれを守る人間だけが成功する



というものでした。2人はこの約束を信じて守ることにしました。



東に行った青年はとにかくこの約束を守り必死に働きどんな贅沢を




したくても我慢をして500万円たまるまでは貯金をすることにしました。




西へ行った青年も最初は守っていましたが、1ヶ月たち、はじめて東京に




出てきたのでちょっとおしゃれのためにいい時計を買いたくなり自分のご




ほうびをあげることにしました。もちろん1回だけのごほうびと決めました。




時計を買った興奮はとても楽しい気分になりました。まさに自分はこのため




に生きているのだと実感しました。そして次も今回が最後といい続けて贅沢品




を買い続けているうちに生活はぎりぎりになり村での貧乏生活と変わらぬ生活




を送りました。





そして5年間その暮らしを続けていくうちに約束の半分だが、東の友達




はどうしているか気になったので見に行くことにしました。彼の家についた



ら、びっくりなんと豪邸に住んで、ビジネスもいくつも成功しているでは



ないですか。




あんぐり口をあけているのを見て、約束の10年より早い5年での




再会を果たしてしまいました。東の友達は西の友達の貧乏な姿に




驚きかわいそうになりました。そこで、彼の家の一部を提供して家




の召使のひとりとして雇いことにしました。




お給料をあげて仕事も手伝わせることにしました。西の友達は



感謝して、仕事をやりました。今度こそまじめにやろうとして




取り組みました。そして彼にトマトの苗をプレゼントしました。




西の友達はトマトの苗をうえて育てました。するとおいしそうな




小さな芽が出たので、ちょっと早いが食べよと小さいまま食べました。




そしてまた芽が出て、待ちきれずに次も食べました。





すると、東の友達が西の友達を呼んで、いいました。





「いいかい、よく聞くんだぞ。君はまったく村の約束を守っていな




かったし、大切さを理解していない。その証拠はトマトの苗だ」




東の友達はいいました。




トマトの苗と自分の失敗がどう関係があるの?西の友達はさっぱり



わかりませんでした。東の友達は笑いながら話しました。




「君はおいしいトマトの苗を待ちきれずに芽が若いうちから食べて


しまっただろう。そうやって芽の若いうちから食べつづけたら永遠に



トマトは大きくならずに小さいままで君のおなかは満腹にはならん。




もしちゃんと大きくなるまで待てばトマトもたらふく食えるし、



そして余ればそれを他の人に売って資金にさえ出来るんだ。



君に与えた家の庭はどんな野菜もすぐに育つすばらしい土地をあ



げたんだぞ。それに気づかないから、500万円の約束も守れないんだ。



よく考えるんだ」




西の友達はショックでしばらく考え込みました。



それから西の友達はトマトが大きくなるのを待つことにした。



目の前で成功した友人を見てこの法則が本当に大事だと理解したのだ。



西の友達はトマトが大きくなり熟して木から落ちるのを待ちそれを大



事においしく食べた。そしてあまったトマトを売り資金を作り次は



別の野菜を作り、さらに、、、、、そして西の友達は東京でも有数



の野菜王になった。





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<<<過去作品からご紹介>>>

谷リエは今年で40歳になる。現在独身だ。独り身の理由は異性にもてないからではない。
自分で言うのもなんだが結構もてる方だ。

もちろんこれまで何度も付き合いを経験したが、独身の理由はこれまでビビっと
来るような運命の出会いを経験したことがなかったからだ。
リエは日本の会計事務所でプロジェクトマネジャーの仕事をしている。


会計でも監査などを特に得意としておりそういう時はチーム一丸となって
経理に当たるためプロジェクトマネジャーなる職種が必要なのだ。
しかし専門職ではないので、特に会計の経験がのびるわけではないが、


総合職として力を身につけたほうがいいと思いこの仕事についた。
まじめなリエの働きぶりに会計事務所の社長もぜひ良い引き合いをと考えていた。
いつも冗談でリエに「今度いい人を探してあげるよ」と声をかけてくる度に


こちらも冗談半分で「ぜひお願いします」と返していた。セクハラギリギリの
発言だが、大目にみていた。アメリカだったら訴えらているぞと心でいつも
思っていた。


あるとき、そんな社長のいつものセクハラ冗談が現実となった。
社長はいつものように朝から「リエ君、今度紹介したい人がいる」リエも
またいつもの通り、「ぜひお願いします」と答えたら、今度はいつもとは違う
会話が続いた。



社長「いや今日は本当に本当なんだ、すごいいい人なんだよ。ぜひ会って
みたらどうかな。先方には先日会社の懇親会で取った写真を見せたら、
君の写っている写真を見てぜひにということなんだな。」



社長はずぼらな人間なので、リエの性格とか好みとか全く考えずに紹介したり
するだろうなと断ろうとしたが断る理由もないので毎日しつこいので義理
で会っておこうと思いその紹介を受けることにした。



リエは義理とはいえなんだかんだいっても久々のお見合いにウキウキしていた。
髪をきれいにセットして流行のスタイルに取り入れたり、洋服はいつも
買わないようなものにしてみた。そして当日のお見合いの日を迎えた。


残念ながら相手の写真はなく社長からは銀座3丁目のやずや和菓子屋の
前に青いスポーツカーで青いスーツを着て現れるとだけ言われた。
相手は赤い服を目印に来るので、赤い服を着てほしいといわれた。
なんだかこんな待ち合わせの仕方も新鮮だった。そしてリエはドキドキ

待ち合わせの場所で待ち、青いスポーツカーをキョロキョロ探した。
こうして待っているとなんだかドラマのヒロインのような気がした。
時間ちょうどに、ブオーンとすごい勢いで青いフェラーリがやってきた。


まさかフェラーリじゃないわよね。。。と思った。
すると、中から和製デビットベッカムのようなドラマから出てきたような
素敵な男性が現れた。透き通ったような青いスーツを着ている。

こんな人がわたしのお見合いの相手だったらいいのに。。。。
でもまさかね。

そんな羨望の眼差しで見ていたら、そのフェラーリの男性がリエに声をかけてきた。
フェラーリの男性「やあ、ごめんね。待たせて。じゃ行こうか」

リエは後ろを振り返った。誰か別の人に声をかえているのか。しかし誰もいなかった。そしてそーと、人差し指を自分に向けて指した。するとなんとフェラーリの男性は、うなづいていた。

リエは心の中で「キャー」と叫んでいた。とうとうわたしに春が来た。
リエはこの状況に頭の中でなんども宙に飛び上がっていた。


フェラーリの男性は、助手席まで降りてきてくれてドアを開けてくれた。
リエはふと周りからの熱い!?羨望と嫉妬の視線を感じた。

それもそのはずだ、リエが逆の立場だったら同じ気持ちなっているのは間違い
ない。この熱い視線と素敵な男性の対応にリエは気を失いそうだった。

一旦息をすって落ち着いて足を運んで男性にリードされるがままドアの中
へ入った。車内はまるで飛行機のような機械を搭載していて、夢心地だった。
男性は勢いよくエンジンを吹かしてその場から走りだした。


フェラーリの男性は自分のことを名乗った
「ショーン上杉といいます。今日は社長から紹介をいただきましてお時間を
いただき有難うございます。」

ショーンさんっか、見た目もハーフっぽいからきっとお父さんかお母さんが
外国人なんだろうな。リエは勝手な妄想を膨らませていた。


リエは自分のことを自己紹介した。
「わたしはリエといいます。今日は社長に紹介いただいて本当にうれしいです。
社長の会社でプロジェクトマナジェーをしています。」

ショーン「そうですか。わたしもうれしいです。今日はすべてプランを
作ってきました。よろしいですか?」
ショーンは自信たっぷりで強引だった。

リエは今回はショーンにまかせることにした。
車はどうも六本木へ向かっているようだった。
まずは行き着けのオープンカフェへいきましょう。六本木のわき道に入った
ところなんですが、とても素敵でオーナーはもともとイギリスでカフェを経営
していた日本人なんです。そこのスコーンが手続きでとってもおいしんですよ。

オープンカフェでスコーンなんて素敵ですね。ショーンさんはイギリス
には行ったことがありますか?

はい、わたしは父がイギリス人なんです。母が日本人です。

えー、そうなんですか、それにしては流暢な日本語ですよね。

そうですね、母からずいぶん鍛えられたのと、日本には大学生のときから10年ぐらい住んでいます。

へえ、すごいですね。今は何をやっているんですか?」
今は会社経営をしています。イギリスのバッグメーカーと契約して日本で販売を
しています。今日のデートコースで会社も入っているので、後で紹介しますね。

それは嬉しいな。

フェラーリ、イギリス生まれ、会社の社長に、ジェントルマンときたかーーー
これは逆に穴を探すほうが難しいかも。。。。リエはショーンの完璧さに
圧倒されていた。

ショーンさんは失礼ですが、おいくつなんですか。
今年で40歳になります。

ではわたしと同じ年ですね。お若いのにすごいですね。
いいえ、わたしがここまでやってこれたのも人生に感謝してきたお陰です。

ショーンの返答すべて隙がなかった。

あっという間に時間が経ち、お目当てのオープンカフェに到着した。

ショーンは車を止めるとささっとなれた足取りで助手席にまわりこみ、
ドアを開けた。リエはリードされるままに降りて店内に案内してもらった。

そしてショーンは、店内の店員に挨拶してまわっていた。かなり親しくお
付き合いをしていていつも来ているのが分かった。

ショーンはリエを店内の人間に案内してまわり、席へついてエスプレッソと
スコーンを注文した。さすがショーンのお勧めだけあってスコーンは美味しかった。

リエとショーンはお互いにいろんな話をした。ショーンは時折ジョークを
交え中柄軽快に会話を続けた。

リエさんはご趣味はなんですか?
はい、趣味はテニスとブログですね

へえ、ブログを書かれるんですか、どういったブログですか?
そうですね、好きな猫の写真とかをのせて紹介したりしていています

リエさんはネコ派ですか。僕もネコが大好きなんですよ」
そうですね。わたしもイヌよりもネコですね。自分が自由な雰囲気が
好きだからかもしれません。

ショーンさんは日曜とかは何をしてるんですか?
そうですね、僕はテニス、ゴルフ、ダンス、後は日舞も趣味なんですよ

日舞とはめずらしいいですね。
はい、日本的な文化を勉強したいという思いが学生時代からあって、母の影響
で日舞を練習しています。これがなかなかおくが深いんですよ。

今度是非見せてください。ぜひ喜んで。あ、もうこんな時間だ、リエさんと
のお話がとても楽しくて時間を忘れていましたよ。

こうした普段だったら、、クサイと思う台詞もショーンにはとても様に
なっており違和感がなかった。

この後はわたしの会社によって少しご案内してから、夕食は青山のイタリアン
でと思っていますが、よろしいですか?

はい、よろしくお願いします。

ショーンはリエをフェラーリに乗せて再び走りはじめて、会社のある
六本木ヒルズへと向かった。六本木ヒルズの地下駐車場に車をとめた。
六本木ヒルズの30階に会社はあった。

会社名はPurityと書いてあった。Purityの意味は、純粋という意味らしい。
まさにこの会社名にショーンの目指すものを感じ取れた。常に純粋に物事を
追い求めていきこの場までたどりついたという信念が伺えた。

ショーンは会社のメンバーにリエを紹介して歩いた。こうした行動を
見るとショーンがあまり女性を連れてくることに慣れていないという感
じを得た。まわりの反応に照れくさそうに、そして嬉しそうにしている
ショーンからは女性の付き合いをこなしている感触はなかった。

そのギャップ感がまたリエを嬉しくさせていた。

会社の中へいくとなにやら、揉め事がおきていた。どうもお客様と
契約上の問題でもめているようだった。ショーンの会社Purityは米国
の親会社との連結決算のため日本の会社の経理状況を米国に説明しない
といけなかったのである。

最近米国の親会社が別の大手の米国会社に買収されたため、ショーンの
会社は日本の会計基準を説明しないといけなかった。当初は簡単に済む
と思っていたため、社長のショーンも今日は欠席してたのだが、どうも
まだてこずっていたところに
やってきたのである。

ショーンは事情を経理部長に聞いて、顔も険しくなっていた。米国の親会社
に対して今は経理上の問題として捉えられたくない。明日は投資家への説明会
があり、当然米国の親会社もカンファレンスコールで出席することになっている。

ショーンは、しばらく考え込んでいた。「リエさん、すみません、ちょっと
予想外の事態が起きていまして、ちょっとお待ちいただけますか?

もちろんです。」
すみません、すぐ戻りますので。

リエは待合室で待っていた。カンファレンスコールをしている部屋の
ドアが開いていて、たまたま隣で全部聞こえていた。リエは聞いた会話
を頭で整えていた。

そして、全部会話を聞き終えた後、にやりとしてショーンを探しにいった。

ショーンさん、ちょっといい?」
はい、すみません、お待たせして、まだ終わってないんですよ。

いや、別の件です。今、会計のことでもめていらっしゃいますね
はい、なんでわかったんですか?」
実は、わたしはCPAの免許を持っているんです

CPAとは---- Certified Public Accountantの略で米国の公認会計士の
こと特にCPAは他にはない監査の業務が許されており企業の財務諸表
が正しく作成されているのか訂正意見を述べることが出来ます。


ええ、CPAですって。リエさんが経理のお仕事をされているとは聞いてませんでした

あれ社長は自分の会社で働いていること言わなかったんだと、やはりちゃんと
自分のやっていくことの説明をしてなかったんだと思った。

リエは続けた
実は私はこの経理のプロなんです。米国法人の監査のスペシャリストなんです。

そ、そうなんですか。それはすごい。
ちょっとカンファレンスの会話が聞こえてしまい内容の感じだと私が
お手伝いできることだと思います。同じケースにぶつかった経験もありますし

ショーンはしばらく躊躇していた。
それも当然だろう。経理の情報を紹介とは言え、今日はじめてあった人に
簡単に話せる経営者なんていない。当然、リエも理解していたが、事情が
事情であり、どうしてもショーンを助けたいという気持ちがリエを常識から
はずれた行動をとらせたのである。

ショーンもその気持ちを分かったのか驚くほど素直にこのオファーを受けた。
リエさん、すみませんがお願いします。もちろんこのお礼は後で必ず。」

いいえ、お礼なんていいんです。後でお礼は食事をご馳走していただれば
それでうれしいです」
リエさん、有難う

そうして、リエは喧々諤々な会議室へ入っていった。薄暗い会議室の中には、
映像会議で相手側の米国サイドの面々が移っていた。

紹介します。こちらはCPAのリエさんです。わが社との臨時顧問
として会議に参加致します。
よろしくお願いします。私は過去には、米国大手の監査をした経験があります。
今回は臨時ですが、意見を述べさせていただきます。

リエは流暢な英語で話しをはじめた。
リエは現在の会計事務所に長く勤める間に10年ほど休職をしてアメリカ
でCPAの免許を取得し米国大手の会計事務所で勤務した経験があった。
そこでは凄腕としてならしていたのである。

10年のCPAの経験を経てリエは再び同じ会計事務所に帰任をしたのである。
リエは意見を述べる前に頭の中でもう一度状況を整理した。

今回一番問題となっているのは営業利益が前回提出したレポートより
少ないという点について米国側に異議があるのだと思います。

先ほど日本側の前回提出した会議資料を見せていただきましたが、あ
れは日本の会計基準に基づいたものであり、事業に関する以外の固定資産
の売却により営業外損益については、営業費用として計上されます。

よって、営業費用は損の金額だけマイナスとなり米国SEC基準に従うと
営業利利益が少なく見えますが、それはこういった基準の違いによるものです。

リエは米国会計基準と日本会計基準について熟知しており、その理解の差が
今回の議論の発端だと見抜いていた。そしてそれをずばり指摘をした。

ショーンは隣で聞いてすっかりと感心していた。

米国の経理サイドも納得した様子でリエの説明を聞いた。明瞭な説明だった。

この人はすごい。そしてそんなリエを心から知りたいという気持ちへ発展させていた。

米国の親会社側の経理もリエの説明を聞いて納得して会議は無事に終了した。
日本サイドのメンバーもリエに感謝をしていた。

そして何よりもショーンが救われた。明日の投資家会議もこれでうまくいくぞ。
ショーンは手ごたえを得た。

リエさん、すみません、こんな時間までお付き合いしてもらったからおなか
すいたでしょう。

いいえ、ショーンさんのお役に立ててうれしいですわ。
そして二人はフェラーリを飛ばしてレストランへ向かった。レストランはどう見ても
閉まっていたが、よほどショーンの力があるのか、お店は開けて待っていた。
「今日は実は貸し切りにしたのでどうぞ気兼ねなく食べていってください。」
なんと、この時間帯で貸し切りにするとは一体どのくらいのお金を使ったのか。
リエは驚いていた。

リエは家の近くまで送ってもらい家についたときはもう夜中の0時を回っていた。
今日は本当に夢心地のような日だった。ショーンさんとまた会いたい。
リエがこんな気持ちになるのは生まれてはじめてだった。

翌日になり、真っ先に社長に挨拶にいった。

社長、昨日は有難うございます。とても楽しかったです。素敵なお見合い
セッティング本当に感謝します。

は、、、?君、すっぽかしだんだろうに。先方から連絡きたぞ。待ち合わせ
場所にいないって。

ど、どういう意味ですか。私は確かにショーンさんと会いましたよ。
ショーンって誰だ?誰って、Purity 社のショーンさんですよ。

そんな人は知らんわ。俺が紹介しようと思ったのは、コンピューター
エンジニアの川西正太郎君だよ。

ショーンじゃなく、ショウタロウ?じゃ、人違い?
まったく、リエ君はおっちょこちょいじゃな。

リエは、待ち合わせ場所で他の人と勘違いをされてデートをしたのだった。

リエは動揺した。偶然とはいえ運命的な出会いをしてしまった。私は今後
どうすればいいのだろう。

で、どうする。正太郎さんとは今日は会えるんだろうね。
一度、約束してしまったので、いまさら白馬の王子様に会いましたなんて
いえないので、義理で会うことにした。

でもショーンさんにはなんて説明すればいいんだろう。でも一度で、
しかも偶然に会った人に私のお見合いの状況を説明しても迷惑なだけだろう。

そしてリエは社長に「はい」と答えた。

とにかく一度だけ会ってそれでおしまいにしてしまおうとリエは考えたのだ。

翌日、今度は間違えなくリエは正太郎さんと会った。
同じ場所で
すると青い文字で「レインボー商社」と書いてある社用車でやってきた。
どうやら営業なので社用車を個人で使用することも許可されており、デートで
ガソリン代金をうかすためによく利用しているとのこと。

先日はどうもすみませんでした。
いいえ、事情は社長から聞きました。気にしないでください。こうして
お会いしていただけるだけでも嬉しいです。

正太郎はショーンほどの好印象はないにしても、性格の良さそうな誠実な
男性だった。年としては50歳ぐらいだろうか。落ち着きもあり質素な
感じだった。印象もとても良かった。

正太郎はとても不器用でポケットに詰め込んだ、デートスポットメモ書きを
必死に読んでいったことのないレストランへ行こうとしていた。そして
電車で向かった先はなんと先日ショーンといったイタリアンだった。

このイタリアンは最近女性に人気があるみたいなんです。
リエは、どうかショーンに会わないようにと心から願っていた。

宇宙は否定形を知らない、こういう願いをかなえてしまうのだった。

そして、リエと川西が食事をしているときに、隣の席へショーンと連れがきた。
ショーンはすぐにリエの存在に気づいて、こちらへ歩いてきた。

リエは「しまった」と思ったが、ときはすでに遅し。思わず立ち上がり、
ショーン驚いた顔をして挨拶をしてきた。

失礼します。リエさん昨日はどうも有難うございました。どうもはじめまして
(川西へ向けて挨拶をした)そしてなんだか誤解で昨日は人間違えをして
しまったようで大変失礼しました。」

ショーンは隣に女性を連れていた。リエはちょっとショックだった。
やはり軽い男性だったのか。リエは川西と話をしていてもとなりのショーンが
気になった。ショーンもこちらをチラチラみている。

そしてしばらくしてリエはいたたまれなくなった。川西がそれに気づいたようで
そっとささやいた
リエさん、お店変えましょうか。私のよくいく居酒屋があるんですが、
そこで口直しでもしましょうよ。

リエは正太郎の気遣いがうれしかった。そしてショーンの席へ軽く挨拶をして
店を出て正太郎の行き着けの居酒屋へと向かった。
正太郎は、落ち込んだリエに必死にいろいろと話をかけてきた。不器用ながら
人の心に敏感なところにリエは川西のやさしさをみた。

正太郎の案内してくれた居酒屋はとても居心地の良いお店だった。まるで実家
にかえったような感覚の店だった。
とてもいいお店ですね。
でしょう。私は大好きなんですよ。ここの焼きおにぎりは最高ですよ。
じゃ、私はそれいただこうかしら。
二人はビール、焼き鳥、焼きおにぎりを食べて楽しく過ごした。
いやービール片手に焼き鳥とおにぎりを食べてると日本人で良かったなーと
思いますよね。くったくな笑顔を見せる正太郎にリエは安堵感を覚えた。

正太郎は沈黙を作らないように、必死にいろんな会話を続けた。
そして、最寄の駅で二人は別れた。

帰りの電車の中でリエは考え事をしていた。すると一通のメールが届いた。
ショーンからだった。
「リエさん、お話したいことがあります。明日会えますか。ショーン」
話ってなんだろう。もしかして、今日の女性のことなのかな。ちゃんと
会って自分の気持ちも確かめたほうがいいな。リエは会うことにした。

翌日ショーンとリエはショーンの会社の近くの喫茶店で会った。
ショーン「昨日は失礼しました。あの女性とは実は、リエさんと会う当日に会うはずだった。お見合いの相手なんです。銀座のやじや和菓子の前で待ち合わせをしていたんです。知り合いの社長の紹介で顔は知りませんでした。ただ当日は赤い服をしていると。」

リエは当日赤い服を着て同じ待ち合わせ指示を受けた。なんと偶然にも
二つの組が同じ方法で同じ場所で待ち合わせしていたとは。

そうですか、実は私も昨日フランス料理屋で会った人と同じ青い車と
青い服を目印に待ち合わせをしていたんです」

やはりそうでしたか。私も義理で昨日すっぽかしてしまい
社長から大目玉をくらいましたよ。なので昨日はああいう形でバッティング
にしてしまい本当に失礼しました。

リエはなんだか、ショーンがただの女たらしじゃないことにほっとしていた。

ショーン「私はリエさんと昨日運命的に出会うことが出来て本当に幸せでした。
あなたの仕事ぶり、そして冷静な対応。すべてすばらしいと思いました。
どうか私と結婚してください」

リエは唐突なショーンの言葉に予想していなく戸惑っていた。
リエは時間を下さいといってその場は別れた。

すると夜になり正太郎が会いたいというので家の近くの公園であったら、
リエさんのことがもっと知りたいと思いました。結婚を前提にお付き合
いをしてくださいと伝えた。

リエはなんと同じ日に二人の男性から告白されたのである。

翌日ショーンからのプロポーズを考えすぎたせいか、熱を出してしまった。
知恵熱というやつか。リエは会社を休んで家で静養することにした。
こんなときは独り身がつらい。ショーンから今日また会えますかとい
うメールが来たので、風邪を引いたので今日は無理と返事をした。

すると2時間後、家のドアベルがなって花屋からお届け物があった。
カードをみたらショーンから100本のバラのプレゼントだった。早く元気に
なってくださいというカードが添えてあった。ショーンらしい演出だった。

するとそこへ川西から電話があった。今日会えますかと聞かれたので、
風邪を引いているので、無理だと答えたら、2時間後に、ドアベルが鳴った。
そして川西が立っていた。リエは驚いて彼をみたら、なんと食材をたくさん
買い込み、ビタミンドリンクなども用意していた。

そしておかゆを作ってきたといってなべごと渡してきた。そのまま帰っていった。
リエは川西の不器用ながら体に気を使ったやさしさに感動していた。正太郎
にはショーンのような洗練されたセンスはない。今日のプレゼントがいい例だ。
ショーンがバラの花だったら、正太郎はおかゆとビタミンドリンク。

リエはどちらが心に響いたか考えてみた。

そんなときに親友のサチコが家にやってきた。それで今リエがおかれている
状況を相談してみた。するとサチコはきっぱりいいきった。

そりゃ、あんた答えは簡単よ。結婚っていうのは毎日顔をあわせるのよ。
そりゃ一番大事なのは、ほっとする関係でしょ。緊張感がある毎日なんて
いやよ。あきるわ。落ち着いた関係になれる人にしなさい。

サチコはきっぱり言い切った。
リエは、サチコの竹を割ったような意見に目が覚めた思いがした。
確かに誰がどう見ても白馬の王子様のような男性がいいに決まっている。
でもショーンさんと毎日一緒にいたら毎日フランス料理を食べるようなものだ。

正太郎さんとは毎日居酒屋のような落ち着いた家庭そしてつらいときには
ビタミンドリンクとおかゆを作ってくれるようなパートナーは幸せだ。

リエは川西を選んだ。自分でも意外なほど気持ちがスパッと決まった。
翌日ショーンさんにはお詫びの挨拶をして、そして川西と会って結婚
を前提に本格的にお付き合いをしたいと伝えた。

リエはふと考えた。
あの日偶然にも同じ待ち合わせの仕方をしてショーンと出会わなかったら、
正太郎の本当のよさは分からなかったかも知れない。
ショーンという今まで憧れの塊のような人間が現れたおかげで、
本当の大切な部分を知ることが出来たのだ。あの日の偶然がなければ、
きっと正太郎のよさは分からずにもっと良い条件の男性を探したに違いない。
憧れだけを追い続けたに違いない。

リエはこの偶然がくれた出会いに心から感謝をした。リエは正太郎との
結婚を決意した。川西と一緒にお互いの尊重しあいながら今後の人生を
歩んでいける幸せお実感していた。

人生にとって大切なのは華やかさではありません。
本当に心に大切なのはいかに自分の心が安がるか。毎日どきどきだとすぐに
飽きてしまいます。長いおつきあいが出来る方と一緒にいられるのが
本当の幸せですね。

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ブログご訪問していただいた方々へ、

この半年間諸事情により記事をアップすることが出来ませんでした。そんな中で日々ペタをいただき大変感激しております。特にパドマさん、あまつかじゅんこさん、Kickさんのお三方には感謝を申し上げます。日々のペタを見まして、感謝の気持ちをこめて、久々にアップ致します。

桜の並木道を昇りきったところの一番奥に二階建ての病院があった。
まだ小学生だった町田サヤカは10歳の春をその都内の病院の中で迎えていた。晴れた日になると、桜の花びらのシャワーを浴びるのが好きだった。春の陽気の中で、暖かい桜風に吹かれるとなぜだか自分が少し元気になれた気がしたからだ。
小さい頃から病院で育った、サヤカが唯一元気を感じられる季節だった。病気がちな自分をうらみもしたが、優しい両親を持てただけでも幸せなのだろうと考えるようになっていた。

施設のさらに奥には小さな庭がある、その庭がサヤカにとって唯一の遊び場だった。サヤカは幼年時から体が弱く、歩行が困難な状態にあり、3歳から車いすの生活を余儀なくされた。多くの時間は一人で車いすにのり、庭をぶらぶら散歩していた。5月に入ると雨が多くなり、桜はすでに散っていた。桜のなくなった木を見ながら寂しさを感じていたサヤカだが、 実はもうひとつの楽しみを見つけていた。それは庭の壁の奥にある大きなリンゴの花が咲くことだった。

その年の5月も再び、リンゴの花が咲き始めた。リンゴの花は淡いピンクで、1つの芽から5つの花を咲かせていた。ほんのり甘い香りがなんとも心に響き、恋心を予感させた。実はサヤカは恋というものがしたくことがないが、恋というものはこんな甘い香りがするものだろうと想像していたのだ。

サヤカはそんな時期に、ある人と出会った。出会ったというよりは、むしろ気づいたといほうがより適切だろう。そんな不思議な関係だった。なぜならそれは顔も見知らぬ人だったからだ。出会いは、ささいな偶然からはじまった。リンゴの花が満開になったときに散歩をしていたときのことだった。リンゴの咲く壁の向こう側に、ある1つのリンゴがぽとりと落ちた。

リンゴは病院側に根をはっていたが、木が大きく、枝が壁の向こうまで行き、たまにリンゴが壁の向こう側に落ちていくことがあったのだ。リンゴは壁の向こう側に落ちたが、数分してから、ポーンとまたこちらの壁側に飛んで戻ってきたのだ。サヤカは驚いた。重力に逆らってリンゴがまさか自分から飛んでくるわけもなく、おそらく誰かが投げたのだろうと考えた。

誰かが気をつかってリンゴを戻してくれたんだろうと最初は思っていたが、しばらくすると、またポーンと2つ目のリンゴが飛んできた。なんだか面白い。そう思ったサヤカはいたずら心が働き、そっと、投げてきたリンゴを拾い上げ、もう一度壁の向こう側に投げて見たくなった。早速落ちていたリンゴをポーンと壁の向こう側に投げてみると、数分しただろうか。

しばらくして、再び同じリンゴがまた戻ってきた。サヤカと壁の向こう側の人はそんな感じでリンゴを数個ほどお互い投げ合っていた。翌日も、翌々日も同じ時間に同じ数だけリンゴを投げ合った。相手が握ったリンゴの暖かみがなんだか心も明るくした。

5月の寒さに体調を崩して、サヤカが風邪でリンゴの木へ行けなかったことが1週間ほどあった。1週間してようやくリンゴの木へ行くことが出来た日のことだった。さすがに相手もリンゴを投げてこないのかなと思ったら、予想を裏切りリンゴがポーンとやってきた。木の下を見たら、1週間分だけ、きちんと同じ数だけたまっていた。サヤカはたまったリンゴを投げ返していくと、数分してから、またリンゴが戻ってきた。と思ったら、今度はリンゴが小さな袋にくくりつけてあった。

ふと、袋の中身をみたら、そこにはキャンディが数個入っていた。そしてメモが入っておりメッセージが書かれていた。
「病気したの?はやく元気になれよ。Toru」

「Toruさんか? 彼は男の子なのかな?」サヤカも負けじと、部屋へ戻って手紙を書いて、「メッセージありがとう。うれしかったよ。げんきになったよ。これはお礼だよ。Sayaka」
翌日チョコを一緒に袋の中にいれて戻した。すると、翌日、また袋のリンゴが飛んできた。
そうして二人はリンゴの木を通じて会話を始めたのだ。時にはリンゴにメッセージを掘ってみたりした。
2つの春を超して2人はますます親密になった。お互いに顔も見えない関係だったが、よけいにそれがなんだか秘密を共有しているみたいで楽しかった。
サヤカは、相手の人が男性で、同じぐらいの年齢だと考えるようになった。なぜなら書いてくる文章も、内容もとても共感出来るからだ。

そうして、サヤカがいつもの通りリンゴを投げてみると、赤いハンカチがついていた。
サヤカが、ハンカチを開いてみると、そこにメッセージが書いてあった。
「明日からリンゴは投げないで。僕は遠くへ行ってしまうから。ごめんねToru」

サヤカの心は引き裂かれる思いだった。12歳の春を迎えて唯一の楽しみが消えていく思いがしていたのだ。そしてその日はとても悲しい思いのまま夜を過ごしていた。
翌日になり、サヤカはものすごい後悔に襲われた。なぜ彼の名前を聞かなかったのだろう。どこへ行ったのかも分からないのに。相手は一体何歳で、どんな人だったのだろうか。それさえも分からない。あわてて施設の人に頼んで、向こうの壁に行ってもらったが、そこには誰もいなかった。なんと、壁の向こうはただの道だったのだ。
その人は道からいつも同じ時間にやってきて、リンゴを投げ返していたのだった。
相手のことを知るすべなどそこにはないことに絶望した。サヤカはこの日これが恋心なのだと知ったのだった。
時は経過をして、40年後になった。サヤカは車いすの生活のまま年をとっていた。そして都内から引っ越しをして、青森にいた。療養所にいて、独身で50歳を迎えていた。そして車いすで、5月に大きなリンゴの木の近くを散歩していた。なぜ青森へ来たのか。それには理由があった。サヤカはずっと10歳のときの見知らぬ男性とのリンゴの恋を忘れられないでいたのだった。

青森へいけばリンゴがたくさんある。そうすればあのときの思いをまた思い出せるかもしれない。そんな心を抱いていた。

施設の公園には大きなリンゴ並木があった。そこへ早速散歩をしていると、後ろから声をかけられた。
「こんにちは」すると、そこには中年の男性だった。
「どうも、お散歩ですか?」サヤカも返事をした。
「ええ、実は今日からこちらへお世話になることになりました。佐藤と言います。」
「佐藤さんですか。宜しくお願いします。」
その人は施設でこれから働くことになった50歳の男性だった。
サヤカはリンゴを見ながら、昔の思い出を振り返っていると、それを眺めていた男性が聞いてきた。
「リンゴに何か思入れがあるんでしょうか。とてもいとおしく見つけていたようですが」
するとサヤカが話をはじめた。
「このリンゴの木を見ると私にはある大切な思い出がよみがえります。」
「差し支えなければ、思い出を教えてもらえますか?」
「はい、いいですよ。それは10歳の頃でした。あれは都内の病院にあった壁の近くのリンゴの木の壁での出来事でした。」
「都内?リンゴの壁?」男性は不思議そうに聞き返した。
「はい、そうです。よく、隣の壁へリンゴを投げて遊んでいました。
すると、ある日、壁の向こうから男の子が投げ返してくれたんです。
「え?」
「私はあの子に恋心を抱いていたんです。しかし、お名前だけしか聞けずにいてお会いすることが出来ず後悔していました。あれからずっとあの子と過ごしたリンゴの会話は忘れられません。」
「あの、その子と最後に交わした会話は覚えていますか?」男性が聞いた。
「ええ、よく覚えてますよ。明日からリンゴを投げないで、僕は遠くへ行ってしまうから。ごめんねだと思います。」

二人は沈黙になった。男性は息をすーっとすってから話はじめた。
「私も同じ恋心をずっと、その子に抱いていたんです。そして、私はこのリンゴの木の下でまた再会することが出来ました。実は私がToruです。」
最初はサヤカは彼の言葉の意味が理解出来ずにいたが、ようやく気づいた。
「Toruさんなんですか?」
「はい、そうです。実は信じてもらえないかもしれませんが、私もあなたのことをずっと考えていて過ごしていました。だから青森にくればまたあのときのリンゴの思い出がよみがえると思って引っ越してきたんです。」

そしてサヤカは涙をこらえていた 。Toru は赤いハンカチをそっと差し出した。そうあの時と同じハンカチだった。その日はちょうど、2月14日のバレンタインの日だった。50歳のサヤカの誕生日でもあった。
二人の恋心は40年後になって、リンゴの木の下で再び奇跡の花を咲かせたのであった。


by 魔法のネコ。

Chains of hearts 心のバトン

今回は、過去に一番長い長編をアップしたいと思います。

魔法のネコ。

天使が地面から顔を出した。
雪の下に隠れている天使たちはは春になり、出番が来たと言う顔をしながら、
誇り高き表情を見せる。静かに咲いたと思ったら、散るときは騒々しく散りはじめる。
咲く時は格好が良いが、散るときはもっと格好が良い。花は静かに散るのが美しい
なんて言う人がいたけど、花はそんなことを考えたりはしないで散る。散り際が
騒々しくしたって、潔さが美しいのだ。


まだ桜が咲かない素肌が見える木を眺めながら私は渋谷駅に立っていた。
三月になっても春の花々はまだ顔を出さずに、まだ季節はずれの寒さが主役として
図々しく居座っている。寒さが漂う交差点の信号に私は佇んでいた。信号を待ち、
空を見上げると空から小さな雪が降ってきた。東京の三月に雪が降るのを見た記憶はない。

雪が降っているのに、町は春の装いを覆われているように見えた。穏やかな春の装いが、
雪を拒否しているようだった。
すでに信号は赤から青に変わり、人々は交差点を歩きはじめたが、私はその場から
動けなかった。雪をそのまま眺め続けていたのだ。雪はやがて降る量を少なくして、
最後は消えてなくなってしまった。私は目をつむって、雪の残像をしばらく惜しみ
ながら楽しんだ。私はこれが「なごり(名残)雪」かと口ずさむ。


「なごり雪」は私が昔からどうしてもカラオケで歌いたい曲だった。よく友人か
らリモコンを奪っては、いつもカラオケシステムへ慣れた手つきで暗唱したコードを
軽快に「ピッ、ピッ、ピットのピッで送信!」と無理やり打ち込んだものだ。
 この曲は、どんなイベントでも、最後の締めの曲としては、ぴったりだ。
歌というものは、その場その場にあったものがふさわしいと思うし、選曲を知らない人
ほど恥ずかし人はいない。パチンコでは軍艦マーチ、閉店には蛍の光、そして卒業にはなごり雪。

 ただ私はどんな場や雰囲気でも選曲を気にしない。雰囲気で曲を決めるのではなく、
選んだ曲が雰囲気を作るのだ。なごり雪だけは特別な空気を作るのだ。そう信じていた。
実際、聞いた後は決まって全員が「良い曲だね」と言ってくれて気持ちが和んだ。
やはり、どの世代も良い曲を分かってもらえる。
三月の卒業シーズンで盛り上がるカラオケ曲はだいたい決まっている。


やはり定番は学校で必ず歌う「仰げば尊し」や海援隊の「贈る言葉」だが、私の世代は
なんといっても尾崎豊の「卒業」だ。松任谷由実の「卒業写真」なんていうのも永遠の
定番だが、スマップの「世界にたった一つの花」の方がその場の雰囲気が盛り上がって良い。
そんな誰もが知ってる曲だったら格好ついたんだろうけど、私はイルカの歌声も好きだった。
あれが、「イルカ」だから売れたのだかもしれない。「クジラ」だったら、果たしてあそこまで売れたのだろうか。


まさか「なごり雪」を地球の反対側のバングラデシュの首都ダッカのホテルの大会場で
歌うことになるとは想像もしなかった。緊張のせいだろうか。声が震えていた。
情けないなと心で思う。たくさんの人の前で歌うということもあるだろうが、それ以上に私はこの歌への思いが歌を歌いながら一緒に海外ボランティアでバングラデシュのストリートチルドレンの支援活動をして一緒に過ごした先輩たちとの日々を思い出していた。あの頃はみんなで厳しい活動の中でも熱い思いをぶつけていた。


私は横目で目の前に並んだ大衆をみながら、舞台の上に立った。会場の静けさがさらに
緊張を大きくしていた。舞台はキラビやかな三色の白、赤、青の照明が光っていた。透き通ったガラスの下からは、眩しいばかりの様々な色が間接的に顔にあたっては、肌の色に反射して色とりどりの色彩を華っている。 


歌を歌い終えて周りがシーンとしていた。そっと顔をあげてみる。よく見ると全員が涙を
流しているのに気づいた。みんなじっと聞き入ってくれた。驚いたのは若い世代が彼らの
馴染みのない歌に歓喜していることだった。
今、春が来て君はきれいになった・・・この部分の歌詞をかみ締めているうちに声につまって
しまい、涙が自然にこみ上げてきた。

でも盛り上げるためにマスカラは振ってほしくなかったな。
 それからNGOの授与式は続いていた。こうした格式ある席は何度来ても慣れない。
数年ぶりに袖を通したスーツはまるで七五三の子供の気持ちのようだ。
そこで私たちのグループ「ハートオブバトン」の表彰に移った。スピーチの準備をしていた代表
が緊張した面持ちであわてて、胸ポケットのメモ用紙を探している。どうやらメモを忘れたらしい。


顔を真っ赤にしながら「えー、あのー」と、うろ覚えのスピーチの台詞をたどたどしくしゃべる
代表の姿を見ながら微笑ましく思った。
その後はそのまま懇親会となった。テーブルに置かれたハムと卵のクラブサンドイッチを手にすると、ちょうど横の二十代半ばぐらいの育ちの良さそうな女性から声をかけられた。
胸には、エイチアイブイ患者支援団体と書いてあった。


「あの歌良かったですね、なんていう曲ですか」
「なごり雪っていうんですよ」
「ああ、あのパンクの?」
「とても思い入れがあったんじゃないですか。聞いていて、こちらがジーンと来ちゃいましたよ。あれってもしかして、ボーイフレンドの好きな歌とかだったりして」
そんなことを言われて私は思わず赤面をしてしまった。
「いえいえ、大切な友達との思い出の歌ですよ」と言い直したら、肝心なところで噛んでしまい、さらに恥ずかしい思いをした。
・ ・・本当は心の中で思う。この曲を本当はあなたに直接聴かせたい。

 とうとうこの日を迎えてしまった。私はこの日を迎えたくはなかった。
用意したクラッカーを引っ張り合い、みんなでキャンプファイヤーをやって、焚き火を
組んで、円になり、井上陽水、奥田民生の「ありがとう」を肩を組んで歌った。

すっかり日も暮れた夜空に火の粉が舞う美しい光景に我を忘れて歌い続けた。
最後の一本締めをしたときに、胸がいっぱいになった、そう歌もまともに歌えないぐらいに。
このときのNGOの仲間は生涯忘れぬ仲間となった。私はこのメンバーが大好きだったんだ・・・
 最初に誘われたときにはストリートチルドレンの支援なんてイメージがわかなかった。この世にそんな子供たちがいること事態なんだかが、自分の中には幻想の出来事だったんだ。


実際に現場にいってみたら、そんな幻想など、あっというまに吹き飛んでしまった。
壊れたブロックの中で、山積みとなったゴミを路上で拾い、時には売春などによって
現金を得ていた。路上で寝泊りしている子供たちがバングラデシュでは目の前にいた。

民家はどれも掘ったて小屋だった。
 凡そ首都のダッカだけで三十三万人の子供が路上で寝ているなんて東京では想像も出来ない。国内全体だと五十万人はいるらしい。子供たちが路上で暮らす原因は、国が貧しいことだった。
家族で暮らしていても養えないので路上にほうりだされるなんて日常茶飯事の光景だった。路上には危険がたくさんあり、衛生上の問題で病気も蔓延していた。私はあのときの光景を一生忘れないだろう。


七月になり、朝、いつものように「おはよう」と言って私たちのグループが主催する
青空教室へいくと、七歳のルッコちゃんが「先生、
私、明日からバスでお菓子を売るの、だから学校にはこれないわ。」と言ってきた。
私はこれを聞いて驚いた。ルックちゃんはまだ七歳なのだ。そして足が不自由で松葉杖での生活を余儀なくされているのに家の家計を助けるために学校に行けないなんて。

彼女はでも人一倍頑張りやさんで、昼間は学校で英語を覚えて、将来はお父さんの家計を
助けたいといっていたのに。
 バスでのお菓子販売の仕事は一日だいたい百五十タカで、手元に残るのは七十タカといわれている。七十タカは日本円で百五円である。たったこれだけのお金のために少女は学校に通う時間がなくなるなんて。


 さらに驚がくした事実は、他の人から事情を聞いたところによるとルッコちゃんは家で
義理の母からいじめられて、お父さんが働いたお金はすべて義理の母がもっていってしまうそうだった。そしてお金が足りないので、ルッコちゃんにも仕事をさせようとしたのだ。
 私はルッコちゃんのことがどうしても諦めきれずに、ルッコちゃんの家に出かけて義理
のお母さんに会うことにした。最初は訪問に驚かれたが、ちょうど買い物から帰ってきていた。


私は熱心に気持ちを説明して、午前はバスのお菓子売り、午後は学校と両立してもらうことになった
家の奥のカーテンから隙間があいていて、光がこぼれていた。ルッコちゃんが奥で話を聞いているようだった。ルッコちゃんはこの行動にとても喜んで目を輝かせて手を握りしめ私に感謝してくれた。彼女はそれから懸命に努力して、今では、技術学校に通えるまでになった。今は染物の勉強をして、今度はその技術を活かした仕事につきたいと目標を持っている。


彼女の幸せそうな顔は一生忘れられない。
 一年間いろいろあったけど、人を思いやる「心」あたたくて強い「力」それこそが重要なことで、「心のバトン」をつないでいくことが人類の生活を支える大切な宝なんだと気づいた。
 すてきな一年をありがとう。体調を崩して辛い時期もあったけど、子供たちの笑顔のお陰で続けることが出来た。 


この一年のことを振り返るとなかなか今も寝付けない。東京に戻りあの日のことを思い返すと
本当に現実だったのか分からなくなるほどだ。もう明日でバングラデシュでの生活が終わるの
かと思うと、やっぱり切なくなる。
 寝返りを打つたびに胸に痛み頭痛が走る。案の定、じょじょに酷くなり仕方なくベッドから出て、薬を飲む。先輩に電話をしたいけど、話すともっと酷くなるので、気を紛らすためブログをアップする。明日は重要な最終日だから。ちゃんとみんなとお別れをしたい。


 一年間を休まず通して頑張れたのは本当にこのNGOに参加にして良かったと思った。
体は綱渡りだった。一度は熱帯性マラリアにかかり生死をさ迷うこともあったが、何とか乗り切った。 考えてみれば先輩と再会して今のようになれたのも、この一年間があってのことだし、順調ではなかったけど充実した時間を過ごすことが出来た。私はこの一年でたくさんの宝物を手に入れたよ。寂しいけど私の心の中には確実に次につながるものがある。


 明日は先輩の誕生日だ。一緒に時間を過ごすように今から体調を整えておく。
ダッカ市の繁華街で買った腕時計をプレゼントしようと思ってる。後は手作りケーキを焼こうと思ってるよ。一度テストで作ってあげたら、失敗したのに、おいしいと言って食べてくれたね。
砂糖と塩の分量を間違えたのに。。。お料理は先輩の大好きな鳥のから揚げとポテトサラダを作るね。 あ、そうだ、ちょっと良いこと考えた。



先輩への手紙を添えようと思う。自分の気持ちを文章に残してそれをプレゼントと一緒に渡すなんて、とってもいい考えだ。今日は夜なべをしてお料理をしなきゃ。
現在の話、あれから一年後の出来事。
男性は部屋に飾った写真を団体写真を考え深げに見ていた。一年前の春のNGOの表彰の
パーティの写真だ。あの年ハートオブバトンは立ち上げ初年度に前代未門の額の寄付金を
集めバングラデシュの医療貢献で表彰された。


 洋服はかなり着込んだ古着を着こなし、写真の前で立ち止まっている。冷房が効かない
暑い部屋の中でも平気そうな顔をしている。年齢にしてはおよそ二十代前半だろうか。
しかし雰囲気はおちついていてバングラデシュで揉まれてきたのだろう。
日焼けした浅黒い顔が普通の若者とはどこか違う様子を表していた。

「美紀子の知り合い?」
隣にいた聡子が私に訊いてきた。
私は顔を横へ振った。


 私たちは彼の後ろを通りそのままNGOの事務室へ向かっていた。
右手にはスーツケースを持ち、肩からスポーツバッグをかけていた。明日からいよいよ初の
NGO活動のためバングラデシュへ渡る前に忘れ物を取りにきたのであった。聡子は高校の同級生で明日はお見送りをしてくれることになっている。私にとっては今回が初の現地での活動となるということで、鞄の中身は、ほとんどお菓子とジュースとなってしまった。


 今日はしばらく日本を離れるのでカラオケでも行こうと地元の友達と約束をしていた。
しばらくの間、友達と一緒に歌うことも出来なくなるのでそこでお別れに大好きな鈴木あみ
の「BE TOGETHER」を歌って、皆で目をうるうるさせていた。海外派遣へ旅立ち、そして再びまた会おうという再会を誓う歌としては、ぴったしの曲だった。


 会がお開きになってから、忘れ物があるので、一旦事務所に立ち寄り、
その後、聡子が私の家でお泊りをしようというのがプランだった。忘れ物を取るために立ち
寄った際にそこで、この男性を見かけたのだ。今日はこれから食材を持ち込んで自慢のカレーライスを作る予定だった。カレーライスといっても、ただのカレーじゃない。本格インド風のスパイスを独自に作った。


 本格カレーを作るのも今日で六回目になる。すっかりインド人なみのスパイスの配合の知識となりつつある。ただし、今日は日本からしばらく離れるため、和風なカレーを作るために醤油を隠し味にしようと考えていた。
しかし、彼を見かけてからそんな考えは吹き飛んでいた。私は彼の横顔に見とれていた。


彼はただの若者ではなかった。雰囲気もいいし、目は一重で、髪の毛は短く清潔に刈り込まれており、頬はこけており、無精ひげがまた逞しさを演出していた。体格も良いが、決して図体だけが大きいわけでなく、足は筋肉がほどよくついてかまるでカモシカの細いような足をしていた。あのメジャーリーガーのイチローのような雰囲気があった。


 やがて、その男の人は、私たちのほうへ一瞬だけ顔を動かした。
私たちを見たというよりは、視線に気づいたという感じで、さわやかな笑顔を見せた。
私はその一瞬の笑顔に魅了されてしまった。彼はそのまま程よく使い込まれたリュックを肩に背負って歩き去っていった。
ドアをあけて外へ出る瞬間、彼は何かを思い描くかのように空を仰いで、星を眺めていた。
そしてやがて視界から消えていった。


私はその男の人が去ってから、彼が眺めていた写真を見にいってみた。
 そこには祝賀会で笑顔を見せる初代ハートオブバトンのメンバーの面々が写っていた。
するとその中に、先程の彼の顔を見かけた。
 横には、魅力的な笑顔を見せる女性がいた。小柄で健康的な顔つきをしていた彼女は明るい雰囲気を見せていた。


 「あれ、この女性って彼の彼女なのかな」
「どれ?」
「ほら、この横に写っている人」
「いいや、こっちかもね」
聡子が指さした女性は私が考えた女性ではなく、反対側にいた人だった。


先程の女性とはまったく正反対で派手な感じの人だった。バングラデシュの支援とは
無縁のような井出たちだった。グッチの服をしきており、お前の高い服を売って支援金にしろと言いたくなるような幹事だった。

 しかもあろうことか、よく見ると顔を彼の肩につけている。
「えーやだ、この人じゃないよ」
私が顔をしかめてあからさまに嫌な顔をすると、聡子が声をあげて喜んだ。
「いや、絶対間違いないって」
「えー」
どっちが彼女かで彼の印象がずいぶん変わるじゃない。健康的な彼女だったら彼も見る目があるけど、派手な女性じゃ、ただのキャバクラ好きな男じゃない。


 まあでも、残念ながら大抵の男は派手な女性が好きであるのは現実だ。
そう思った瞬間になんだか、がっかりして気持ちも萎えてしまった。
実際のところはどうなのだろうか。私は気になって仕方がなかった。
       
「ああ、カレーおいしかった。やっぱり何か美紀子のカレーにはどこか和風な懐かしさを
感じるわね。何が隠し味なの?」
真っ白いお皿を全部平らげてピカピカにしてしまって言い放った。
「ルーがいいね」テレビを見ながら聡子が言った。
「え、ルーってあの大芝の?」


「違うって。ルーはあのカレーの塊のルーよ。あれをカレー粉と一緒に一塊だけ入れるの」
「分かった。美紀子のカレーってなんかカレーどんぶりのカレーみたいだよ」
「なんか、カレーライスじゃなくて、ライスカレーって感じ。分かる」
「順番が逆の意味はあるの?」


「なんかカレーが先に来ると、洒落た感じだし、ライスカレーっていと食堂の油たっぷりのギトギトカレーって感じじゃない?」
「なんとなく言いたいことは分かるけど」
「それって褒めてるんだよね」
「もちろん、ははは」


どうも聡子は私をからかってうのが嬉しいらしい。
「でもさ、日本をしばらく離れるって時にカレーっていうのも微妙だよね。」
「あのさ、褒めてるんじゃなかったけって」
「あ、あ」ちょっと雰囲気が悪くなったことに気づいたのか、肩を叩きながら笑った。
「本当に聡子は変わらないね。憎めないというか」


「憎まれっ子世にはばかるって言うじゃない」
「そうね、だから私は世間認定ってことで」
「っていうか意味違うんだけどね」
「これから、バングラ行って揉まれて帰ってきてほしいわ。本当
 美紀は影響受けやすいからすごい変わりそうだわ。」


「そうね、私は行動力ある人になれるといいわ」
「それだったらまずはガンジス河の中へ入るのを目標とするといいわ」
「それって、どんな目標なの?」
「ガンジス河に入ると罪が償われるっていうじゃない」
「私は罪犯していないし」


「この世に生きていて罪を犯したことがないなんて言葉にすることが自体が罪だ。」
「なんか哲学的だね、その表現」
二人でゲラゲラ笑い、あーと息をついた。

「でもさ、美紀子は人生を変わるぐらいな経験をするためにバングラデシュにいくんだよね」
「そうだね」
「まあ、どこへいっても二人の関係は変わらないよ、このまま」
「BE TOGETHERだね」


「そういえば、美紀子はストリートチルドレンへの支援に参加して学校を設立
したいという夢があったよね、せっかく医学部卒業していい病院に勤務していたのに、
もったいないと思わない?」
「もちろん」私はポンと誇らしげに胸を叩いた。


「美紀子は影響されやすいからそれも誰かの話を聞いたからでしょ」
「はい、はい。その通り私は影響されやすいですよ」私はいじけてみせた。
「どうせ私はテレビのドキュメントで見たバングラデッシュの病院づくりに
人生をかける若者って特集を見て海外へ出かけることを決めたわよ。」


 それまでバングラデシュやNGOというとただ漠然としたイメージしかないが、
その番組は私にとって衝撃的だった。年齢も自分と変わらない若者たちが人生をかけて
人助けをしているということが非現実的なことだった。それに比べて順調に医学部に進学して純粋に医学の道を志たのに、私は最新の機械、開発された薬だけに頼り、本来の目的を失っていた。


 日本人にとって、病院なんて当たり前の場所でしかないのに、それさえない国が
あるなんて信じられなかった。人生とは何ゆえ、こんなにも不平等なのか。憤りを感じた。
「私はただ傍観者にはなりたくない」その思いがNGOへの参加をさせた。
「私は病院を作る」そのとき目標を強く決心をした。
すると突如記憶が蘇ってきた。


医学部に入学したての頃は医療の仕事に夢なんて持てないと思った。
大学は中学や高校とは違い和気あいあいと過ごせた。
医学部の大学生は無気力で夢を持てていなかった。ただ金持ちだから病院を継ぐとか、
収入が多いから医者になるとか、そんな理由だけしか持っていなかった。
私も単純に医者になれば人生にやりがいが生まれるという理由に過ぎなかった。


何ヶ月経つうちに現実が見えてきて夜遊びをはじめたり、サークル活動に没頭したり、
思い思いの生活を過ごすようになった。趣味の壁が徐々に浮き彫りになり、友人の輪が
少しづつ形を変え、そして私は自然な流れで高校からの同窓の聡子とだけ過ごすようになった。


そんな時に、あるテレビ番組でストリートチルドレンの支援をしている若者を見たのだ。
それを見て、私は人生の目標を決めたのだ。
聡子は将来をきちんと考えていることが分かり、私との考えの差もきちんと把握して指摘
もしてくれる。
「私は頑張るよ」ふと強く気持ちを声に出してみた。何を頑張るのか分からぬまま、
だだ思いだけが先走った。



聡子は天井を見ながら、「まあ、美紀子も世の中のリアルな世界を見るのは大切な
ことだと思うよ」とポツリと言った。
ふとあの番組が頭の中で鮮明によぎる。
似たような言葉があの番組の中でも話された記憶がある。
そう、主役のエネルギッシュな若い女性が「私は頑張るよ」そんな言葉をひとりごとのようにカメラに呟いた。何気ない一言だが、力強いあの言葉がとても印象的だった。


特に注目したのは、あの場面だ。
テレビ画面の彼女は何度も資金援助を断れても日本の企業を訪問し続けた。中には罵倒して
偽善者だと罵られ、仕事の邪魔だと追い出された。
土下座を玄関先でさせられて、ようやく話を聞いてやるという態度の企業の社長さんがいた。
でもテレビの彼女は「私は頑張るよ」カメラにポツリと残して、そのまま文句も言わず土下座を
三日間遣り通したのだ。


その信念に対して社長さんはさすがに参り、資金援助を決定した。
なんと初の一億円の大型援助を獲得したのだった。
「あ、あの男の人。。。もしかしてあの番組に出てきた人だ。そして写真の女性は
テレビの主役だった病院を作った女性だ。」
外では雨が降り始めていた。
その時、テレビで見た時もちょうど外で雨が降っていた。


聡子も家に一緒にいて二人で夕飯を食べた。ありあわせの食材で作ったカレーは思い
のほか?おいしく聡子からの評価は良かった。
そして食べ終わり、午後に紅茶を飲んでいるときにテレビを見たのだった。
テレビを見終わってから私は聡子に突如、決意を告白をした。
「私、九月から一年間ぐらいバングラ行くことにしたよ」
「バングラって、まさか番蔵じゃないわよね?」


「なんで蔵なの?」
もう、超ド級のサプライズ。たった一つのテレビでこんな重要なことを即、決めるなんて、
ちょっとおかしくない?と思われることも考えずに私は彼女に話を一方的にしていた。
確かに以前から将来は漠然と海外に出かけたいと考えていた。小さいころは青年海外協力隊
に憧れていたのだ。人助けをしたいと思い、医学の道を進んだ。
「なぜ海外なの?」と聡子は聞いた。


たぶん私は以前からずっと私の知らないところで人生に変化を与えたいと考えていた
のかもしれない。ただきっかけがなかっただけなのだ。だから密かな思いが急にあふれ
出たのかもしれない。
親友の聡子はこれまで安全第一な人生を歩んできていたので、冒険ということには、
こと縁がなかった。唯一冒険という冒険をしたのは高校生の時にやった友人とのキャンプぐらいだ。宿を予約しないで山へいくなんていうのは聡子にとって「とんでもない冒険」だったのだ。


 だから私が海外に計画もなしに行くなんて想像も出来なかったはずだ。知っている
場所で知っている人と一緒にいるのが何より安全だという気持ちが強いからだ。
 しかしこれまで私は冒険しないため、大きな喜びを得ることもなく、リスクがない中
には何の驚きも新鮮味もなかった。安全というものに対して人生の疑問を持ちつつある
ときに、あのテレビ番組を見たから衝撃的だった。


 いったい自分はこれまで何をやってきたのだろうか、あの番組で精力的に人のために
尽くす女性を見てそんなことを考えてしまったのだ。私の人生本当にこのままで良いのか漠然とした疑問がはっきりとした形で自分に襲ってきたのである。
 人生のすべての疑問が一つの冒険で解決出来るとは思わないが、たぶん、
海の向こうにはきっと自分が想像できない発見があるのだろうとは思う。

予想出来ないので当然想像も出来ない、つまり新しい何か驚きを期待したい。知ってる
いつもと同じ何かではなく、知らない自分に驚きを発見したいのだ。
 とにかく義務のような一日から解放され、着慣れた服をぬぎすて、思いのままの服を
着てみたいのだ。新しいことに挑戦するのは不安だ。しかし過ぎ去ってしまえば後で
たいしたことないと思える日がきっと来るだろう。 


 そうこうしているうちにもう頭の中でに勝手に話しの展開をどんどん前へ進めていた。
私ははもう本気モードに入っていた。一旦このモードへ入るともう後戻りは出来ない
ことは私は知っていた。そして私はこの本気モードへ本格的に巻き込まれていたのである。


 親友の聡子はとてもたくましい。普段はノーテンキな性格だが、こと現実的な話になると予想以上の力を発揮する。私はそんな聡子に頼ってしまうのである。


 彼女の家は建築屋さんで、お父さんはいわば家を建てるときの棟梁である。
そんな父親の血をおもいっきし引いた聡子はテキパキと段取りよろしく計画的に物事
を決めてしまい、行動をするのである。彼女も、小学校の頃からいつも学級委員長をやっていた。新しいイベントを立ち上げるのが得意でいつも友達や先生から頼られていた。


 聡子には秘めた上昇志向もある。決して将来に保守的ではない。冒険心のない私には
そんなパワーを持つ聡子は憧れの存在だった。
 私には上昇志向などまるっきりなく、アルバイトをした時だっていつも下っ端の仕事
ばかりしていた。新しいことや、人との問題に巻き込まれると予想出来ない問題が出てきて対処できなくなるのっが嫌で、知ってる仕事の知ってる問題にだけ集中したかったのだ。


まあ、アルバイトとNGOとの仕事と比べることは出来ない。NGOの仕事は、
仕事の内容そのものが冒険だ。ただ勉強が出来て、そのまま普通に将来性が良いから
といって医学部を目指して、医者になった私には想像も出来ない仕事だ。
「後戻りなしだよ」
聡子はじろっと、私は睨み言い足した。冗談なのか本気なのか分からないが、
威圧感ある聡子の睨みに私は足を竦めた。


「私は頑張るよ」と言うと、「現実はつらいと思うけど、勇気は買うわ。私はいつも
応援してるからね」と返された。
そんな素っ気無い言葉がなぜかくすぐったくて、私は心の中でちょっぴり感動していた。
「応援」という言葉を言われると心強くなるのは私だけだろうか。重い不安の荷物を
背負ってくれる友達というのは、どうしてこんなに暖かいものなのだろう。


 やがて、聡子がベッドで横になったまま口ずさんだ。

「出会いのその日から 街のよどみ消えて
 星たちに輝き還り 僕に力が 君のお陰さ
 互いの情熱と 夢をぶつけあって・・・

「歓送の歌」だ。私の頭の中に張り付いた先程のテレビ番組のBGMで流れていた曲だ。
さっきの男の人に出会ったときに、この曲を思い出したんだ。この歌が頭の中で
リフレインしていた。
「僕に力が、君のお陰さ」
歌って不思議だよね。いつも違う気持ちで聞ける。私が将来この歌を歌うときは

どんな気持ちで歌うのだろうか?このフレーズで、私はいつもウルウル来てしまう。
そして心の中で「君のお陰さ」とつぶやくのだ。
「あの曲は絶対アイポッドに入れていく」
「当然」聡子は即答した。


 あの日海外NGOへの冒険を告白した夜から私は眠れない日々を過ごしていた。
「まだ先の話だから」と冷静を口にしていたが、私は遠足を待つ小学生の気持ちだった。
カレンダーには×を日々つけてバングラデシュへ旅立つ日のことを考えつづけた。  
私は計画的に歓送の歌だけでなく、一年分の音楽をダウンロードして準備を整えていた。


そんなときに都内にあるNGO室のパソコンを使っているとあるお気に入りのサイトに
間違えてクリックした。そこには「ブルーハーツ」と書いてあった。
偶然、私の好きなあのロック伝説のバンドの曲かなと思い、アクセスをしてみると、
リンダリンダの曲が流れる代わりに、誰か個人のブログだった。
なんか一般公開はされていない秘密のブログのようだ。書いた人はどうやら
山本リンダじゃなさそうだ。。。。一体誰なのだろう。


何だか妙に惹かれた。  後ろから誰かが来た音がしたのであわててブログを閉じた。
トイレから戻ってきた聡子だった。ブログのことを聞いた聡子が「何それ?」と
興味深いようで質問してきた。
「たぶん、誰かの個人のブログみたい」
「へえ」 「面白いね。バングラデシュの秘密のNGO活動記録をを残したのかもね」
「もうちょっと見てみたら?」
「そうだね、また今度ね」  それから月が変わり、九月になった。


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その女性は顔をうつむかせて歩いていた。

つばの大きめな黒い帽子から見えたのは

腫れた目とあざ。

そしてどこか遠くを見つめる目だった。

見覚えがある目、それは過去の私と同じだからだ。

自分もかつて酒乱の夫から殴られてそんな顔になっていた。

その女性は、そのまま目の前の家に入る。

玄関の前で数分間躊躇をしてから、大きな息をはいて

入っていった。

きっと彼女は家に入ること事態、勇気が必要なのだろう。

翔子は彼女に声をかけようと迷ったが、結局声をかける

ことは出来なかった。

それは彼女自身もまだ男性不審だったからだ。

過去に2度結婚したが、二人とも暴力をふるった。

今度こそはと思いながらも過去と同じ過ちを繰り返す

恐怖感を感じていた。



現在は派遣社員として印刷会社の事務をしている。同じ職場

の営業マンから先日プロポーズを受けたのだが、

過去の過ちの恐怖からぬけきれず断ったのだった。

彼はまじめで明るい性格だったが、自分の見る目のなさに

自信が持てなかった。


過去の2回とも職場結婚でやはり最初はまじめで明るかったが

やがて二人とも性格が少しづつ明らかになってきた。

最初の夫はペンキ屋を営んでおり、客からも評判の良い旦那だった。

しかし、近くに大型店舗のホームセンターが来てからというものの

仕事がめっきり減ってしまい、お酒を飲みうさをはらす日々が

続いた。実は出会った頃にお酒など飲めない性格だったのに、

先輩からすすめられたため彼は人生を変えてしまったのだ。

酒癖の悪い旦那は、酒を飲むと今まで話したこともない口調で

話はじめるのだった。

彼女も最初はなんとかしようと止めていたが、そのうち口が

悪いだけでなく暴力もふるうようになった。先日は

掃除の仕方が悪いといって数十分も殴りつづけた。


友人に相談をしたら、知り合いの弁護士を紹介されて、

家庭裁判を起こしてなんとか勝って、子供の親権と養育費も

得られた。


それから三年後に新しい職場で二人目の旦那と出会った。

しかし、その旦那も同じような性格で、やはり結婚後に

ギャンブル狂だということが分かった。

そしてやはり暴力をふるった。さらに、娘にも暴力を振るうように

なり、また裁判を起こして離婚をした。


二度も起きてしまったため、彼女は自分を責めた。

自分に見る目がないからこんなことが起きてしまうんだ。

自分のせいなんだ。

そして、出会ったのが、今のプロポーズをしてくれた彼だった。

今度は大丈夫だと思いながらも、やはり過去の呪縛から

ぬけられない。

しかし、何度断っても彼はあきらめてくれない。

そして徐々に心が彼へ傾いてきているのを確認してきた。

一体どうすれば良いのだろうか。

こんなとき、きっと父親がいたら、適切なアドバイスをしてくれた

に違いないと心で思っていた。


父親は翔子が高校生になった頃にガンで亡くなった。

父親はとてもたくましく建設業をしており、汗だくで帰ると

いつも彼女を肩車して自転車で近くの丘に連れていってくれた。

作業着の後ろにつかまり、父の汗の匂いがなんだか

頼もしく感じられていた。


夕暮れどきの仕事の後に、丘から段ボールを持って二人で滑った

記憶をいつも大切にしていた。そんなやさしく強い父親は

見る目も確かだったが、こんなときに相談出来たらどんなに

心強いだろうと思っていた。

そんな彼女の思いはやがて別の形で現れることと

なる。


場所は変わって、それはある満月の夜のこと。

中年の男性はその晩、悪夢に悩まされていた。

「うわー」と大声をあげて目を覚ます。

汗だくになり、隣で寝ていた妻も思わず声をかける。

「またあの夢?」

「ああ、まただ。」

「一体どうしてなのかしら、そんなに仲が良いわけでもないのにね」

「まったく。」

この中年の男性は、翔子の叔父だった。

その叔父は、毎晩、ある男性が出てくる夢に悩まされていた。

それは、翔子の父親だった。

そう、翔子が高校生の時に亡くなった父親が毎晩叔父のまくら

に出てくるのだった。

あまりに夢がリアルでひどいので、とうとう精神科医を

訪問することにした。

「先生、助けてください。とにかく参っています。」

「そうですか、取り急ぎ睡眠剤を出しますが、お話を

伺って、一度、そのまくらもとに出てくる方のお嬢さんとお会いした

ほうが良いと思いますね」

「というと、先生はやつの言葉を信じるわけですか?」

「いや、信じる信じないというわけではなく、ことの真相を

確認することがあなたにとって一番の解決になるかもしれないと思います」

「分かりました。じゃ、とにかく行ってみます。」

そして、翔子の叔父は翔子を訊ねた。

叔父と翔子とは父が死んでからまったく会っていない。

二人は翔子の会社の近くの喫茶店で待ち合わせをした。

「いや、久しぶりだね」

「どうも、お久しぶりです」

「実はさ、今、ちょっと変わった出来事が起きてさ」

「なんでしょう?」翔子は叔父の様子に異変を感じていた。

「なんというか、信じてもらえないかもしれないけど、

実は俺のまくらもとに君の親父がでてくるんだよ。」

「え、お父さんが?」

「そうなんだ。それで、毎晩毎晩同じことを繰り返して

言うんだが、俺は困ってね。一度翔子ちゃんに伝えておこうかと

思ってさ。

「一体なにをいってるんですか?」

「娘を助けてくれっていうんだ。」

「どういう意味ですか?」

「それがさ、娘とつきあってる彼と絶対に結婚しろ。

過去の結婚なんか関係ない。心配するな。彼は大丈夫だ。

お前の娘とお前を絶対に幸せにしてくれると。」

翔子は愕然とする同時に、涙を流してこの奇跡に感激を

していた。

高校生のときに亡くなった父が、ここに来てどうしても伝えて

くれようとおじさんを通して背中を後押ししくれるなんて。

この不思議な奇跡に翔子は感激していた。


「分かった。お父さん、ありがとう。私は幸せになります。」

そうして、翔子は彼のプロポーズを受けることに

した。


翌日、以前に道ですれ違った自分の同じ境遇の女性の家まで

来ていた。そして、彼女は気持ちを固めた。

「あの人と話をしよう。そしてあの人の気持ちを受け取めて

あげよう。そして一緒に泣いてあげよう。勇気のない

自分はもういない。この家のベルを鳴らして、私は

勇気の扉をあけよう。


私はひとりじゃない。そしてあなたもひとりじゃない。

そう言ってあげたい。

私が父からもらった勇気をわけてあげたい。








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