萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

文月三十日、蔓薔薇―Innocent space

2021-07-31 00:01:03 | 創作短篇:日花物語
慕わしい夏に、
7月30日誕生花ツルバラ蔓薔薇


文月三十日、蔓薔薇―Innocent space

花より高く、樹上ひるがえす君の色。

「おーいっ、はーやーくーっ」

澄んだ声きらきら僕を呼ぶ。
朗らかに透って響く梢、木洩陽に笑った。

「すーぐいーくよっ」

追いかける掌ごつり、樹皮かたく肌ふれる。
裸足ふれる枝つよく頼もしい、踏みしめ辿って淡い朱きらめく。

「きをつけてねーっ」

風はじける声、瞬く葉擦れに朱色あざやぐ。
枝つかんで視界ひとつ高くなる、進む緑の飛沫に朱色まぶしい。

「よっ、」

声ひとつ最後の枝、体もちあげ幹を跨ぐ。
息ふっと香かすめて、あまい渋い緑陰に朱色やわらかなシャツ咲いた。

「おかえりっ、早かったね、」

おかえり、だなんて木の上で?
なんだか可笑しくて、けれど馴染む空気に笑った。

「ただいま、電車ひとつ早いの乗れたんだ、」
「じゃあ、駅から歩いてきた?」

瞳ひとつ瞬いて訊いてくれる。
その睫ふれる翳きれいで、見つめながら肯いた。

「歩いたよ、バス無かったからさ、」
「暑いなか大変だったでしょ?おつかれさま、」

ねぎらい微笑んでくれる瞳、樹影きらめいて映る。
変わらない眼ざし和やかで、ただ嬉しくて笑った。

「ありがと、ここは涼しいよな。眺めもいいしさ、」
「特等席だからね、」

澄んだ声かろやかに風が梳く、ひるがえる涼さらりシャツ透る。
風光る樹上の夏、昔なじみの木洩陽に瞳が笑った。

「ここに一緒に座ると夏休みってなるよ、まず山の畑に行く?」

木蔭ゆらめく瞳、光あざやかに澄んで燈る。
この眼ざし逢いたくて夏、また座る風の席。
蔓薔薇:ツルバラ、花言葉「爽やか、無邪気、いつも美しい、愛」


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