『英語職人』時吉秀弥の英文法 最終回答!

『英語職人』時吉秀弥の英文法 最終回答!

本当にわかる英語とは?!英語、英文法、その他の外国語の学習、言語学などについていろいろ語ります。

今回の主役は「実行犯」を意味する英単語、perpetratorです。

 

以下、本日2023年9月19日のCNNの記事から抜粋

 

“Over the past number of weeks, Canadian security agencies have been actively pursuing credible allegations of a potential link between agents of the government of India and the killing of a Canadian citizen Hardeep Singh Nijjar,” Trudeau said in parliament on Monday, adding his government would take all steps necessary “to hold perpetrators of this murder to account.”

 

(カナダの)トルドー首相は月曜日の議会で「インド政府の工作員がカナダ市民であるHardeep Singh Nijjar(筆者注:インド出身のシク教の活動家)殺害に関わっている可能性があるという、信ぴょう性の高い申し立てがあり、これについてカナダ治安当局は過去数週間にわたって積極的に捜査を行なっている。」と述べ、さらに、政府は「実行犯を捕らえて説明させる」ために必要なあらゆる手段をとることになる、と付け加えた。

 

perpetrator、少し難しい単語ですが、「実行犯」という意味です。オンラインの最強語源辞典であるOnline Etymology Dictionaryによると、perpetratorの元になっている動詞perpetrate(過失・罪などを行う、犯す)の構造は以下のとおりになっています。

 

perpetrateのper-はper(完全に・perfectのper)

perpetrateの-petrarteはラテン語のpatrare(存在させる→実行する)から

合わせて「完全に実行する」です。

 

ここで不思議に思ったことがひとつ。

後者のラテン語patrareですが、この単語はラテン語paterから派生していて、paterは英語のfatherと同じ語源で、「父親」を意味するのですよ。両者は綴りも音も似ていますね。ここで・・

 

なんで「父親」が「実行」と関係あるの?

 

という疑問が湧いてきます。みなさん、なんでだと思いますか?

 

そこで辞書を引いてみましょう。実はfatherは「父親」という名詞の意味だけではなく、様々な意味をもつ動詞としての使い方もあるのです。

 

fatherの動詞の意味は主に以下のとおり。

 

1. (子供の)父親となる・父として子を養う

→これはわかりやすいですね。

 

2. (思想・仕組みなどを)創始する、生み出す

→日本語にも「〇〇産業の父」なんて言い方があります。

 

3. (かたい言い方)SVO1 on O2の形で、「(O1行為などを)O2のせいにする」

He fathered his failure on me. 「彼は自分の失敗を私のせいにした。」(ジーニアス英和辞典より)

 

2.と3.の用法が今回の問題に関係あることがわかりますね。「父」が持つ「生み出す」イメージが、「今回の出来事を『生み出した』のはお前だ」という意味を出しています。ここから「父親=出来事を生み出す=出来事を実行する」という意味合いがfatherに宿っていることが推測できますね。

 

この「出来事を生み出す=出来事を実行する」というfatherの感覚はラテン語のpater(父親)にもあって、これが「実行する」という意味のラテン語動詞patrareに派生し、これが今回の主題の英単語perpetrate(犯罪などを実行する)になったわけです。

 

ラテン語の方では「良い行為」「悪い行為」のどちらにも使っていたらしいのですが、英語には法律用語として15世紀頃入ってきたため、「罪」の文脈で使われるようになったそうです。

 

というわけでこれだけウンチクを読めば、perpetrator、もう覚えましたね!テロなどの話でよく出てくる用語です!

 

 

先日アメリカ人の英語講師と2人で全編英語の動画を撮影しました。彼の名前はアダムで、5年以上一緒に仕事をして来た私の相棒です。

その内容を文字起こしして、日本語訳をつける作業をしていた時にふと気づいたこと。

 

「もし(自分が)〜って言われたら」

 

というのを英語で言う時に、私の言い方と、アダムの言い方が違ったのです。別の言い方をすれば、私の言い方は日本語脳に基づいた英語で、アダムの言い方はいかにも英語脳にもとづいたものでした。みなさんでしたら英語でどう言いますか?

 

私は

 

If I am talked to like 〜...

 

と言いました。日本語の「もし自分が〜って言われたら」の形がそのまま英語になっています。

で、アダムはというと、

 

If someone says 〜 to you...

 

と言ったのです。日本語に訳すと「もし誰かが自分に〜って言ったら」です。ちなみにここでのyouは「人一般のyou」といわれるやつで、自分だけでなく、一般論の話をしていたのでこういう言い方になりました。

この話題は動画の中で複数回出て来ましたが、その度に私もアダムも上記の言い方をおたがい繰り返しましたから、これは本当に私とアダムの思考回路の違いが現れたものだと思います。

 

ここで注目すべきは主語です。

日本人である私・時吉は主語をI、つまり「私」にしていますよね。

日本語ってゲームででてくるような1人称視点なんです。自分から見た映像を言葉にする。だから「自分がどうするか」「自分がどうされるか」という思考が強くなります。

でも英語は、これは私の著書「英文法の鬼100則」にも書いてある通り「外からもう1人の自分が自分を眺めている」言語なので、自分からは「離れた」存在であるsomebodyのような他人が主語になるんですね。

日本語脳からすると、ちょっと不安ですよね。自分に起きた話なら自分を主語にしないと不安。自分に起きた(話しかけられた)ことなのに、他人(somebody)を主語にするっていう発想は浮かびにくい。

こういった話をこれまでいろんな本に書いて来たのに、英語を話す時もまだ日本語脳に支配されている自分がどこかにあって、ときどきハッとさせられます。

 

以下忘備録。

 

日本語は自分視点でものを考える傾向が強い。それが当然だという気持ちを日本語話者は皆共有しているから主語がない時はだいたい「自分」から見た話をしていると判断する。だから基本的に「私は」という主語は省略されることが多い。

 

英語はビリヤードのように「力の発生源→力を受ける対象」という流れで話すことが多い。つまり原因を主語とする他動詞構文が多い。The typhoon delayed trains. 「台風が電車を遅らせた」という言い方なんかがそう。この延長にSomebody says 〜 to me.というような「言葉の発生源→言葉の受け手」という力の流れを表す言い方が英語としては自然になる。

 

「自分に起きたことなのに、自分ではなく、原因を主語にする」ことがあるから結果的に「自分を外から眺めている」表現が多くなる。これが英語脳。

 

これらの発想は気づかないレベルから明らかなレベルまで、いろいろな形で日本語全体、英語全体に埋め込まれている。

YouTubeチャンネル「時吉秀弥のイングリッシュカンパニーch」の登録者数が4万人を超えました!ありがとうございます!これからもさらにお役に立つ英語学習の情報を発信していきますので、ご声援よろしくお願いいたします!

 

さて、コメント欄にとても良い質問がありましたのでここでご紹介します。

 

質問:「質問失礼します。崩したらそれと呼べないものにaをつけますが、なぜピアノなどにはaがつかないのでしょうか?」

 

とても良い質問、ありがとうございます。少し長くなりますが最後までお付き合いください。

①「形ある物体としての可算名詞のpiano」と「演奏機能としての不可算名詞のpiano」
a+単数名詞は「ある物体が一つの形丸ごとそこに存在している」ことを表します。ですから、例えばピアノが物体としてそこにひとつ存在していることを言いたいなら、aがつきます(例:There is a piano in my room.「私の部屋にはピアノが1台ある)。


ですが、「ピアノを演奏する」という表現の時、人間はpianoを別の視点でとらえています。例えば「ピアノを『1台』演奏する」というのは日本語でもなんとなく変に聞こえます。なぜならこの時言葉で表したいのは「物体として1台存在しているピアノ」ではなく、「ピアノは演奏することで音を奏でる」という「機能」の話だからです。つまり「ピアノを演奏する」という話をする時、人はピアノを「物体」として捉えず、「(音を奏でるという)機能」として見ていることがわかります。
これは「一回の食事」として可算名詞となるmealと、その食事を「朝用、昼用、夜用のどの機能として食べるのか」ということを表す不可算名詞のbreakfast, lunch, dinnerの関係に似ています。

 

可算名詞と不可算名詞の概念をざっと説明しておきます。

 

例えばピアノをバラバラにしてその部品や破片を「ピアノ」とは呼びません。ピアノはピアノの形が「丸ごと1つ」揃ってはじめて「ピアノ」と呼べます。こうした「形で認識する物体」のことを可算名詞として扱います。英語の世界で「数える」というのは「それ以上崩したらそれと呼べなくなる形」を「1つ」として数えることです。そして「まとまった形が1つ存在している」ことを表す単語が「a」です。一方、不可算名詞は氷や皮、粘土など、「いくらバラバラに砕いても氷は氷、皮は皮、粘土は粘土」という世界で、「材質」を指す名詞です。そして材質というのは「氷=冷やす機能」「皮=保護機能」などのように「機能」と直結しているので(だから何かを作るの時の「素材」になります)、機能を表す名詞も不可算名詞になるのが英語です

 

「食事」を意味するmealは「これで1回分」というまとまりを持ちます。可算名詞の「まとまった形」というのは言語学では「boundary(境界線)」と呼ばれたりします。つまり明確な物理的な形でなくても何らかの「まとまり」があれば可算名詞として認識されます。しかし、breakfast、lunch、dinnerは「mealの用途・機能」なので不可算名詞です。

 

機能が不可算名詞になるので有名なのはschoolですね。1個の建築物としての学校ならa schoolといえますが(例:There is a school over there.「向こうに学校がある」)、「授業」としての学校ならHe is at school now.(彼は今学校だよ=授業を受けているよ)ならschoolは不可算名詞です。


「演奏している時のpiano」は英語話者にとって不可算名詞として見られています。

②他のではなくそれを意味するthe
バンドやオーケストラなどで「〜という楽器を演奏する」時には「play the 楽器」となるのが普通です。これはバンドを構成する楽器がいくつかあって、その中で「私が担当するのは他の楽器ではなくこの楽器だよ」という意味での「区別のthe」です。

③演奏家が自分の演奏する楽器が何なのかを説明する時にはaもtheもつかないことが多い
この説明はジーニアス英和辞典のpianoの項に載っています。
I play piano in a jazz band called X.「私はXというジャズバンドでピアノを弾いている」
この場合のpianoにはaもtheもついていませんが、pianoが1台の物体ではなく演奏機能を表していることでaは不可、そして、theをつけても間違いではないのですが、実際の用法としてtheは省かれることが多いです。これはおそらく演奏家が「自分の演奏の話だけをしていて、他の楽器担当の演奏家と比較しながら何かを話しているわけではない」という心情があるからtheをつけないのではないかと思われます。

④最後に
実際のいくつかの例文を見ながら何が起きているのかを確認して見ましょう。例文はウィズダム英和辞典のplayの項からです。

Well, I'd love to play the piano. I love music, and I do play piano.
(今の職業以外になりたい職業を聞かれて)そうねえ, ピアノが弾きたいわ, 音楽が好きなの, 私ピアノを弾くのよ
→今の職業以外で演奏家になりたい、そして楽団の中で「他の楽器ではなくどの楽器を弾きたいか」ということが意識されるのでthe+楽器となっている

→演奏家が自分がいつも演奏しているのはピアノだということで、play pianoとなっている

Someone's playing a piano.
誰かがピアノを弾いている (「(どんなピアノだかわからないが)ある(種の)ピアノ」の意)
→これは「演奏機能」の話というより、誰かが演奏する音色を聴くことで「そこに物体としての1台のピアノがあるね」という「物体としてのピアノが存在している」話をしているのでa pianoとなっている

Daddy would play my piano and sing before he died.
父は生前よく私のピアノを弾いて歌ったものだ.
→これも「演奏機能」というよりは、物体としての1台の私のピアノが存在していることに注目していているので可算名詞のpianoとなり、「私のピアノ」と限定しているのでa pianoではなくmy pianoとなっている